初めての参観日って面白かったな

 まだ肌寒いこの辺り。春のコートに袖を通す時、初めての参観日を思い出す。

 幼稚園の頃の、子供たちと一緒に過ごす楽しい時間ではなく、子供たちが皆、前を向いて先生の話を聞く様子を観る日。たった一か月くらいで、そんな風にクラスがまとまるのか。好奇心にかられて観に行った。

 夫も休みの日だったので、一緒だった。

 算数の授業。
 小学校一年生とは言え、みんな数くらいは数えられるだろうに、そんな基本的なことから習わなくてはいけないのか。
 絵を見て、「何がいくつありますか~」と先生が質問し、子供たちが一斉に手を挙げる。

 「〇〇がいくつあります!」
 「ここに誰それが何人います!」

 一通り答えは出ただろうか。
 静かになって一段落した。のに、息子が手を挙げた。

 「ここの、右下のこの〇〇の横のここにちっちゃく、〇〇が三つあります!」

 ドヤ顔で発表している。そんなに細かいこと言うなんて息子らしい。先生はそんなものまで求めていないんだよ。と思ったのに。
 「ああホントだ。よく見つけましたね。」
 先生が感心した声をあげた。参観日用のパフォーマンスなのか。息子の「見つけた!」をつぶしたくないと思ってくださったのか。

 すると案の定、また新たに手が挙がってしまった。みんながみんな、「ここの隅っこの~」だの「ここの横の角に~」「このシワが~」などと、本当にキリのない細かなことを言いだした。ああ息子のせいで、みんなが重箱の隅をつつくような答えを次々と言い出したよ。止まらなくなって、先生が困っているではないか。
 保護者たちは、笑って良いのかいけないのかと微妙な表情を浮かべている。

 その後、息子は先生が話す度に、「僕それ知ってる」と、いちいちアピール(多分みんなも知っている)。隣りに座る女の子に「~~だよねえ?」と大声で話しかけ(いつもそうしてるのかもしれないけど、女の子は参観日だから、きちんとしなきゃと思っている)。
 一人、異彩を放っている。

 いや異彩じゃないな。目立っているだけだ。



 しばらくすると、夫が小さな声で「ちょっとコレ持ってて」と言うので、「何を?」と思って夫の方を見ると、夫は反対側に向かっている。
 反対側には、私と似たコートを着た奥さまが立っている。
 夫は手元を探りながら、身体をねじってそちらに傘を差しだしている。

 ヤダ、下向いてて、顔を見ていないんだ。コートを着ているってだけで、そっち向いたんだ。こっちに立ってるのは誰だと思ってんのよ!

 しかも、あまりに自然に「ちょっとコレ持ってて」なんて言うから、反対側に立つ奥さまが「えっ。誰だか知らないけど持たないといけないの?」てな風に、両手をなんとなく差し出そうとしているではないか。

 「ちょっと! こっちだよ!!」

 小声で言って夫をぺちぺち叩いて袖を引っ張ると、ハッとした顔で私を見て、傘を渡してきた。二人で「すみません」と、反対側の奥さまに小声で謝ったけど、もう笑いが止まらなくなってしまった。


 誰か助けて。私の夫と息子が面白すぎる。


 今も時々、その光景を思い出しては笑ってしまう。
 
 そう言えば、高校三年生ともなると、子供が自分の知っている顔とは別の顔で、何かに取り組む姿って、もう見れないんだな。
 とも思う。最近。


#エッセイ #参観日 #人違い #笑う #春のコート

読んでいただいて、ありがとうございます! 心に残る記事をまた書きたいです。