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銃と宇宙 GUNS&UNIVERSE

2016年から活動しているセルパブSF雑誌『銃と宇宙 GUNS&UNIVERSE』のnote版です。
明るく楽しく激しい、セルフパブリッシング・エンターテインメント・SFマガジン。気鋭の作家が集まって…
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2020年8月の記事一覧

【ちょっと上まで…】〈第十部〉『The past days ~ 過ぎ去りし日々』

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ # <<【 第九部】 へ            >【第一部】から読む< ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 〈第十部〉 『The past days ~ 過ぎ去りし日々』 ――― 【プロローグ】  引き戸が勢いよく開けられた音で目を向ける。  あの気の強そうな小娘が、真剣な面持ちで、  怒りにも取れる思いつめた目をして立っている。  力のある瞳だ。  と、思うが早いか、娘は戸

2-03. 等式では出てこないその表情の理由

 朝ごはんに昨日の残りのカレーをお願いしたら、あーさんは「その前に、燃えるゴミを出してきてくれない?」と言ってきた。  ゴミのことより、先のことを考えなければ。僕らの将来の為に。  仕事をしなくても勝手にお金が転がり込んでくるようになったら、メイドさんを雇って、あーさんを雑事から解放することができる。そして、海外旅行に二人で行ったりして、楽しく暮らすんだ。  アリストテレス先生の時代には奴隷制度があった。  奴隷には「苦役を与える」という悪いイメージがついているけど、

2-02. 人生ゲームの誘惑

「明日は大変なの?」  と、嫁のあーさんが聞いてきた。  日曜の夜は憂鬱だ。仕事の滝が始まるし、明日は「査定」を出さなきゃいけない。地球外のトンデモ技術が、混じっているか否かを判断する査定をだ。地球人の脳みそしか持っていないのに……。  あーさんは「お疲れ様」と言って僕の肩をぽんと叩き、自身の椅子に戻った。おつまみの豆を食べながら、いろいろと話を振ってくる。声優養成所時代の友達が結婚したとか、友達とその旦那さんとが、風呂掃除の仕方について喧嘩してるらしいとか、新しいネトゲ

2-01. 4次元球が通過したら

 あなたは、働かなくても生活できるようになりたいですか?  そう聞かれたら、僕は迷わず「イエス」と答える。時間の許す限り、考えたいことがたくさんあるからだ。 「3次元空間を4次元球が通過したらどうなる?」  塾講師のバイトのときに、社員の先生方とした雑談だった。 「具体例から考えた方がいいよね」  と、先生の一人が言った。  目の前にある、生徒から集めてきた答案用紙。この紙は2次元空間だ。僕は一番上の一枚を手に取る。丸文字の、女子生徒が書いたものだ。  その答案の、空欄

キャプテン・ラクトの宇宙船 第7話

  七 海賊退治  トウキョウを出て二日目。〈はやぶさ〉は燃え盛る太陽に向かってつき進んでいた。メインベルトからは小さく見える太陽が、今ではずっと大きく、そしてまぶしいほどにかがやいている。  そして前方には巨大彗星。うすく光る、大きな長い尾をたなびかせている。  彗星はちりと氷のかたまり。実は小惑星の仲間だ。太陽に接近すると、氷が溶け出しガスとなり、ちりがふきとばされて、あの長い尾が作られる。  この彗星はその中でも特大のサイズ。サングレーザーと呼ばれる、太陽にものすごく

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アンフォールドザワールド 19

19  リバーサイドモールに出現した『謎の巨大生物』は、SNSや動画サイトに投稿され、ニュースにも空撮映像が流れた。だが、一時的に話題になったものの、数日でインターネットのホットワードからも姿を消した。リバーサイドモールは内装の一部が破損しただけだし、けが人は一人も確認されていないし、話題性も薄かったのだろうと思う。  クラウドイーター三人がいなくなってから、一週間が経った。朝の通学路は平和そのもので、日常はむしろ退屈ですらある。 「きずな先輩のユーチューブが、もうすぐ百

かわせ波野夏100とセルパブの行方対談

本日は企画記事として、メンバーによる対談をお送りします。かわせ&波野でセルパブの本質と行方について語り合いました。どうぞお楽しみください。 かわせ:こんにちは。ガンズ編集長かわせです。こちらの『銃と宇宙 GUNS&UNIVERSE』では、メンバーの作品を連載していっているわけですけれども、もう一つ狙いとしましてですね、メンバーそれぞれの活動もご紹介していきたいと思っているのです。  ということで本日は、この度『セルパブ!夏の100冊2020』を無事発行されました波野さんに、

目次

各作品の第1話へのリンクです。 (作者50音順) 神楽坂らせん 宇宙の渚でおてんば娘が大冒険『ちょっと上まで…』 かわせひろし 少年とポンコツロボと宇宙船『キャプテン・ラクトの宇宙船』 道具として生まれ命を搾取されるクローンたち『クローン04』 にぽっくめいきんぐ 汎銀河規模まんじゅうこわい『いないいないもばあのうち』 宇宙人形スイッチくん夫婦の危機を救う『アリストテレスイッチ』 幾つもの世界と揺らぐリアリティ『町本寺門は知っている』 波野發作 銀河商業協同組合勃興記

アンフォールドザワールド 18

18 陽は暮れかけて、空は橙色に染まっていた。橋の上や対岸からは、まだ数人がスマートフォンを掲げ、こちらを撮影している。  ほのかはしゃがんで、足元にいた黒猫を抱き上げる。 「えー、普通の猫ちゃんだと思うけどー。ねえ?」 「ニャーン」  黒猫はほのかの胸に耳を摺り寄せ、甘えている。黒く艷やかな毛と、赤い目。尻尾がやたら膨らんでギザキザしているところ以外は、ほのかの言うように、ごく普通の猫に見えた。 「かわいいね。俺にも抱っこさせて」 「いいよー、えっと、フータくん?」 「俺、