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街なかでは、やり過ごしてもらった方がラクな時

 駅の改札近くで、配っているチラシを「この人じゃあない」って、やり過ごされるようになった瞬間を覚えている。あからさまに「私には渡されない」って気が付いた。30歳手前。


 要らないのに。受け取るの面倒くさい。無視するのも面倒くさい。いずれにしても、受け取ってくれるかなっておずおずした気持ちを感じたり、強引に押し付けられたり。構われるのが面倒くさい。
 それまでは、そんな風に思っていたから、スカされて拍子抜けしたけど、「あっ解放されたんだ」と存分にその気分を味わった。
 きっと今後、受け取る機会は減っていく!

 どこかの店に入って何か悩んでいても、自分から声かけるまでは放っておいてくれるようになっていった。
 悩めるだけ悩める。


 あれから20年ほど。
 昨年、カーストアで、サンシェードを物色していたら、店員に声をかけられた。

 感じの良い表情と愛想の良い喋り。
 あれ。この感覚。こんな雰囲気で声かけられるの、すごく久し振り。なんだろう、懐かしいなあ。相手の表情の柔らかい感じ。優しいこの感じ。久しく経験していない! と思いながら、説明を聞いて質問していると、少しずつ相手の表情が変化しているのがマスク越しにもわかった。

 そう。

 マスク越し。

 マスク越しなんだ。
 お互い。

 なるほど。

 遠目で、私を若いと思ったんだな。と気がついた。

 みるみる笑顔が真顔になっていく。

 近くで話してみると、声が低いでしょう? 
 マスクで隠しきれないシミやシワが見えるでしょう? 
 目元もシミとシワだけじゃないまぶたの弛緩とか、よく見えるでしょう?
 ヘアマニキュアの、奥の白髪が光っているでしょう?

 何となく覇気がなくなった店員だったけど、おかげでどれにするか決められた。
 「いやあ。久し振りにふわんと嬉しそうなゴキゲン店員と喋ったわ」と、なんだかんだ悪い気はしなくて、懐かしく面白い時間となった。

 まあでもね。私は性格上、面倒くさいと思う方。どうしても困った時や、わからない時は自分で聞くからさ~。自分で探させて。自分で選ばせて。要らない物に気を使わせないで。私は構わずに、やり過ごしてもらった方がラク。
 って思っているけど、言い出せない人とか困っている人もいるだろうしなあ。店員側ってきっと難しいよね。
 
 願わくば、相手によって態度を変えないでほしいけど、きっと私に声をかけてくれた店員さん、無意識に出ちゃったんだろうなあ。

 マスク生活になってから、ちょこちょこある出来事なのだ。


#エッセイ #マスク #マスク越し #店員 #懐かしい #無意識 #本心

読んでいただいて、ありがとうございます! 心に残る記事をまた書きたいです。