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お父さんはボケています、って言っといて。
僕のじいちゃんは定年と同時に山陰地方のとある限界集落に移り住んだ。この四方を山に囲まれ、田んぼと畑が広がるのどかな風景の中でじいちゃんは育ったらしい。
朝から畑に出て趣味の野菜のお世話。昼寝をして、また畑に行って、夕方は風呂上がりのビールで優勝し、夕飯を食べながら野球中継を観る。試合序盤に虚な目になり、中盤でその日の勝敗を予想してふらっと部屋を出ていく。しばらくすると気持ちよさそうな寝息が…
なんともじいちゃんらしい典型的な1日である。
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そんなじいちゃんも昔は都内でバリバリ働く証券マンだったらしい。コンプライアンスなんて言葉がなかった当時の証券会社は、それは激務だったんだろう。じいちゃんは多くを語らないけれど、隣でずっと見てきたばあちゃんはずっと心配だったみたい。
色々な経緯があり、じいちゃんはかなり苦しい時代を過ごしたようだ。
今のじいちゃんは悠々自適に、決してノルマに追われることもなく、ゆったりとした余生を過ごしている。
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じいちゃんは人付き合いが好きではない。限界集落という狭いコミュニティで人付き合い無しでどうやって生きるんだよって思うけど、さすがはばあちゃん、そのあたりのバランスは夫婦でとれば良いものらしい。
畑仕事をしていると横の道を通るご近所さんが声をかけてくる。
それが鬱陶しいようで、家に戻ってくるなりばあちゃんに向かって「うちのお父さん(じいちゃんのこと)はボケているから、話しかけない方が良いですよ」って近所に言っといてくれと頼んでいる。いつも言ってるじゃんか、もっとみんなにちゃんと伝えてよ、と。
ばあちゃんが一言。「お父さんがご近所さんから話しかけられた時に、ちゃんと返事をしちゃうから嘘だってバレちゃうんじゃん」
。。。
じいちゃんよ、、、そりゃ、じいちゃんが悪いよ。ばあちゃんのせいじゃない。あんたの責任だ。
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人はそう簡単に変わらないんだろう。営業をしていた人が人付き合い苦手というのも珍しいが、やっぱり人に話しかけられるとちゃんと返しちゃう癖がついているのかもしれない。
ばあちゃんと他愛もないやり取りをしているじいちゃんが一瞬、背広姿のサラリーマンに見えた。
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