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将棋は、私にとってそれほど縁遠いものではないのだ

 「将棋のこと考え過ぎて、ランドセルを学校に置き忘れて帰ってしまった」だって!
 棋聖のタイトルを獲った藤井聡太の話だ。
 そのエピソードを息子と聞きながら話した。

 「へー! お母さんなんか、何にも考えてなかったのに、家にランドセル置き忘れて学校に行ったことあるよ!」

 何も考えてなかったのに……。

 藤井聡太は息子と同じ年齢だ。頭の中はいったいどうなっているのだ。


 今、藤井聡太が挑んでいるのは、木村一基王位。

 木村一基は私より少し年下程度で、夫と度々、対局を観に行っていた頃、20代の若者だった。

 「この人ね、昔若かったんだよ」って、夫はよく面白がって私たちが若かった頃、10代や20代で売れたタレントを見て息子に教える。
 当然、木村一基が画面に出た時も。私が積極的に言う。「この人ね、昔は20代だったんだよ」。

 夫は昔から将棋が好きで。
 結婚して札幌に住んでいた頃。まだ子供がいなくて、二人でよく将棋の対局を観に出かけた。プロ棋士たちが対局をするホテルや近くの施設で、やはりプロ棋士が解説をしてくれるのだ。

 対局は温泉地でもよく行われるので、それに合わせて宿泊に行くと、偶然棋士と部屋が隣りだったこともある。なんてことない部屋にプロ棋士も泊まるんだ!

 その後、エレベーターで温泉の階に上がりドアが開くと、私たちのファンの棋士が立っていて、そのオーラにたじろぎながらすれ違った。きっと私なんてあからさまに「ハッ!」とした表情をしていただろう。
 「もうちょっと早く温泉に入りに来てたら、一緒にお湯につかれたね!」と後で夫に言ったら、「そんなの照れちゃうよ」と言っていた。確かに。

 翌日の朝食バイキングでは、たくさんの棋士を発見して、夫と「〇〇が納豆食べてるよ!」とささやいたりして二人で静かに喜んだものだった。

 私は将棋に関しては、ルールを知っているだけ。でも解説を聞くのはなかなか面白かった。次の一手を予想したり、何故その手を指したのか解説したりも、有名棋士が話してくれる。時には棋士の面白エピソードも話してもらえて、一人ひとりの人柄も感じられる。

 次の一手予想クイズでは、当てると中から抽選で記念品をもらえる。
 私はうっかり、「これはあまりないんじゃないか」って手を、「いや私はそれが良いと思う!」と根拠もあまりないままに当ててしまったことがある。解説の行なわれた施設の壇上に立たされ、記念品を直接いただいてしまった。恥ずかしいやらで慌てふためき、挙動不審になった私を見て、プロ棋士が「もっとわかる人にプレゼントしたかった」という趣旨のことを言った。とんだ恥だ。夫も「かせみどんは、緊張するとあんな感じになるんだ」とニヤニヤ笑っていた。
 やっぱりちゃんとわかる人に行き渡れば良かったよね。でも夫が将棋大好きだから許してよ~!

 夫は当時、将棋のソフトやオンラインで対局したり、本で詰将棋を解いたりしていたけど、私はもっぱら棋士たちのエッセイ本を読んで、その個性を知った。
 私たちは羽生世代だ。羽生世代は年上、年下を含め、大変充実していた。

 渡辺明が活躍を始めた頃は、「すごい人が出てきたみたいだよ!」と話題にはなったものの、息子ができた頃で、夫も私も人の対局をゆっくり楽しむ心の余裕はなくなっていた。

 息子の名前は、二人の棋士から取っている。品が良い共通点があり、一人は誠実で人からの信頼が当時から厚く、もう一人は周りに可愛がられていた。
 でも別に息子に将棋が上手くなってほしかったとかではない。愛嬌があって品の良い、誠実な子になれば良いなと思っただけだ。

 息子は、将棋にそれほど興味を持たなかった。友達で将棋やチェスの好きな子がいて、その子にいつも負けていた。人並みにゲームに負けるのはいやがったけど、将棋に関してはそれほど悔しがってもおらず、執着はないようだった。強い友人がよそ見をしている間に、こっそり駒の位置を変えて「もー!」って怒られては「うへへへへ!」と嬉しそうに笑っていた。
 
 この前、渡辺明が、藤井聡太に棋聖を奪われた。

 最近、加藤一二三や藤井聡太のおかげで、久しぶりに将棋のニュースが多いから、夫と「ちょっと! あの人こんなにおじさんになったよ!」と懐かしく見る。

 藤井聡太の快挙には、ただただ感心するばかりだ。きっともう少し年月経てば、同じ年頃の強い棋士が他にも出てきて、藤井聡太の世代も賑やかになってくるだろう。
 そして息子が私たちの年齢になった頃、「この人たち、昔若かったんだよ」って言うかもしれないなあ。

#エッセイ #将棋 #棋士 #息子の名前  

読んでいただいて、ありがとうございます! 心に残る記事をまた書きたいです。