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大河「光る君へ」(10)月夜の陰謀

 ほぼ回復しましたが、この疫病コロナはかなり厄介&シツコイ。ワクチン打ってたお蔭で症状は大したことなく済んだものの、地味に体力削られました。出来るだけ罹らない方がいいですホントに。今後も感染予防&体力増強頑張りまーす!病魔退散!家内安全!
※「源氏物語を読みたい80代母」のための企画です。最終回までこの形式で続ける所存。思いっきりネタバレ全開なのでご注意くださいまし。
お喋り役の平安女房ズは以下:
右近(右)、侍従(侍)、王命婦(王)、少納言(少)

侍「右近ちゃん右近ちゃあーーーん!」
右「もう、なあに侍従ちゃん。耳痛いんだけど」
侍「右近ちゃんよかったあ復活して!だってだって、もうこれ黙っていられますかってーーーー!キュン死してる場合でもなーい!!!」
右「ハイハイわかったわかった。道長くんとまひろちゃんね。上気した頬、熱い溜息、視線の先には朧な月……皆さまのNHKとしては攻めてたわね」
侍「ねー!なんだかさー源氏物語本編の世界をまんま見せられてる感あったよね!あーんなチラ見せなのに、いやチラ見せだから?超エロい!!!」
王「何より、あの後の二人の顔がしっかり大人の男女になってたのが凄いわね。道長くんは目つきからして違うし、まひろちゃんはもう匂い立つような色気っていうの?妖艶さにドキドキしたわ。大河の歴史に残るラブシーンよね、間違いなく」
少「今回も、一度は言われてみたいセリフ満載でしたわね……ずっと愛してきた人に
『何もかも捨てて一緒に遠くへ行こう』
なんて耳元で囁かれたら抗える気がしませんわ(うっとり)」
侍「王命婦さん少納言さん!!!ほんとそれ!!!だけどそこを
『あなたと遠くの国へは行かない』『大好きなあなたを、都で片時も目を離さず見つめ続けます』
ってぶった切っちゃうまひろちゃんイケメンすぎてつら……両想いなのに、あんなにラブラブなのに胸がキリキリ痛い……こんなの初めて……」
少「侍従さんわかります、私も同じです。今思えば、道長さまがまひろさんに送った最初の恋文、伊勢物語が元なのは伏線だったんですね……在原業平ありわらのなりひらと高子姫の駆け落ちは失敗に終わりましたから」
王「まあ普通に考えてただじゃ済まないわよね、右大臣家の御子息がそんなことやらかしたら。すぐ追手がかかって連れ戻されて終了」
右「ごめん、ちょっと皆に聞きたいんだけど、まひろちゃんへの直秀くんの
『一緒に行く?』
 って問いかけと、道長くんの
『一緒に来てくれ』
 この違いわかる?」
王「あ、そこ私も引っかかった。直秀くんと道長くんの圧倒的な違いを端的に表現してるわよね」
侍「ええ???何で???同じ意味じゃない?」
少「違い……ますね。すくなくとも、直秀さまはまひろさんを対等な相手としてみてらっしゃる」
右「そう!直秀くんはまず自分自身の望みを明確に語ったうえでまひろちゃんもどう?アンタもそういうの好きだろ?と誘いかけた。まひろちゃんの方も、きっと直秀くんなら夢を叶える、その力があると判断したからこそ
『行こうかな……』
 って答えが出た。それに対して道長くんは
『まひろが一緒なら』
 って前提でしょ。つまり遠くの国へ行くのが主目的じゃないの。まひろちゃんそのものが目的なわけ。それと知らず知らず『やってもらう側』としての言い方になっちゃってんのよね。お育ちの良さ故の癖みたいなものだろうけど、具体的なビジョンもプランもゼロでただyesって言って!てさ。そりゃついていけるわけないわリスク高すぎて。やっぱり所詮はボン。生きる力に溢れてた直秀くんとは違……(涙ぶわっ)」
王「右近ちゃんよしよし。辛いわねえ……悲しみも癒えないうちに次から次へと忙しすぎるわ大河」
少「本当に……道兼さまも、いよいよ引き返すことの不可能な闇に足を踏み入れられて、迷いも曇りもないあの目がたまらなく胸を締めつけますわ」
侍「(そ、そっかーあのガンギマリ顔が少納言さんにはそう見えるんだ推し愛ってスゴイ)」
王「侍従ちゃん心の声がダダ漏れよ?ウフフ、兼家さまの高笑いがあまりにもベタな悪党すぎて笑っちゃったけど、あのただならぬ緊張感には痺れたわね。大胆な決断と実行力、退路のない中でも最低限藤原家を存続させる仕掛けはちゃんと残していくそのクレバーさ、さすがはこの私の推しよ」
侍「(や、やっぱりそのツボわっかんないわ)ま、また来週ー!」

 おおお……いつもながら、何をどこからどう書いていいのかわからないほど盛りだくさんで困ってます。
 まず道長とまひろの和歌⇔漢詩の応酬。道長の方がかな(女文字)で和歌を送り、まひろが漢文で返すという、男女逆転ぽいシチュエーションはドラマ上の演出とはいえすごく洒落てました。道長に問われた行成が答えた通り、和歌は「人の心」、漢文は「志」をあらわす、まさに。

道長の送った和歌:
思ふには 忍しのぶることぞ 負けにける 
色には出いでじと 思ひしものを

密かに思いつつ耐え忍ぼうとしたが、恋心が抑えられない。
表には出すまいと思っていたのに
(『古今和歌集』恋一・503番・よみびと知らず)
死ぬる命 生きもやすると 試こころみに 
玉の緒ばかり 逢あはむと言はなむ

あなたに会えず死にそうなこの命が、もしかしたら息を吹き返すかもしれない。だから試しに「少しだけなら逢っていい」と言ってほしい。
(『古今和歌集』恋二・568番・藤原興風おきかぜ
命やは 何ぞは露の あだものを 逢ふにし換かへば 惜しからなくに
命が何なのか。所詮は露のようなはかないもの。
引き換えにあなたに逢えるなら、死んでもちっとも惜しくない。   
(『古今和歌集』恋二巻末歌・615番・紀友則きのとものり
 古今和歌集における(恋一)とか(恋二)とかって「恋の進行度合い」なんですってよ!(恋二)までは「逢わずして慕う恋」、次の(恋三)からは「契りを結んだあとの思い」!恥ずかしながら初めて知りました……道長の三通目は(二)の最後!の歌なんだそうです。なんというエモさ!平安の雅万歳!
↓詳しくは以下の記事をどぞ。必読。

 若い熱情のまま突っ走ろうとする道長をまひろが理詰めで抑え、進むべき道を示す。文のやり取りだけでなく内情もまさに男女逆転。
 私自身、正直言って「道長と紫式部が恋仲説」には全く与しないのですが、なんだかこのドラマでは許せてしまってる。というのもですね、ディテールに物凄く凝っているのと、伏線の張り巡らせっぷり・回収への情熱、が半端なく強いからです。フィクションだから何でも自由でええやろという温い気構えではなく、史実も踏まえての「必然」に向かってひた走る執念がヤバい。
 例えば、今回二人の逢瀬の間ずっと鳴いていた鳥。
 あれってもしかしてもしかしなくても「水鶏くいな」じゃない?(鳴き声検索して聞いたけどソックリ!)
 「水鶏」は紫式部の歌にはよく出てくるモチーフ。こりゃ絶対に、意味なく入れたわけないよね。
 有名な以下のエピソードに必ずや絡めてくるにちがいない。

 ……夜中に紫式部のいる局の戸を叩くものがいる。気味が悪いので応対せず無視。
 すると翌朝、道長からこんな歌が:
 夜もすがら 水鶏くいなよりけに なくなくぞ まきの戸ぐちに たたきわびつる
 
一晩中、水鶏が鳴く以上に泣き泣き戸を叩いたのに開けてくれないなんて…
 
紫式部が返した歌:
 ただならじ とばかり叩く 水鶏くいなゆゑ あけてはいかに くやしからまし
 
何事?と思うほどの叩きっぷりの水鶏でしたもの、開けたらきっと後悔することになったでしょうね 
 
 
単なる「からかってきた上司をやりこめてやったわ!」的なエピソードが(とはいえこのやり取りから二人はアヤシイのでは?説も出てる)、ドラマ上でどういう意味を持つことになるのか、今から超楽しみで仕方ないです。忘れないよう書き留めとく。
<つづく>

「文字として何かを残していくこと」の意味を考えつつ日々書いています。