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友人からの手紙に思う~心の病について少し~

 0歳2か月、ほぼ生まれたての息子を抱えて、区役所の集まりに行った。誰か知り合いがほしくて。不安でいっぱいで。みんなどうしているのかなと思って。
 
 そこで知り合った友達。

 最初は何とも思っていなかった。ただ「娘が寝過ぎて、接する時間がほとんどない。こんなんで情緒は発達するんでしょうか」と言っていたので、そんな悩みもあるのか! と驚いたのは覚えている。
 
 彼女は公務員で、一年間の育休を取っていた。
 声が細くて高くて、すごくよく喋る。ちょっと翻弄されやすい危うさはあったけど、でもどこか毅然としたところもある印象。特に自分を謙遜する作業には余念がない。頑なとさえ思ったほどだ。

 夫婦仲は良かったけど、ダンナさんは単身赴任。娘ちゃんは私の夫を見ると、やたらになついて可愛かった。
 二人だけで近くの公園をベビーカー押しながらお喋りする日もあった。彼女は間を開けたくないタイプのようで、ずっと喋っていた。私にも話を振ってくれるけど、私はかなり笑いっ放しだった記憶がある。ちょっとあたふたしていて、キャッキャとした彼女も好きだった。

 ある日、札幌駅のデパートの一角で「赤ちゃん連れて遊びに来て下さい」とした、ちょっとした集いがあった。皆で誘い合って参加し、終わってから、彼女が急にくるりと私たちの方を向いた。
 「あのーもうすぐ職場復帰なので、みんなとあんまり会えなくなるけど、出会えて良かったです。今までいっぱい遊んでくれたりしてありがとう。どうしても言いたくて。エヘヘ。」
 
 その態度と言葉に、私は彼女がもっと大好きになった。ずっと彼女と友達でいたいと思った瞬間だ。この言葉がとても印象的だったんだよと、私も後で伝えた。

 札幌離れても、彼女とはずっと連絡を続けた。

 ダンナさんの単身赴任が終わる時には、「戻ってきてくれて嬉しいね!」と書くと、「嬉しいんだけどね! ちょっとだけ家事が面倒くさいのも本当」と返事が来た。彼女のエヘヘの顔が目に浮かぶようだった。

 自身の仕事では一度、長期出張を言い渡され、娘が幼いからどうしてもイヤだと書いていたので、「困る」って気持ちを上司にとりあえずでも伝えてみたら? と返事した。
 「じゃあ今回は良いよって言ってくれた!」と嬉しそうに報告してくれた。

 私がイヤな思いをして愚痴をこぼすと、彼女は「イヤなこととか心の中のグチャグチャって、必ず消えていくものだから。今はグチャグチャでしんどいと思うけど、時間が経つと減ってくーって私は思うようにしてるの」と言ってくれた。
 今も辛くなると、時々その言葉を心の中で反すうする。

 喪中ハガキが来た時にクリスマスカードを送ると、「こんなのしてくれた人、初めて!」と喜んじゃって、喪中だけど、キャッキャとした内容の返事をカードで送り返してくれた。

 色んな返事が、いつでも彼女らしい。何を書いても彼女の個性が可愛くて嬉しかった。

 その何年か後、しばらく連絡がないと思ったら、「乳がんになっちゃったの」と書いてきた。もう手術も入院も終わったとの連絡。
 「今はね、代わりの胸をつけているんだけど、それが元のよりサイズアップで、カッコ良いんだよ。スタイル良く見えて気に入ってるんダ」と書いてある。

 心配させないようになのかもしれないけど、彼女のことだから本気で少しウキウキしちゃっているのが想像できて笑ってしまった。

 私には、20代で乳がんのために亡くなった友人がいる。
 でも札幌の彼女は元気で、冗談も書いて手紙を送ってくれる。それ自体がありがたく思えた。

 いつでも可愛くて可笑しくて、はつらつとしている彼女。

 親戚や先生宛以外の年賀状を辞めようと私は、昨年や一昨年の暮れ、大切な友人たちにクリスマスカードを送った。彼女にも。
 でも返事がないから、段々私たちも連絡し合わなくなるのかなと寂しく思っていた。

 すると先日、突然手紙が来た。

 「ん?」

 彼女の字だけど、何か違和感がある。

 開けると一枚しか入っていない。素っ気ない?? と思ったら「うつ病になっちゃった」とガタガタの字で書いてある。「こまったことに、なぜか字がうまく書けないし忘れるの」「でもだいじょうぶ!」って。

 その事実以上に、字がショックで泣きそうになった。
 信じたくなくて差出人を改めて見る。確かに彼女だ。でも自身の名前の漢字が間違っていた。手紙にも誤字がたくさんあって、修正液もたくさんついている。
 動揺を隠せなくてそばにいた夫に話した。

 今も私は泣きそうだ。彼女に何もしてあげられない。そばにもいてあげられない。話もすぐに聞けない。スマホのデータは一度飛んでしまったので、彼女のアドレスは今手元にない。

 でもきっと近くに住んでいたとしても、彼女は人に会う気になれないだろう。

 とにかく何か返事を書いて送ろう。
 私は水くさいのが一番嫌いだから、彼女が私を信頼し、それを知らせてくれたことに何よりまず感謝しようと思った。


 悩みとか心配事とかうまくいかない日々、辛い気持ち。皆さん、いっぱい持っていると思う。でもどうか、吐き出して下さい。身の回りの友達に。専門家に。そしてここnoteで仲間がいるのなら文章で。
 一人で抱え込まないように。
 きっとアナタの信頼できる友達は、どんな内容でも受け止めてくれる。世の中、予期しない出来事は起きるし、感情も揺れるし、自分と違う人間だらけなのだ。もし受け止めてもらえなかったら傷ついちゃうけど、そうしたらまた別の信頼できる人に。必ず受け止めてくれる人はいるから。思うような答えをもらえなくても、受け止めてくれたらそれで良い。変わらずにアナタと付き合いを続けてくれたら、それで良い。

 人で傷ついても、癒してくれるのもまた人。

 一人では乗り越えられない気持ちも、人がいたら乗り越えられるから。試してみて。

 彼女が引き続き私を信頼してくれるかどうかわからないけれど、また彼女からの便りを待っている。

#エッセイ #友達 #友人 #手紙

読んでいただいて、ありがとうございます! 心に残る記事をまた書きたいです。