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僕は、試着ができない。158cm男性の日常。

服は好きな方だ。
自分で言うのもなんだが、センスは悪くないと思う。

社会人になって5年近く経ち、少しは自分に使えるお金も増えた。
自分を表現するツールとして、自分が心地よく過ごすための手段として、それなりにこだわりたいとは思う。


でも、僕は試着ができない。

理由は単純で、着られるサイズの服が店頭にないからだ。

身長158cm、痩せ型の僕は、Sサイズの服ですら大きくて着られないことが多い。
特に、自分がおしゃれだと感じた商品はMサイズとLサイズしか展開していないケースが多く、売り場でこれに気づいた僕は、心に生じる微かな波紋を感じながら、その場をすっと離れる。

最近はもっぱら、XSサイズをネット販売しているユニクロか、ユニセックスなデザインを扱う無印良品でインナーや普段着を買う。
と言っても、平日はスーツを着て、都心の人並みに潜り込む僕にとって、よそ行きの服は2着あれば十分で、服を買う機会もめっきり減った。


しょうがない、と思う。
ここまで着られるものが少ないのはちょっと珍しいかもしれないが、腕が長かったり、脚が短かったり、お腹周りがきつかったり、きっとみんな何かしらの生きづらさを感じているのだ。僕だけが特別ではないのだと思う。


今でもおしゃれなカップルが並んで入店するような商業施設や、着飾ったマネキンがこちらを見下ろすお店は苦手だ。入店しても、僕は絶対に商品を購入できないから。

学生時代、当時の彼女が僕に似合う服を選んでくれると言った。気持ちは嬉しかったのだが、これはどう?と言って差し出してくれる服はみな、それなりの身長を兼ね備えた男性に似合うものであって、やっぱりどれも僕には大きかった。

ショッピングが好きだと言う彼女とのデートが台無しになるような気がして、僕は咄嗟にレジの近くにある男女兼用でフリーサイズのニット帽か何かを買った。

さすがに最近は諦めがついてきた。
Sサイズがなくても、Sサイズですら大きくて着られないことに気付いても、肩を落として落ち込むことはない。週7日のうち5日は、オーダーメイドのワイシャツとスーツで働いている。お金はかかるが快適だ。

若者のつもりでいた僕ももうすぐ30歳になるらしい。親父が168cmあるんだから、もう少し身長が伸びるかも、と思っていた学生時代の願望はとうに捨てた。

身体を持った人間である以上、服を着て、靴を履かねばならない。首元がくたびれた服や、かかとがすり減った靴は買い替えたい。

でも、定期的に聞こえてくる服や靴の悲鳴に、しばらく僕は耳を塞ぐ。自分の身長が低いという、もうどうでもいいと思っているはずの事実を再認識するのはやっぱり心地の良いものではないらしい。ぎりぎりまで使い込んでから買い替えるのが僕のクセだ。

大人になったら気にならなくなる、なんてことはなかった。僕は社会的に見れば十分過ぎるほどの大人だ。

きっと来週も、再来週も、この先もずっと、僕はちょっとくたびれた服2着で週末をやり過ごす。

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