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生き残るコミュニティの3要素【オンラインサロンの心理学】

2018年から2019年は、オンラインコミュニティやオンラインサロンと呼ばれるサービスが流行した年でした。

ただ流行というものの常として、成功の陰には少なくない死体があるわけで・・・。

なにごとも『始めるよりも続けることが難しい』と言われます。

オンラインコミュニティもその例にもれず、続けていくことは始めるよりもはるかに難しいようです。

このnoteは、僕が多くのオンラインサロン・オンラインコミュニティで活動する中で学んだ『コミュニティが持続するために必要な心理学的要素』を紹介するものです。

このnoteのおもな対象読者は、オンラインコミュニティの運営者や、オンラインコミュニティの仕組みに興味のある人々になります。

特定のコミュニティの批判や告発や称賛とかではなく、わりと学問的に真面目な考察なので、ゴシップに興味のある人にはつまらない内容かなと思います。

それでは、はじめていきましょう。

『生き残るコミュニティの3要素』とは一体、なんなのか?


オンラインサロンへの参与観察

ところで、『参与観察』ってご存知ですか?

これは人類学などの社会科学の分野で用いられる研究手法なのですが、簡単にいうと、「特殊な集団に一員として参加して、内部からその集団を観察して研究する」ことです。

いわば「潜入捜査!」って感じですね!

この参与観察は心理学でも用いられていて、有名な例として、世界的なベストセラー『影響力の武器』があります。
この本は、著者である大学の心理学者ロバート・チャルディーニが、実際に営業マンや募金活動家や広告マンたちの世界に「3年間も潜入して」学んだ承諾誘導のテクニックを、心理学的に考察するものです。
とても面白いですよ。


さてさて、この参与観察には、もっとも「威力を発揮する」場面があるといいます。

それは「外部の人には閉ざされているような特異な集団」の調査です。

オンラインサロンやオンラインコミュニティというのは、なかなか不思議な特徴をもっています。

インターネットという「誰でも参加可能な開けた仕組み」を土台にしながらも、「制限されたアクセス」「閉じたつながり」を特徴としているのですから。

オンラインコミュニティはその閉鎖性から、社会学者にとって、とても魅力的な参与観察の対象だろうと思います。

さて、僕は社会学者ではありませんが、奇遇にもこの1年、多くのオンラインサロンやコミュニティに参加することができました。
つまり、オンラインコミュニティへの参与観察ができる立場にあったのです。

このnoteでは、僕が複数のコミュニティへの参与観察で得た「持続するコミュニティがもつ要素」を考察します。

結論から紹介すると、持続するコミュニティには、以下の3つの要素があります。

1,  類似性の高いメンバー
2, 認知的不協和の設計
3, オフラインでの同期活動

この記事では、これらをわかりやすく説明していきます。


コミュニティは、メンバー同士のコミュニケーションこそが命

本題である条件を説明する前に、『この3つの要素がコミュニティに何をもたらすのか?』について、まずは知ってもらう必要があります。

これから紹介する「3つの要素」は、すべて『メンバー同士のコミュニケーションを活性化すること』を目的としています。

なぜなら、メンバー同士のコミュニケーションこそが、コミュニティが持続するためにもっとも重要だからです。

メンバー同士のコミュニケーションのなくなったコミュニティは、崩壊します。

これから紹介する 『3つ』は、『メンバー同士のコミュニケーションを活性化する3つの心理学的要素』だと考えてください。


1, 類似性の高いメンバー

あなたは、仲の良い人と、そうでもない人とでは、どちらのほうが口数が多くなりますか?

もちろん、仲の良い人とのほうですよね。

そのためコミュニティにとっても、メンバー同士に仲良くなってもらうことは重要なのです。

では、どうすればメンバー同士を仲良くすることができるのでしょうか?

心理学は、その方法を明らかにしています。

その1つは、「メンバー同士の類似性を高めること」です。
人は、自分と似た人間に対して好意を抱き、仲良くなりやすいという一般的な傾向があります。

多くの研究から、宗教、政治思想、出身地、学歴、職歴、年齢、誕生日、性別、価値観、職業その他好きな音楽から苗字にいたるまで、人間は自分と共通点がある人に無意識に好意をもつことがわかっています。

さらにいえば、この『類似性』は、コミュニティの運営側によって管理できる数少ない要素でもあります。

なぜならオンラインコミュニティでは、コミュニティに参加する人たちを事前にスクリーニングすることができるからです。

類似性を高めるための参加ハードルの必要性

多くのオンラインサロン・オンラインコミュニティは、月会費や入会条件や入会審査といったハードルを用意しています。

このハードルのうち月会費については、運営者の収益的な目的もあるでしょう。

しかし、「参加者をふるいにかけて、参加者同士の類似性を高める」という目的においても、参加希望者に対して月会費のようなハードルを用意することはとても効果的です。

「月会費」というハードルは、それ自体が毎月、そのコミュニティの掲げる価値観への共感具合や、コミュニティの中心人物に対する興味の度合いで、参加者をふるいにかけることになります。
結果としてコミュニティに残るのは、「カルチャーフィット」と表現される、メンバー同士の価値観の類似性が高い状態です。

ただ僕はここで、参加者の類似性を高めるためにあえて高額な月会費を設定すべきであると主張したいわけではありません。

大事なことは、『コミュニティに入ってもらいたい人物像と類似した人々を集めるために、適切な参加ハードルを用意すべきである』ということです。

たとえば、僕もお世話になっている『運営者ギルド』というオンラインコミュニティは、完全に無料です。
しかし、参加条件として『Webサービスやアプリの運営者』であることが定められています。

考え方によっては、「サービスやアプリの運営者であること」は、月会費よりもはるかに高い参加ハードルです。
しかし、このハードルによってコミュニティにおける参加者同士の類似性は高まり、参加者同士のコミュニケーションが生まれやすい土壌ができています。

具体的にはたとえば、サービスの運営者はたいがいサービスを0から開発してリリースしたエンジニアであり、そうでなくても技術に詳しい人たちです。
なので、話題の前提知識となる技術的な専門用語などについても相手の理解を気遣う必要がなく、コミュニケーションがスムーズであったりします。

これが類似性によるコミュニケーションの活発化です。

結局のところ、コミュニティにおけるもっとも重要なコンテンツは、「人」です。

コミュニティのコンテンツとしての「人」をどのように設計するか?
どのようにコンテンツである「人」にコミュニケーションを促し、そして居心地の良さを提供するか?

それがコミュニティの運営において考えるべきことで、こうした問いへの答えの1つとして『参加者の類似性の設計』は効果的であると考えています。

「1, 類似性の高いメンバー」まとめ
・コミュニティのメンバー同士の類似性を高めると、メンバーは仲良くなりやすく、コミュニケーションも活発化しやすい。

・メンバーの類似性を高めるために、コミュニティへの参加希望者にハードルを課すことは効果的である。

・参加のハードルは、『コミュニティがどのような人を求めているか』という観点から設計すべきである。

(ちなみに余談ですが、僕はメンバーの類似性の中でも「専門性」がもっともコミュニティの価値を最大化できると考えています。これについては長くなりそうなので、需要と余裕があれば別の記事に書きたいと思います。)


2, 認知的不協和の設計

参加希望者に対してハードルを課すことは、「参加者の類似性を高める」ために重要であると述べました。

しかし、このハードルにはもう1つ、『参加者同士のコミュニケーションを活発にする仕組み』が隠されています。

それは、『参加者にハードルを超えてもらうことで、コミュニティに愛着をもってもらえる』ことです。

さて、私たちが何かに愛着を抱くときには、どのような理由があるでしょうか?

多くの人はその理由として、愛着を抱くものの特徴をあげます。

たとえば、あなたがあるコミュニティに愛着を抱いているとしたら、あなたは「コミュニティの理念に共感したから」とか「コミュニティ設立者や中心メンバーが好きだから」などといったことを、コミュニティに愛着を抱いた理由にあげると思います。

もちろん、その答えは間違いではありません。
しかし、不完全な答えでもあります。

人は、対象の特徴だけでなく、自分が対象のために過去に費やした努力によって、対象に愛着を抱くことがあります。

つまり、『自分があるものに愛着を抱いた原因が、自分自身の行動にある』ということもあるのです。

たとえば、自分の費やした努力によって愛着が生まれる現象の有名な例として、『IKEA効果』を紹介しましょう。

IKEA効果とは、ある実験で被験者が、専門家によってすでに組み立てられた家具よりも、自分で組み立てた家具に高い評価を与えたことから名付けられた心理現象です。

「家具を自分で組み立てる」という努力の投入が、専門家が組み立てた家具よりも不格好だろう家具に、愛着をもたらしたのです。

人間は、簡単に手に入れたものより、苦労して手に入れたものに大きな価値を感じます。
とくにその苦労が、自らの選択によって、自発的に行われたもの(だと自分が思っている)なら、よりいっそう価値を感じることができます。

私たちは、ものごと自身の価値によって愛着を覚えるだけでなく、すでに自分が支払ってしまった『埋没費用(サンクコスト)』によって、ものごとに愛着を覚えるのです。

この人間心理を踏まえると、コミュニティの参加に対して高いハードルを課すことは、それを乗り越えて参加してきたメンバーに対して愛着を抱かせることにつながります。

なぜなら、コミュニティ参加者がハードルを超えるまでの支払った努力やお金は、サンクコストとして、参加者のコミュニティへの愛着を強化するからです。

コミュニティの継続には、参加者の自発的かつ継続的な活動が命

このように人間が自分の心を、自分の過去の行動から決めてしまう現象を、心理学では『認知的不協和』と呼ぶことがあります。

この認知的不協和の理論にしたがえば、コミュニティのメンバーに積極的にコミュニティの活動に参加してもらうことができれば、メンバーのコミュニティへの愛着を高めることができます。

このとき重要なのは、『活動の対価として安易に報酬を発生させない』という点です。

認知的不協和の提唱者であるレオン・フェスティンガーが行った実験では、

同じつまらない作業をやらせたとしても、対価として外部から与えられる報酬が多い(20ドル)グループよりも、報酬が少ないグループ(1ドル)のほうが、作業に対する満足度は高くなりました。

『自分は少ない報酬でこれほどの作業をしたのだから、自分はこの作業を楽しんでいたにちがいない』というわけです。

さて、オンラインコミュニティの活動では、基本的に参加者に対価は発生せず、場合によっては参加者のほうが毎月お金を払っていることさえあります。

『お金を払ってまでこのコミュニティでこの活動をしているのだから、自分はこのコミュニティとこの活動を楽しんでいるにちがいない』というのが、認知的不協和による心理プロセスです。

オンラインコミュニティのもつ特徴は、参加者に活動してもらえればしてもらうほど、認知的不協和によって愛着を高めやすい仕組みになっています。

ただし!注意してください!!

認知的不協和は、いつもコミュニティにとって有利に働くわけではありません。

たとえば、最近仕事やプライベートが忙しくなったせいでコミュニティの活動に参加できなくなってきたという人であっても、「活動できていないということは、コミュニティに価値を感じなくなったにちがいない」と考えてしまうことも起こります。

よく『オンラインサロンのような月額課金サービスは、幽霊会員からも稼げるから楽だよね』みたいな話も聞きますが、心理学的観点からは同意しかねます。

実際、月額課金サービスの王者ともいえるNetflixは、『一人当たりの毎月の視聴時間を増やすこと』を最重要目標にしています。
それはNetflixが、『毎月の視聴時間が一定水準を下回ると、そのユーザーの解約率が格段に上がる』ことをデータから掴んでいるからです(参照)

コミュニティも同じで、活動が少なくなったなぁという人は、いつの間にかコミュニティを辞めていることが多いです。

なので『認知的不協和の設計』に関して、コミュニティの運営者として留意すべきことは、シンプルに次の3つです。

「認知的不協和の設計」のまとめ
・コミュニティの参加に際しては、認知的不協和を起こせるようなハードルを用意すること。

・コミュニティに参加した人には、(なるべく自発的な)継続的な活動を求めること。

・活動の対価として、(とくに金銭的な)報酬は用意しないこと。

これはとても大事な余談ですが、『月額課金サービスが幽霊会員からも楽に収益をあげる方法』は、あると言えばあります。
それは退会に対して『解約金』をとったり、退会する人に対して何かしらの不利益をほのめかすことです。
人間は、自分の損失が予測されるようなときには、『現状維持』を選びます。
これを「現状維持バイアス」と呼びますが、このバイアスを用いれば、幽霊会員も契約を継続する確率が高くなるでしょう(モバイルWifiの数年縛りなどが例ですね)。
ただし、このようなアコギな手法は、カルトのやり口であって、僕が参加してきた真っ当なコミュニティにはありませんでしたし、倫理的にこれからもあるべきではないと思います。)


3, オフラインでの同期活動

さて、まずコミュニティの参加希望者にハードルを設けることで、コミュニティ参加者の類似性とコミュニティへの愛着を高めました。
さらに参加者に活動を促すことで、よりコミュニティへの愛着を強化したいと、あなたが考えたとしましょう。

そのときコミュニティの参加者には、どのような活動を求めれば良いのでしょうか?

それはずばり、『オフライン』での『協調的な活動』です。
オンラインではなく、オフラインで参加者同士で一緒に活動することです。

たとえば、「1つのプロジェクトを、コミュニティの参加者で、リアルに集まってすすめていくこと」は、心理学的に、コミュニティの参加者同士の紐帯と、コミュニティへの愛着を深めるとても効果的な活動であるといえます。

なぜでしょうか?

まずは、『1つのプロジェクトをコミュニティの参加者で共同で進める価値』について説明します(「リアルでの協調的活動の価値」は次に説明します)。

先ほどの「認知的不協和」の説明から、自らの手でプロジェクトをすすめることで、そのプロジェクトへの愛着が強まるだろうことは、容易に予想できます。

しかし、ここからが面白いのですが、ある心理学研究によると、プロジェクトを共同で進めると、プロジェクトだけでなく、一緒にプロジェクトを進めたパートナーへの愛着も強まることがわかっているのです!

ちなみにこの研究を行ったのは、先ほど紹介した「影響力の武器」の著者であるロバート・チャルディーニです。

チャルディーニは、プロジェクトの成功に対する自分の貢献を大きくとらえた管理職ほど、プロジェクト成功を従業員(パートナー)の能力のおかげとする度合いも高まることを突き止めました。

この原因をチャルディーニは、『共同作業によってパートナーとのアイデンティティーの融合が引き起こされた』ためであると述べています。

そして、こうした『自分と他者の一体化』は、このnoteで第1条件として紹介した「類似性」よりも強い「好意」や「援助」を引き出すこともわかっています。

コミュニティでいうならば、『メンバーの一体化』は、メンバーのコミュニケーション量を増やし、メンバー同士による自発的な活動を促します。

生き残るコミュニティをつくる上で、コミュニティメンバーの『自他の一体化』は、とても重要な要素であると言えます。


オンラインコミュニティにおけるオフライン活動の重要性

では、こうしたコミュニティメンバー同士の「自他の一体化」を引き起こすためには、他にどのようなテクニックがあるのでしょうか?

それが、『リアルでの(同期)活動』なのです。

インターネットもなく、今よりもずっと社会的なつながりが生存のために重要だった遥か昔から、あらゆる人間社会で、歌ったり踊ったり行進したりといった『メンバーがそろって同じ行動をする儀式』が確認できます。

こうした儀式は、人類の文明が開けていなかった時代の無意味な行為なのでしょうか?

そうではありません。

一緒に歌ったり踊ったりのようにメンバーがそろって同じ行動することを『同期活動』と呼びますが、さまざまな心理学の実験で、この同期活動を行った集団は、お互いが似ていると感じ、お互いに好意をもち、お互いに支援や援助を行い、お互いに自己犠牲をいとわず団結することがわかっています。
(脳科学では、同期活動によって分泌される神経伝達物質「オキシトシン」による作用であることがわかっています。)

つまり、同期活動は、『自他の一体化』を引き起こすことができるのです。

そしてこうした同期活動は、現代であってもオンラインでは難しく、オフラインでないと行いにくいという特徴があります。

インターネットが普及し、リモートワークも浸透し始めている21世紀で、リアルやオフラインというのは、少し時代遅れに聞こえるかもしれません。

しかし、ホモサピエンスとしては残念ですが、知っておくべき重大な事実があります。

それは、テクノロジーの進歩は早いですが、人間というハードウェアは、幾万年前から進化していないということです。

そう考えると、オンラインコミュニティという体裁であっても、人が主体のコミュニティである以上は、人類学や考古学や古典的な教訓から学べることも多いのです。

「飲みニケーション」のような若者的には一見無駄に思える古臭いテクニックも、同期活動という視点から考えると、とても効果的だったりします。

僕自身、こうしたオフライン活動の重要性を実感したのは、やはりオンラインコミュニティの活動の中でした。

あるコミュニティで大きめのプロジェクトに関わっていたとき、なんどもメンバー同士の意見の衝突に出会いました。

しかしそうした衝突が起きるのは大抵、チャットツール上でのテキストでの議論や、またオフラインでの会議に出席した人とそうでない人との間での議論でした。
そして、衝突した人同士も実際に会って話し合ってみると、あっけなく和解してしまうようなケースも多かったのです。

馬鹿馬鹿しいと思われるかもしれませんが、こうした現象には脳科学的に説明をつけることができます。

2010年に行われたfMRI(脳の活動の測定器)を使った実験では、「話し手」と「聞き手」の間では、複数の脳領域が同期することがわかったのです。
そして同期の程度が多ければ多いほど、話し手の考え方やメッセージに対する聞き手の理解も深いという結果が出ました。

彼らが和解できたのも、『きちんと声で話し合う』ことで、『脳細胞レベルで一体化』できたからなのですね。

「オフラインでの同期活動の促進」のまとめ
・コミュニティで、「1つのプロジェクトを、メンバーがリアルに集まり共同してすすめる」と、メンバー同士の絆が深まりやすい。

・メンバー同士で動きを合わせた協調的な活動をすると、脳細胞レベルで仲良くなりやすい。

・オンラインコミュニティであっても、オフラインのコミュニケーションやイベントは重要なので、運営者や中心メンバーには継続的に企画力が求められる。


スケールしたコミュニティは、メディアとして期待される。

ここまで、生き残るコミュニティの3要素として以下を説明しました。

1,  類似性の高いメンバー
2, 認知的不協和の設計
3, オフラインでの同期活動

ただ、この生き残るコミュニティの3要素は、メンバー同士のコミュニケーション量を増やすことで、『純粋なコミュニティとしての機能や質を高めるもの』です。

純粋なコミュニティとは、居場所感のような『メンバー間のコミュニケーションや社会的なつながり』がもっとも大きな価値になっているコミュニティのことです

そして僕は、いわゆるオンラインコミュニティやオンラインサロンの多くは、「純粋なコミュニティではないし、必ずしも純粋なコミュニティとして求められてもいない」と考えています。

多くのオンラインコミュニティは、拡大(スケール)を目指します。

しかし、生物学的に、人間には、コミュニティのような「強いつながりを保てる人数の限界」があります。
この限界人数は『ダンバー数』と呼ばれ、おおよそ「150人」であるとされています。

つまり、純粋なコミュニティというのは、生物学的にも、スケールしにくいものなのです。

僕の実感としても、どんなに大きなコミュニティであっても、コミュニティメンバーとしてアクティブに活動している人たちは、このダンバー数(150人)の内側に収まっているなという印象です。

では、150人以外の人たちは何をしているのか?
有料のオンラインサロンなら、活動もせずに毎月会費を上納してくれる彼らは、聖人か何かなのでしょうか?

そういうわけではなさそうです。

僕も彼らに話を聞く機会がありましたが、彼らがコミュニティで活動もせず、かつコミュニティを辞めない理由は、『オンラインコミュニティにコミュニティとしての価値を求めている人』にとっては意外なものでした。

彼らは、『オンラインコミュニティにメディアとしての価値を求めていた』のです。
いわく、コミュニティの当事者ではなく、第三者として、設立者を含むコミュニティのアクティブユーザー(150人以下)の企画ややりとりを楽しんでいた、ということだそうです。

認知的不協和の章で、幽霊会員から収益があげるのは難しいという文脈で、『活動が少なくなった人はコミュニティを辞めやすい』という話をしました。

これは『コミュニティにコミュニティとしての価値を求めている人たち』には、依然として当てはまります。

しかし、『コミュニティにメディアとしての価値を求めている人たち』は、幽霊会員としてでも続けるでしょう。
全然悪いことではありませんが、そもそもコミュニティの当事者として活動を視野には入れていないわけですから、当然です(そしてNetflixと同じように、メディアとしてのコミュニティの視聴時間が短くなったときに解約するでしょう)。

僕はこのとき、このオンラインコミュニティブームにある仮説を持ちました。

オンラインコミュニティは、宗教と比較されることが多いですが、それよりもむしろ「リアリティショー」に近いのではないのだろうか。

いわゆるビジネス的に成功しているオンラインコミュニティは、設立者含むコアメンバー150人のコミュニケーションや企画をコンテンツに、視聴者を集客することで成り立っているのではないか、という仮説です。

言い換えると、成功しているオンラインコミュニティのほとんどは、半分メディアとして期待されているのではないか、ということです。

確かにメディアとしてみると、このオンラインコミュニティというのは新しく思えます。
コンテンツが一方的ではなく、双方向的で、予想もつかず、その気になれば自分も関わることができる。
そう考えると、とても興味深いコンテンツだと思います。

ただ、僕の仮説が正しかろうが間違いだろうが、「コミュニティ」も「メディアとしてのコミュニティ」も、気をつけるべきはこのnoteで紹介した3要素だとも感じています。

なぜなら、「メディアとしてのコミュニティ」であっても、視聴者が求めているのは、コミュニティの150人による良質なリアリティショーであるため、この150人のコミュニケーション量や熱量や質をあげることが肝心だからです。

その点においては、このnoteで紹介した3要素は大いに役立つと思います。


コミュニティは、再投資を求められる。

最後に、オンラインサロン外部の人々がよく気になっている点について考察したいと思います。

いわゆる、『オンラインサロンは、やりがい搾取なのではないか?』というものです。

この問いは、おそらくこのnoteで『認知的不協和の設計』の章を読んだ読者の中でも、脳裏によぎった方が多いのではないかと思います。

まずはじめに、「やりがい搾取」を責める気持ちは、人間として当然です。
ただそれは倫理的というよりも、むしろ人間の本能的なもので、人間は、自分の利益を増やすために他人に損失を押し付けることに対する反発を本能的にもっていることがわかっています。

そして重要なのは、この『不公正に対する反発』という本能は、人間誰しも持っているということです。
それはコミュニティ内部のメンバーであっても例外ではありません。

そのためいわゆる『やりがい搾取』というものは、コミュニティ内部でも成立しにくいのです。

自分もいろいろなコミュニティの内部に属する中で、コミュニティのメンバーが会費の再投資を求める場面に何度か出会いました。

たいがいそうした再投資への圧力は、コミュニティのアクティブなメンバーから生まれていました。

普通のメディアと異なり、コミュニティというのは、質を高めれば高めるほど、コンテンツに対するアクティブなメンバーの貢献が大きくなります。

そのことを鑑みれば、コミュニティのあげた収益を、アクティブなメンバーを含むコミュニティに再投資して欲しいという気持ちは、理解できるものではないかと思います。

コミュニティというのは、収益を上げれば上げるほど、コミュニティへの再投資が求められるもののようです。


これは重要な余談ですが、もちろんコミュニティ運営者は、中心メンバーからの再投資の要求を無視することはできます。
ただし、そのことを不満にその中心メンバーがコミュニティを離脱した場合には、コミュニティにとって不都合なことが起こります。
コミュニティにおける参加者の愛着(ロイヤリティー)は、コミュニティであればあるほどに、人で分散しているのです。
そのため、中心メンバーが離脱することで、その中心メンバーに愛着をもっていたメンバーも次々とコミュニティを離脱することが起こりえます。
そして短期間に数人が離脱すると、それを呼び水に、ほかのメンバーの離脱も引き起こします。
「バンドワゴン効果」といって、人は周囲の行動や意見に流されやすい傾向があるためです。
バンドワゴン効果をきっかけにコミュニティを離脱する人たちは、たいてい愛着が低めで、コミュニティを続けようかどうか迷っている人たちです。
しかし、バンドワゴン効果によって短期間に大勢が離脱するのを目の当たりにすれば、さらにバンドワゴン効果によって、愛着が高い中心メンバーであっても、自分の愛着に疑問をもつことが起こります。
そしてその人も抜けてしまえば・・・・と負のループに陥れば、コミュニティは崩壊していきます。
ほんの些細なほころびをきっかけに、一気にダムが決壊することもあるのです。)

これも重要な余談ですが、それでも「やりがい搾取」のような経済的不公正を行いたい方に2つだけ警告しておくと、

・行動経済学(心理学×経済学)によると、経済的不公正が行われると、コミュニティのメンバーの生産性がただ下がりします。

・神経経済学(脳科学×経済学)によると、経済的不公正に対しては、まったく無関係な人間までが報復に参加し、さらには報復している人たちの脳は快楽を感じるため、歯止めが効かなくなります(よくある炎上状態ですね)。

つまり、経済的不公正は、コミュニティの内部からも外部からも攻撃にさらされるので、百害あって一理なしです。
ちなみに、公正と不公正の判断には、きちんと客観的な基準があるので、知りたい方は、ファスト&スローという本の下巻の137~144ページをご参照ください。
ノーベル経済学賞を2002年に受賞したダニエル・カーネマンと2017年に受賞したリチャード・セイラーの研究がもととなっているので、大変面白いですよ。)


コミュニティの収益と熱量が上がれば、実現できることの規模が大きくなる。

コミュニティには、その収益を再投資することが求められます。

そのため、「オンラインサロンは儲かるのか?」というビジネスサイドからよく投げかけられる質問は、
「Amazonは儲かっていたのか?」という質問に似ています。

Amazonは、それこそ莫大な収益をあげています。
しかし一方で、過去長い間ずっと赤字でした(つまり、利益がありませんでした)。
莫大な収益を、そのまま再投資に回していたからです。

有料型のオンラインコミュニティも、会員数だけ収益は上げられますが、その収益の再投資を求められます。

そのため正直なことを言うと、短期的利益をあげるという目的においては、有料型コミュニティを運営するよりも、もっと効果的な方法があるだろうと僕は思います。

ただし、『規模の大きなプロジェクトを実現したい』という目的においては、オンラインコミュニティは運営する側にとっても、また参加する側にとっても価値あるものになると思います。

例として、僕も参加させていただいているコルクラボをご紹介します。

コルクラボは、コミュニティへの再投資にかなり積極的なオンラインコミュニティだと思います。

たとえば、公開されているだけでも、下の出版物や、

下の文化祭イベントは、コミュニティのメンバーが中心となって進めているプロジェクトですが、

こうした初期投資が必要な大規模なプロジェクトでも開催でき、また素人でも運営側として参加できるというのは、オンラインコミュニティのメリットではないでしょうか。

また、ハーバード大の75年間に渡る、724人の人生を追跡した調査では、
人間の幸福と健康に最も関係があるのは、家族や友人やコミュニティとの良好な関係だということがわかっています。

良いコミュニティは、良い人間関係を育み、金銭よりも幸福と健康に直結するので、個人の幸福という観点においても、コミュニティのメリットはあると思います。


最後に...

ここまで、

・生き残るコミュニティがもつ3つの心理学的要素。

・オンラインコミュニティブームに対する自説(求められているのは、リアリティーショーではないか説)。

・外部がオンラインコミュニティに対してもっている疑問への回答と、オンラインコミュニティのメリットの自説。

を書いてきました。

誤解のないように言っておくと、
この1年間僕が所属してきたオンラインコミュニティやその参加者は皆すばらしかったです。

それでもコミュニティの運営にとても苦労していたりするのですから、やはりコミュニティの運営というのは、人格だけでなく技術も必要なのだろうと分かります。

コミュニティ運営についての技術でまとまっているものも見当たらなかったので、
せっかく色々なコミュニティに参加してきたのだからと、今困っているコミュニティ運営者に向けて筆をとってみた次第です。

とはいえ、今回紹介した技術は、1を10に成長させるような施策でしかありません。

いろいろなオンラインコミュニティに参加してわかったのは、どのコミュニティもそれぞれ提供できるバリューが異なっているという至極当たり前の事実です。

そしてその提供できるバリューこそが、コミュニティの価値を0から1に繰り上げて人を惹きつける、もっとも重要な要素なのではないかと思います。
心理学は、その本質的な価値の補強材料にすぎません。


さて、長くなりました。
なんと12000文字を超えてしまいました!
これでも文字量も要素数も半分に削ったのですけどね!申し訳ない!

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。

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理解度確認テスト

この記事の要点をまとめた理解度確認テストを用意しました!
文章が長すぎて内容を忘れてしまっているかもしれない...という方は、ぜひクイズを解いてみてください...!


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