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二人三脚

私はほんとに運動が苦手で、小中高と、体育のある日は休みたいと思っていた。
運動会の練習がある1ヶ月や、マラソン週間は毎日休みたかった。
鬼ごっこで、みんながすごい速さで走りながら笑って話しているのを見て、
息切れしながら、何かの間違いじゃないかと思った。
いつも「豆腐」で、捕まっても鬼にならないのに走る虚しさがあった。
大学生になった時、体育が必修じゃないことが一番うれしかった。

そんな私も、運動で楽しかった思い出が一つだけある。
小学校の父親参観日にクラスの親子で二人三脚のリレーをしたことがあって、
練習もなく気楽なレクレーションだった。
内側の足をタオルできゅっとしばると、父は足をポンとたたいて、
「こっちの足から行くでね」
とやや照れくさそうに前を見たまま言った。
前の親子が行って帰ってくると、ぼんやりしていた私に父が、
「ほい、いくぞ!」
と声をかけるや走り出した。
不思議と一歩目からまるで一人で走ってるように自然に走ってた。
一人の時より速く走ってたかもしれない。
後ろで同級生が、おお、速ええ、と言ってるのが聞こえた。
私が走って速いと言われるなんて!
あいつにしては速いってことだったかもしれないけど。
そのリレーでチームが勝ったかどうかなんて忘れたけど、
あの何秒間かの軽やかな気持ちは覚えてる。