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こどもとギターとピアノ

機関車トーマスは、こどもが最初にはまったテレビ番組で、
ついこのあいだ、新しいシリーズに変わってしまう前まで10年は見ていた。
幼稚園に持って行くコップもお弁当箱もトーマスだった。

年中さんの頃、トーマスで「マックスとモンティはらんぼうもの」
というお話が放送され、気に入って何回も見ていた。
マックスとモンティはちょっと乱暴なダンプカー。
土をザバーとやっちゃうところがおもしろかったのかな。
このお話のBGMが、何かエレキギターをジャカジャカ鳴らしてるもので、
こどもはそれを繰り返し口ずさんでいた。

「ギター弾きたい」
こどもが言い出した時、音楽に興味を持ってくれた!と私はうれしかったけど、
ギターかぁ、どうしよう、と困惑もした。
吹奏楽部だったから管楽器か打楽器ならだいたいどういうものかわかる。
クラシック音楽が好きだから弦楽器も弾けなくてもなんとなくわかる。
幼少期にヤマハの音楽教室に行ってたから鍵盤ものも多少わかる。
ギターは、あんまりわからない。

わからないというのは、楽器の姿や演奏法だけのことじゃなく、
どんなメーカーがあって、いくらくらいで初心者が使うまあまあの物が買えて、
いくらくらいだと安物でダメで、プロだといくらくらいの使ってて、
地元だとどこの店がいいか、試奏したほうがいいか、
付属品は何と何が必要で、ふだんのメンテナンスはどういうことが必要で、
などなどを知ってるかどうか、ということで、
私にはギターの知識がなかったし、夫にもなかった。

夫はそもそも音楽や楽器に世間の平均値くらいの興味しかないから、
「楽器って高いよね、何万、何十万するなんて。
ギター?言ってるだけですぐ飽きるだろ。要らんと思う。
ギターまだ大きすぎるし、ウクレレでいいんじゃない?」という感じだった。
私はこの熱量ならほんとに弾きたいのかも、と思って、
ギターが弾きたいのにウクレレじゃダメだろうな、と
ネットでギターについて調べはじめた。
とりあえず、エレキギターとアコースティックとクラシックギター、
フラメンコギター、などの種類があるらしいな、というところから。
弦は6本なのも知らなかった。ナイロン弦、スチール弦、木の種類、
どんなメーカーがあるのか、子ども用サイズはあるのか。

こどもはその間もギターギターと言っていた。
そのころ、リトミックとピアノが半々の音楽教室に行っていて、
それの練習用に電子ピアノが家にあったけど、
どうもピアノは好きじゃないらしかった。
電子ピアノが家に来た日、自動演奏機能は喜んで鳴らしていたけど、
練習はしぶしぶという感じだった。

浜松市に楽器博物館があって試奏できる展示楽器もあり、
ギターも触れるらしいと知って、行ってみた。
ギター弾いてみたいでしょ、と言ったらこどもも出かける気になった。
主目的はギターだけど、他の楽器も見て周り、
ピアノの鍵盤のアクションの進化の模型を順に動かしてみたり、
弾いてよいと書かれている鍵盤楽器も弾いてみた。
こどもは幼稚園で習った「メリーさんのひつじ」を弾いた。
それも楽しそうだったけど、やはりギターを持ったときがうれしそうだった。

こちらのホームページでバーチャルで館内が見れる。
西洋楽器、古楽器、電子楽器、民族楽器、楽しい。

そうこうするうちに、こどもは今度はコブクロとゆずにはまった。
工作好きだったので紙でギターを作り、弾きまねをしだした。
お父さんにドラムをやれと言い、家にはドラムもスティックもないので、
お父さんは定規をスティック代わりに持ってペシペシとテーブルを叩いた。
“ドラム”はいまいちリズムに乗れてなかったけど、こどもは気にせず、
リビングでコンサートごっこをしていた。
曲は映画『カーズ3』に使われた奥田民生の『エンジン』など。
私はお客さん役をしながら動画を撮った。

音楽教室に向かう車の中で、珍しくしゃべったと思ったら、おじいちゃんに、
「大人になったらバンドの人になろうと思うんだよね」と言った。
私も初耳だったけど、ビートルズが好きな私の父は「ほほう!」と喜んでいた。

こんなに好きなんだから買ってあげようよ、と私が言い、
夫はそんなに気が乗らないようだったけど一応納得し、
メーカーと機種を決め、3人で楽器屋さんに行って、
ついにギターがうちに来た。トーマスのBGMから3年か4年経っていた。
こどもの希望通り、肩のところが欠けた形のアコースティックギター。
チューナーが内蔵されてる。
普通のサイズだけど、こどもは体が大きいほうなので問題なかった。

弦の世話とチューニングはお父さんが担当になった。
たぶん夫はチューナーは周波数の計器と思っているし(そうだけど)、
弦の張り替えは一種の工作だと思っていて(まあそうだけど)、
音楽というより工学的にギターを見ている気がする。

こどもは気が向くと本を見ながら弾いていた。
ギター教室に通うとかオンラインレッスンを受けるとかする気はないと言う。
リトミックとピアノの音楽教室は少し前にやめたところだった。
決まった時間にどこかへ行く、というのが苦痛らしい。
家にいても、決まった時間に決まったことをするのも苦手らしい。

コードを押さえるのはかなり難しそうだった。
私も夫もやってみたけど難しい。難しいと言われるコードはほんとに難しい。
こことこことここを押さえて他を押さないようにするなんて無理!ってなった。

メロディを弾くのはどうかと、違うタイプの入門書も買ってみた。
いろいろやっていて、ある時「だいたいわかった。弾けた」
と言うと、それからあまり弾かなくなった。
弾けたといっても、この弦でここ押さえるとこの音で、というのがわかって、
初見の譜読みをした、くらいの、たどたどしい弾き方だったけど、
つっかえながらも一回弾いた、で満足したらしい。
それからはパソコンの時間が増え、ギターがホコリをかぶっていった。

夫はほらやっぱり、と思っているようだった。
私はもっと早く与えてたらよかったかも、と思った。
こどもとしては、ギターはどういうものかわかったので、
上手く弾けるようになったわけじゃないけど気が済んだのかもしれない。
タイミング的にはギリギリ間に合った、というところかも。
わからないけど、ギターが元から家にあっても、無いままでも、
あの数年間がこどものギターブームだったのかもしれない。

電子ピアノは最近、妹がもらっていった。
私と妹、一緒に数年音楽教室に行ってたけど、
妹のほうが鍵盤ものへの縁があるというか情熱が強い。
私は鍵盤より木管楽器が好きだけど悲しいかな肺活量がない。

家から電子ピアノがいなくなって私はさみしい。
自動演奏に入ってた曲をたまたま耳にすると切ない。
ブラームスの「6つの小品」の間奏曲Op.118-2
こどもはもうパソコンに夢中なので平気そう。
夫は「広くなったね」と清々したようす。

ギターはまだある。
私が弾こうかな、と時々思う。

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