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あれから一年

「もうすぐ土用の丑の日だな。」

夫が唐突に言う。

「今年は何日だろうね?」
と返したら

「7月24日だぞ!」


即答。
おそらく年1回の楽しみにしていると思われる。
わたしも年1回のご褒美と考えている。

…が

“いやー、失業中の身だし今年は…”
というのが本音だった。
でもランクダウンすれば年に一度のことだし割り切れるか?

数日後には、次男がこっちへ来ることになっていた。


そしてあの日からちょうど1年になる。

……


もうすぐ地域の神社祭もあるし、
うなぎを知らせる出前寿司チェーン店の
新聞折り込みチラシも入ってきた。

口実と条件は整った。

ちょっと早いが、土用の丑の日を前倒しすることにした。
次男は「珍しいね!」と言ったが、
ここ数年はおいしいウナギを食べていたんだよ、ごめんな!
と心で思う。

ネットで注文した。
電話せずに注文できるなんて、
本当に便利な世の中だ!

ただ、時間帯が30分刻みなので17時頃着くようにしたかったが、
①16:30~17:00か②17:00~17:30を選ぶしかない。

夫と相談して①16:30~17:00を選択。

すると速攻で出前寿司屋さんが来た。
16:30にモノは届いた。

どうやら時間枠の最初に届けてくれたようだ。
一番恐れていたことが起こった。(おおげさ)

夫が子供たちに声をかけた。
…が乗っては来なかった。

そりゃそうか…。
そうだよね、早いよね。
普段晩ごはん食べるのが19時頃なんだから。

よろこばせようと思ったに違いない夫の背中が
なんだか淋しそうに見える。

頃合いを見計らい
いただきます!をした。

なんとなく盛り上がらず、うな重を食べ進めた。
それはわたしだけなのかもしれないが。

……

1年前に亡くなったわんこのことを思いながら食べていた。


一回忌の法要みたいな気持ちで。
ゆっくりかみしめながら食べていた。

……

次男も来ているし、“うなぎ”というワードも出たため、
このタイミングだ!と、勝手盛り上がりセッティングしたのだ。

みんなでわんこの思い出話でもしながら
わいわい食べたらいいだろうなって思っていた。

思っていたのだが

まず注文したうな重が、使い捨て容器で運ばれきた!
せめて安っぽくならないようと桶で頼んだのだが。

“適当かいっっ!”

叫びたくなった。

運んできた店員に言ってみたが
「そうだったんですか?」と、きょとんとした。
そのうちに目が泳ぎ、おろおろと困り出した。
なにも確認をしない。

容器が違うだけで中身は一緒だ…

“入れ替えて持ってきて!“という話にもならない。
なにも解っていないこの人を困らせるだけと思い、
それ以上は言わなかったのだけれど。

おそらく、店に戻ったあと指摘されたことを伝えないだろう。
店側の間違えと、運んできた店員の対応にモヤモヤしていた。


それにも相当モヤついたが、最大のモヤモヤの決め手。
それは家族の誰一人、わんこの命日について口にしないことだった。


“覚えてないんかーい!”



と突っ込まなかったが、
ずっと複雑な気持ちを抱えた。

いや、こちらから話を振ればいいだけのことなんだけれど。


すっかり気も落ち
終始、口をつぐんで黙々食べた。


“あのこは確かに、ここにいたのに。”



……


もういないのだから仕方ないけど、
わんこ関連の話はぐんと減った。
話題を振らないとそういう話にもならない。


本当はみんな
愛情があることも、
想いがあることも、
さみしいという気持ちを抱えていることも、

知っている。
知っているけど

こんな日くらいは
言葉に出そうや。

日付に固執しなくたっていいのかもしれない。
想いがあるんだからそこは関係ない。

そう思いつつ
いろいろと淋しい。


おセンチな気分になってしまった。


……


ごちそうさまをして
夫と二人になってから、
急きょ、うなぎを前倒した理由を話した。

「うんうん」と、わたしの聞いた。


「1年経ってみてさ。改めて淋しいんだよね。」

「うん」

「また、“そんなこと言ったってしゃーないべ?”って言うんでしょ?」
(夫の口癖)

「うん」

「心も整理出来てきたと思うし、今日を区切りに(わんこの)トイレとかサークルとか、いろいろ片づけようと思うんだ。」

「うん」


……


このあと、遠くに住む長男にもメッセージを送った。

改めて翌日。
家にいる子どもたちにも
「1年経ったね」と伝えた。


……


最後までお読みいただきありがとうございます。

気持ちに向き合い
ウナギを食べ
少しは吹っ切れたと思う。

わんこだって空の上の世界で
元気に駆け回っていることと思う。

出前寿司チェーンのうなぎ。
食べているうち細かい骨が妙に気になり出し
よくかみ、少しずつ飲み込んで食べ進めた結果。
慎重になりすぎ
最後、正直おいしいと感じなかった笑

おいしかったけど
慎重になりすぎて…

また来年のご褒美まで。
うなぎさん、待っててね。


カワコ










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