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畑 耕運機 インスタント 

ここは地方都市の市民農園。今、1日のうちで1番高い位置にある太陽が降り注いでいる。
初めて扱う耕運機を傍らに、リュックのサイドポケットに突っ込んだ水筒を取り出すと、グビっと勢いよく喉へ流し込む。

中身は水道水だが、畑仕事の充実感はそれさえ「うんまぁ!!」と感じさせてくれる。誰かが「料理を1番美味しくするスパイスは空腹なんだよ」と言っていたのを思い出す。

「あんた、初めてにしてはなかなかうまいわ。飲み込み早いで」
と言葉をくれるのは、ここの土地の管理人さんで関西から移転してこられたAさん。
「いろんな人見てきてんねん。なんとなく、すぐわかんねん。その人が続けられそうかどうかって」
とAさんは言う。
果たして僕はAさんの目に、畑を続けられそうに映っているのだろうか。

思い立って、畑をしてみようと借りられる場所を探していたときにネットで見つけたこの場所。
電話をすると「ほんなら、一回見学に来たらよろしいやん」と、その時初めて話したAさんは言う。
そうして、一度の見学を挟んだ後にトントン拍子で畑をレンタルして、実際の作業に取りかかることになった。

人が動けば何かが起こる、とは本当で僕が動いたことでAさんとの出会いが生じた。
話していればすぐにわかる。「あ、この人は大丈夫だ」と。シンプルに居心地がいい。
「初めてで何もわからんやろ?教えたんで」
との言葉に全乗っかりでとりあえずAさんに言われたことを、そのまま丸ごとやっている。

「まずな土づくりからやねん」
今まで僕が知りもしなかったことを、Aさんが教えてくれる。たいひがどうの、石灰がこうの、なぜそれが必要かなんて話を丁寧に教えてくれる。
僕がまだ何も知らない世界が、他人の中にたくさん詰まっていることの不思議。世界は広い。

新しい知見に触れながら、新鮮な風が体の中を通り抜けるのを感じる。何か新しいこと始める時のこの感じ、毎度最っ高やなぁ…、とAさんの話を聞きながら手を動かす。
昨日まで小型の耕運機が卓上コンロのガスボンベで動くなんて知らなかった僕。今は知っている。

「よし今日の作業はとりあえずここまでやな。あっちにお茶あるで飲もか」
畑の片隅にある屋根付きのベンチに腰掛けると、Aさんが「インスタントやけどな」と一言添えてコーヒーを淹れてくださった。
「甘いのしょっぱいの、あるで」と、おせんべいまで差し入れしてくれた。

屋根が作る影の下、慣れない仕事を終えた体、山間の緑と抜けるような青い空。コーヒーとせんべいの味わいがしみじみと、染み渡る。
さっき撒いた、たいひと石灰もこれから畑の土に染み渡っていくのだろう。コーヒーがおいしい。



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