朝鮮半島での風船型ハイブリッド戦争の行方
北朝鮮と韓国が双方で風船戦争を行っている。北朝鮮は5月下旬、大量の汚物風船を韓国に飛ばし、韓国のビラ散布活動への対抗措置とした。韓国側でおよそ1000個が見つかり、たばこの吸い殻や紙くず、布きれなどが入っていた。一方、韓国からは脱北者団体「自由北韓運動連合」が今月にはいり、宣伝ビラやUSBメモリーなどを10個の大型風船で北朝鮮に向けて飛ばした。20万枚のビラは金正恩を批判するものであり、その他音楽やドラマなどの動画を保存した5000個のUSBや、2000枚の1ドル紙幣を同封、「愛する北朝鮮の同胞に真実の手紙、自由の手紙であるビラを送り続ける」と同団体は表明している。
この北朝鮮と韓国との間の紛争は、少し前の用語を用いれば、LIC(低烈度紛争,Low intensity conflict)と呼ばれる通常戦争と平和状態との中間にあたる緩やかな紛争が相互に戦われている状態である。この列度があがれば、ゲリラ戦または反乱、テロリズムの様相を呈する。局所的で小規模な武力の行使が頻発しながら、断続的かつ不確かなまま事態が進行しているために全体的な情勢を把握することが困難である。
この状態にサイバー戦や宇宙戦がはいってきた状況はハイブリッド戦とよばれる軍事戦略の一つで、正規戦、非正規戦、サイバー戦、情報戦、心理戦などのすべての領域を組み合わせて戦うことを指す。ウクライナ戦争以後は、従来型のキネテイックな戦争ではなく、ノンキネティッックな戦いでほぼ勝敗がきまることになると考えられる。
そう考えるならば、38度線を向かいあいノンキネテイックな風船攻撃を双方が戦う戦争形態は、朝鮮半島で、新たな局面にはいることも予想される。気流に乗せて相手国に送り込む、大型風船や大量の小型風船の中身は、ビラによる宣伝戦、認知戦であったり、マルウエアをしこんだUSBなどの他、病原菌、昆虫や小型ロボットなどを忍ばせることが可能である。そうなれば小型風船の着地地点は厳重に管理せねばならなくなるし、その個数が増えれば増えるだけ相手国に手間やコストがかかり、かつ心理的もダメージを与えることになる。
かつて、日本はアメリカ本土に風船爆弾を飛ばした。気流に乗せてアメリカ本土を空爆するもので、1944に実用化され、翌春までに9,300発が福島県、茨城県、千葉県の海岸から放たれ、太平洋を横断して推定約千発が到達した。 15キロ爆弾1発と5キロ焼夷弾2発を吊るす直径10メートルの気球は、和紙を蒟蒻糊で貼り合わせて作られた。この爆弾は、アメリカ人を恐怖に陥れた。
風船の中身が、いつWMD兵器(生物・科学・核)にするかえられるかわからないわけであり、南北間には風船爆弾の「恐怖の均衡」がなりたっているともいえよう。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?