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こどもが生まれたのは日曜日

今月はこどもの誕生月。

こどもが生まれたとき、産院で、個室に3人の看護師さんだか助産師さんが入ってきたことがあった。赤ちゃんの聴力か何かの検査の日だったかもしれない。
「この子、しっかりした顔してるわ」
「うん、表情がしっかりしてる」
「ねえ。目がね、視線がちゃんとしてるもん」
3人がそう言ってるのを聞いて、そうなのかー、と1人しか産んだことのない私は思った。

そんな事があったからか、育てながらも、何も言わない赤ちゃんの表情から、
「言ってること分かってるよね」
「うん、分かってる顔してる」
と夫もともに(勝手に?)読み取っていた。

赤ちゃんは何もわからない、というのも全くの間違いではないと思うし、なんでも分かってるとは思わないけど、赤ちゃんはしゃべれないだけで、大人と同じではなくとも、結構いろいろとわかって感じ取ってる、と思っていた。
だから夜は寝かしつけながら「明日は何時頃おばあちゃんが来るよ」と予定を話しかけ、昼は今こう思ってるんじゃないかなということを想像して「ぼくは退屈です。お父さん遊んで」「それは興味ありません」「あ~眠い〜まだ遊びたい〜眠い〜眠れない〜遊びたいけど疲れた〜もうなんだかわからないけど悲しくなっちゃった〜うわ~ん」などと代わりにしゃべっていた。
こどもが大きくなってきても黙ってるときはずっと代弁し続けていて、6歳位からだったろうか、私が代わりに言ったあとたまに「チガウ」と言うようになった。

ずーっと遡って、お腹にいるときも何かしら分かってたんじゃないかと私は思う。

逆子だと言われて逆子体操(ストレッチみたいなもの)をやるように言われてたころは、「この向きだと出てくるとき出にくいから向き変えたほうがいいよ」と連日おなかに話しかけていた。その声が届いたのか、逆子体操が効いたのか、ほっといても直ったものか、もはやわからないけど、一週間後くらいにぐるぐると動いて逆子は直った。

夫の会社は基本、土日休みで平日は祝日も出勤。妻の出産とあらば早退できるけど仕事内容によってはすぐ帰れないかもしれない。だから土日に生まれてくれるといいよね、と話していた。

出産予定日は金曜だった。
予定日には生まれなかった。
土日も生まれなかった。
月曜が来て、火水木と過ぎて、次の金曜になっても生まれなかった。
孫が待ち切れない私の父から「まだ生まれんかね?」と電話がかかってきて、普通に私が電話に出たのでがっかりしていた。

日曜日の午後、一人、FMでクラシックを聴いて休憩(貧血気味で少し動くと酸欠だったので休憩は必要だった)していたときだった。あ、破水した、と思った。その瞬間に胎児がバタバタバタッと激しく動いた。赤ちゃんがしゃべれたら「うわああ〜」と言ったんじゃないかと思う。急に水圧が変わってびっくりしたんだろう。幼児期のこどもは驚いたりうろたえると「あわわわ」という感じでその場でくるくる回ることが(楽しいときもくるくるしてたけど)あった。破水の瞬間もそんな感じだったんじゃないかな。

私はトイレに行ってみて、やっぱり破水かな、と思い、念のため産院のプリント類の入ったファイルをめくって、破水したら電話、というのを確かめ、電話をかけた。そして来院するように言われて、とっくにまとめてあった入院荷物を持ち、会社にいる夫にメールを入れ、タクシーを呼んで一人で産院に行った。陣痛は来てなかったから平気だった。

夫は会社を早退して夕方産院に来て、出産にも立ち合い、両実家に電話していた。

なぜ日曜なのに夫は仕事だったのか。それは2011年だったから。東日本大震災後の電力不足のため、平日に集中する企業の電力消費を分散させるために、夫の会社も一時的に土日休みじゃなく平日休みになっていた。

結果的に何も問題なかったけど、こどもが生まれた日はお父さんの休みの日じゃなかった。せっかく日曜日だったのにお父さんは仕事だった。
「ほんとだったらお父さん休みの日だったのよねえ。ちゃんと日曜日に生まれてくれたのねえ。えらいねえ。いい子やねえ」
と遠方から見に来た夫の母は話しかけていた。

「だって土日に生まれてほしいって言ってたじゃないか」とこどもは思ったんじゃないか、と私は思っている。想像に過ぎないけど。そして振り返ってみると、生まれ方もマイペースでこどもらしかったな、と思う。

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