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【書評】毒親の呪縛と解放~『愛されなくても別に』(武田綾乃)

ここ最近、「毒親」というワードをよく聞くようになりました。あまりいい言葉ではないと思いますが、親子関係で悩んでいる人が多いのも事実です。そんな「毒親」に関する小説です。武田綾乃さんの『愛されなくても別に』『響け!ユーフォニアム』で有名な作家さんです。

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1、内容・あらすじ

主人公は大学生の宮田陽彩(みやたひいろ)。

陽彩は大学に通いながら、昼夜を問わずアルバイトに明け暮れています。遊ぶ時間もお金もありません。

学費は自分で払わなければならず、さらに毎月家に8万円を入れなければなりません。

母親と二人暮らしですが、母親はいわゆる「毒親」。男遊びを繰り返し、浪費家で家事も陽彩に押しつけます。

友達もおらず、精神的にすり減る毎日を送っていましたが、そんな中で陽彩は二人の同級生に出会います。

一人はド派手で孤高を保っている江永雅。もう一人は真面目そうな木村水宝石(あくあ)。

陽彩と二人の共通点は、母親が「毒親」ということでした──。

2、私の感想

最近よく聞く「毒親」に関しては、精神医学や脳科学分野から述べられた本はよく目にしますが、小説は読んだことがなく、手に取りました。

親から受ける影響は、後々まで相当に尾を引くものだな、という感想を持ちました。

陽彩、江永、木村という3人の大学生が出てきますが、彼女たちの母親はそれぞれタイプの異なる「毒親」です。

あからさまに虐待をするようなパターンと同じくらいに、陽彩の母のように愛情で縛る親もたちが悪いなあ、と思いました。このパターンはかえって抜け出しにくい気がします。以下の文章が印象的でした。

私は、母の愛を疑いはしていない。彼女は私を愛していた。そんなことは分かっている。だが、それが何だというのだろう。愛情は、全てを帳消しにする魔法じゃない。

孤高の同級生、江永と会うことで話がどんどん動き出します。「この二人には何とか幸せになってほしいなあ」と思いながら読み進めました。

後半、陽彩と江永が出会った本当の理由が明かされますが、ホロリときました。

毒親がテーマだと陰惨な展開になりがちですが、ちゃんと救いのある話でよかったです。

私の仕事でも、色んな問題が「自己肯定感」という言葉で説明がつきます。その意味では勉強にもなる小説でした。

3、こんな人にオススメ

・「毒親」について知りたい人
小説を通じて「毒親」の実態とその影響を知ることができると思います。

・教育関係者
今、接している生徒にもこういう親を持つ子がいるのだろうな、と思いながら読み進めました。

・自己肯定感が低い人
毒親とまではいかずとも、親子関係が原因で自己肯定感が低くて悩んでいる人は共感できるかも知れません。



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