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ゆらぎ

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たぶん教訓も筋もメッセージもなにもない、断片的な文章
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2021年8月の記事一覧

ローテーブル チャミスル 詫び

ローテーブル チャミスル 詫び

自宅の畳の部屋、真ん中にあるローテーブル。結婚当初、嫁さんが実家から持ってきたそれは、無垢材でできており言ってしまえば「結構いい家具」である。
昨今SNSで流行っている(た?)、「ていねいな暮らしガチ勢」の部屋に置いてありそうな、シンプルで凛とした佇まいだ。

僕はと言えば、ていねいな暮らしの対局にある「粗雑な暮らし」とでも言うような家庭環境で育ったようなもの。
そのためか、自分の身の回り品に関し

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歌川広重 ロンバケ 橋

歌川広重 ロンバケ 橋

表通りを、定規で引いたような直線の軌道で勢いよく雨が降っている。
こういう雨を見ると思い出す絵がある。
有名な浮世絵の1つ、歌川広重による「大はしあたけの夕立」だ。
学校の教科書にも載っているし、あのゴッホも模写した作品なので、見れば誰でも「ああ、この絵のことか」となることだろう。気になる人はググッてみてね。

その絵に描かれた「大はし」とは、東京を流れる「隅田川」にかかるその名に恥じぬ、大きな橋

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棚 画材屋 領収書

棚 画材屋 領収書

棚に並べられたCDや本のタイトルを見て、「いやぁ、趣味のいいコレクションだなぁ…。って、これ全部オレのやないかーい」と、髭男爵のツッコミで自画自賛する茶番劇に、たまに浸ることがある。

古今東西の古典文学や小説、哲学や思想書の類。ジャズ、ブルース、ボサノバ、ロック、を中心に幅広く揃えられた名盤や希少盤の類。「いやぁ、いい趣味してますねぇ」と、自分のコレクションを称賛して勝手に気持ち良くなっている。

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豪雨 ギター 中途半端

豪雨 ギター 中途半端

身支度を整えて、片道歩いて1時間半はかかるであろうこれからの道のり、どのルートで行くかを頭の中で整理していたら、窓の外から大きな音が聞こえてきた。
大雨ならぬ、豪雨である。

この雨じゃ、外に出て1分もかからないうちに靴の中までぐっしょりだろうし、傘もほとんど役に立たないだろう。
わざわざ濡れ鼠になることが分かっていて、外に出るまでもあるまい。
予定をあきらめた僕は、壁にかかったギターを取り上げる

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黒アゲハ サンダル擦れ 傘

黒アゲハ サンダル擦れ 傘

ここ2.3日降り続いている雨が、ポツポツと傘に音を立てていた。
少しだけ水位が上がった小川の向こうに自宅のマンションが見えている。川を挟んで対岸の通りを車が滑っていくが、盆の時期はその数も少ないようだ。

休みの日は決まって散歩に出ることになる。日課と呼ぶほどのものでもないが、とにかく外にでる。あてもなくそこらへんをほっつき歩く。
なんの変哲もない住宅街の片隅に、意外にも目につく光景は数多転がって

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牛肉 タレ グラデーション

牛肉 タレ グラデーション

食卓の真ん中にドカッと陣取ったホットプレートの上に、一枚一枚肉を乗せていく。
ジューっと音が上がる。スーパーで買った「ちょっと良い牛肉」が、生の赤から次第に焼けた色へと変わってゆく。
プレートの縁側では、玉ねぎや椎茸、ピーマンなどの焼き野菜が乗せられている。

焼き肉の何がうまいって、タレがうまいよな、などと思う。
タレさえ美味しければ、あとはなんとでもなりそうな気もする。なんなら、タレだけで結構

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なんでもなさ ドキュメンタリー ごま塩

なんでもなさ ドキュメンタリー ごま塩

朝起きて、すぐ絵を描く。絵を描いたらそれをネットにアップして、昼の弁当の支度に取りかかる。
弁当と言っても、毎日同じでタッパーに敷き詰めた白米の上にごま塩を振りかけて、さらにその上に黄身が硬くなるまで焼いた目玉焼きを2つ乗せただけのものだ。毎日これ。

自分の生活の「なんでもなさ」が骨身に染みることがある。
それは、別に良いことでも悪いことでもない。ただなんでもない生活を淡々と生きる。
そして、幸

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露天風呂 ヒゲ 脱衣所

露天風呂 ヒゲ 脱衣所

露天風呂にアゴのあたりまで浸かっている。
湯温がぬるく、風呂でのぼせやすい僕には都合がいい。
とろみのある湯が全身を包み込むと、ジンワリと血流が体中の隅々まで行き渡るのがわかる。 

日除けの隙間から覗く空が、僕が体を動かすたびに水面で揺れた。
日常の喧騒から少し離れてたところにある、静けさに触れている。

僕から少し離れたところで、2人の爺さんが会話を始めた。
「あそこはさ、確か駐車場が高かった

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ひぐらし 山道 カッパ 

ひぐらし 山道 カッパ 

駐車場の木陰になったスペースで、アキレス腱や、膝の屈伸運動をしている。
普段生活する市街地と比べて、海抜が高いためかいつもは耳にしない、ひぐらしの声があたりに響き渡っている。

ケガや虫対策にと、この暑さであっても、長袖に長ズボンを着てきた僕の心配ごとはただの杞憂なのか、他のメンバーを見てみれば思い切り短パンに半袖なのもいる。
「いや、潮干狩りに行くんじゃねぇんだから」
と、喉まで出かかった言葉を

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飼育小屋 ハーレー コーラ

飼育小屋 ハーレー コーラ

飼育小屋には、ウサギとニワトリと、鴨、あと名前のわからない小さい水鳥が数羽いたかもしれない。
餌やり当番だった僕は、普段の通学と同じ頃合いに家を出た。
地形の傾斜によって、うまいこと日陰ばかりが続いていた坂道も、それが途絶えたところで一気にこれでもかと降り注ぐ日差しに出会うことになる。

日差し対策に、僕のかぶっているキャップは叔父が送ってくれたもので、真ん中に(当時の僕にとって)カッコいい英語を

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