耳そうじ、父と私とこども
私がこどもの頃、私の耳そうじは父がしていた。
母に耳そうじしてもらった記憶はなく、毎回父だった。
「耳そうじしたげるで、おいでん」
時々そう言われて、あぐらをかいた父の膝に頭を乗せた。
「まあちょっとこっち向き、そこ」
耳をひっぱりながら、耳かきで。
「・・・いっぱい取れた。・・・よし、反対の耳」
いっぺん、痛いと言ったら、
「どこが痛いだん?引っぱっとる耳たぶか?中か?」
と聞かれ、どっちなのかわからなかった。
「わからんのかね。これは痛いかね?これは痛いかね?」
父はひとかきづつ慎重にやっていた。
耳の話になると決まって父が話すできごとがあった。
「あんたが小さいときにやあ、なんでだったか母ちゃんが忙しくて、
わしがあんたを耳鼻科に連れてったことがあっただけど、
耳あかが取れんで見てもらってって言われとったもんで、
そう言って見せたら医者がやあ、
『こんなんなるまでほっとくなんて、あんたそれでも親か!』
なんて言って、父ちゃんが叱られただよ。
ありゃあ、いまだに忘れん。それでも親か、って。
わしは頼まれて連れてっただけなのに、えらい目にあったよ」
よほど耳あかが詰まっていたらしい。
父は大人しくて繊細なほうだから、こたえたのだろう。
その件があって、母には任せておけんと思って耳そうじしていたのかも。
母は母で心配性なところもあるのだが、どこかのんきで大雑把でもある。
最近は、耳そうじはしないほうがいい、耳かきは良くない、
入り口だけ綿棒で、などと聞くけど、
私は耳あかがたまりやすい体質だったのかもしれない。
自分にこどもが生まれて10年、こどもの爪切りも耳そうじも、100%私で、
夫は一度もしたことがない。
ベビー用の小さなハサミの爪切りに指が入らない、という言い訳から始まって、
なんとなく、こどもの散髪まであれもこれも私が担当になってしまった。
赤ちゃんの耳の穴は、ベビー綿棒でも太すぎると感じるほど小さく、
耳あかを押し込んでしまったらいけない、と思うとこわくて、
自然に出てきます、という説を信じて様子を見ていた。
様子を見つつも、もしかして昔の私みたいに詰まるんじゃないかと心配だった。
すると、たまにベビー布団の頭の付近に何やら茶色いかけらが転がっていて、
何だこれは?としばらく考え、耳あかだ!とわかった時の驚き。
しかも小さな耳にしては大きく、耳の穴いっぱいにはまりそう。
拾っておいて夫に見せたら、「うそやろ!」と期待以上に驚いて、赤ちゃんに
「こんなん入ってたんか!耳、聞こえてたか?」
と話しかけていた。
そんなのが何回かあってから、だんだん耳が大きくなって、
でもまだ耳掃除は怖くて、一度は耳鼻科に連れて行って取ってもらった。
医師が静かに取って、
看護師さんが「これだけ取れましたからねー」と見せてくれて終了。
その後、ベビー綿棒で月一回くらい掃除しているけど、まだ緊張する。