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カンヌライオンズ2023速報 by 銀河ライター【最終日&まとめ】

フィルム部門の2つのグランプリに世界のいまを視る。その他部門も大粒ぞろい


カンヌライオンズ 2023速報(最終日)です。現地参加の皆様、お疲れ様でした。日本で読んでくださっている皆様、今年もありがとうございます。

今日は5部門が発表に。

「フィルム」
「グランプリ・フォー・グッド」
「ザ・ダン・ワイデン・タイタニウム」
「グラス:ライオン・フォー・チェンジ」
「サステナブル・デベロップメント・ゴールズ」

グランプリを見ていきます。最後に現段階での私的ラップアップ(今年のまとめ)を箇条書きにします。

※クレジットは以下の順です。

施策タイトル
企業名(ブランド)/商品名
企画+制作会社
エントリー国

フィルム部門

Relax,It's iPhone-R.I.P Leon
Apple/iPhone14
Apple,Cupertino+Biscuit Filmworks
USA

The Last Photo
ITV×Calm
Adam&EveDDB,London+Cain&Abel,London
United Kingdom

グランプリは2つ。笑いと悲しみ。ユーモアCMであれシリアスな企画であれ、今年は「死」にアプローチするエントリーに印象的なものがあった。


ダン・ワイデン・タイタニウム部門

The First Digital Nation
The Government Nt of TUVALU
The Monkey's Part of Accenture Song,Sydney+Collider,Sydney
USA

太平洋の低地国家であるツバルは、厳しい試練に直面している。現在の世界的な海面上昇率では、2050年までに国全体が水没するとされる。

ツバルはもうひとつの脅威に直面している。国際法は現在、国家が存在するためには「明確な物理的領土」が必要と定めているため、ツバルは気候変動によって主権を失う最初の国になる危険性がある。

ツバルのサイモン・コフェ大臣は、COP27(国連気候変動会議)で演説する予定ことになっていた。各国から集まった代表団や記者団を前にして、大臣は自国の生き残りをかけた大胆な計画を発表した。

「ツバルは世界初のデジタル国家となり、最悪のシナリオに直面しても主権と統治能力を確保する」

COP27での演説で、コフェ大臣は、ツバルの政府サービス、文化、歴史を段階的にクラウド、仮想空間に移行していく計画を説明した。

このデジタル変革プロセスにより、ツバルはそのアイデンティティを保持し、物理的な土地がなくなった後も存在し続けることができると主張。第一段階は、ツバルの国土のデジタル化と記録。これは国際法上の領土主権の定義の改訂を求める今後の法的プロセスにおいて重要な第一歩となる。

※タイニウム(チタニウム)部門は、ワイデン+ケネディの創業者、ダン・ワイデン氏の提案で、2003年に創設された。昨年ワイデン氏が逝去したことを受け、部門名にその名を冠することとなった。


グランプリ・フォー・グッド部門

Anne De Gaulle
Fondation Anne De Gaulle
Havas,Paris
France

第18代フランス大統領として知られるシャルル・ド・ゴールとその妻は、1945年、ダウン症で生まれた娘アンヌの名を冠したアンヌ・ド・ゴール財団を設立した。

その後75年以上ものあいだ、神経発達症の人々のための支援を行ってきたにもかかわらず、同財団は社会的知名度が高くはない。

そこで国際障害者デーに、その父の名を冠したパリ・シャルル・ド・ゴール空港を「パリ・アンヌ・ド・ゴール空港」へと改名するイベントを実施。空港内のサインやボーディングパスなど各種表示も変更し、多くの報道機関がニュースにした。


グラス:ライオン・フォー・チェンジ部門

Knock Knock
Korean National Police Agency/A Silent Emergency Call
Cheil Worldwide,Seoul
Korea

過去8年間で、韓国の家庭内暴力は718%増加。しかし、警察に通報されるのはわずか2%。その要因として、被害者が加害者と同じ空間にいることがある。通報できない被害者を、警察はいかにサポートすることができるのか?

韓国警察庁はモールス信号にヒントを得て、危険な状態にある被害者が一言も話すことなく警察に通報できるソリューションを考案した。

112(※韓国の110番)にダイヤルした後、任意の番号を2回タップ(ノック・ノック)するだけで、リンクが送信される。これによって警察は、通報者のカメラを通して状況を監視し、その位置を追跡することができる。

周囲に気づかれないように、グーグルの検索ページを装ったアプリを通じて密かにチャットすることも可能。この新しい警察への通報方法は、美容チャンネルやネイルサロンなどを通じて一般にPRされた。

「ノック・ノック」は、耳が聞こえないなど不利な立場にある人々の解決策にもなっている。キャンペーン開始後、5,749件の通報があり、「ノック・ノック」は韓国の公式緊急通報となった。


サステナブル・デベロップメント・ゴールズ部門

Where To Settle
Mastercard/Website
McCANN Poland,Warsaw
Poland

ウクライナ戦争勃発後、占領地から約1000万人の難民がポーランド国境を越えた。ポーランドはどの国よりも多くのウクライナ難民を受け入れている。しかし、多くのウクライナ人がポーランドの主要都市(ワルシャワ、クラクフ、ヴロツワフなど)に避難先を求めており、それらの大都市はすぐに過密状態となった。

増加する難民の流れに対処するためには、移動のベクトルを地方に変えなければならない。大都市よりも生活条件が良い可能性がある場所だ。ポーランドの小さな町も、世界のどこの町でもそうであるように、若者の流出が進み、過疎化に悩み始めている。

マスターカードは、そのDNAに社会的責任を持つブランドとして、難民危機にあるウクライナ人を支援するために迅速に行動し、ベスト尽くすことを決定。ユニークなデジタルプラットフォーム「Where To Settle(どこに移住すべき?)」の開発に着手した。

ウクライナ難民の変化するニーズ(最初の避難場所から、その後住居、仕事探しまで)を追跡(データ分析)しながら、求人や賃貸アパートの情報を提供するサービスだ。

このインクルージブなデジタル・ツールが活用するのは、マスターカードに蓄積された支出に関する情報と、ポーランド中央統計局のデータベース。これにより国内各地の平均的な生活費、給与、経済状況などを分析する。

新しい住まいを探している人に、希望する仕事や家族の人数などを入力してもらうと、候補となる地域の情報を表示する。

また、ポーランド政府や地方自治体とも提携。ポーランドの各地域の地元住民が、地域の見どころをアピールするコンテンツも見ることができる。地域へのお試し訪問を促す招待インフォメーションも提供している。


2023私的ラップアップ(まとめ)


①戦略としてのクラフト

国で括ることに意味があるのか? は議論の必要がある。しかし、日本の強み、活路は「クラフトにあり」と改めて感じた。

インダストリークラフト部門でGPを受賞した「My Japan Railway」(JRグループ)はじめ、フィルムクラフト部門ゴールドの「A Train of Memories」など、"ものづくり”に関していい意味で狂ってる。「クレイジー」はカンヌでは褒め言葉だ。

デザイン部門、イノベーション部門でゴールドを受賞した「Shellmet」(甲子化学工業)は、SDGs×クラフト文脈での評価が高かったのでは? と推察している。現物を触ったことはないが、写真や映像で見る限り、これ、なかなか作れないんじゃないかと。

これらはいずれも、ただ卓越した職人技ということでもなく、世界に発信するためのある種の戦略性を持って、デザインされているはずだ。

②DE&I時代のエンタメ

この4〜5年、パーパスの嵐が吹き荒れたカンヌだったが、風向きがやや変わり始めた印象もある。そこにメイド・イン・ジャパンが食い込む隙間が生まれたのかもしれない。

これもあくまで印象だが、今年はセレモニー会場でいつもより笑いが多かった気がした。エモーショナルな表現で、人を笑わせる・楽しませる"王道エンタテインメト”の復権を感じた。

「ゲーム」という土俵で、それはより実現しやすい傾向がある(FIFA 23XTed LassoやClash from the past)。

しかし、これらもDE&Iの文脈(OS)の上で行われていることに留意したい。最終日の結果を見ると、DV(Knock Knock)、国家の危機(The First Digital Nation)、ウクライナ難民問題(Where to settle)、自死(The Last Photo)など、大粒の社会課題に取り組んだ施策が、高く評価されていることもわかる。

フィルム部門の2つのGPが対照的だったのは、今年を象徴していると感じた。

③AI色々、課題色々

AIは今年の主なテーマでもあったが、ひと口にAIと言っても色々だ。

GP受賞作を見ても、表情(The Scrolling Therapy)から画像(The Artois Probability)、眼球に口腔内まで(The Subconscious Order・Mouthpad)。AIはあらゆる領域を機械学習して、世界を劇的に変えていることがわかる。一方カンヌでは「なんちゃってAI」的なものも目にする。

話題の生成AIに関しては、昨年も受賞したインドの「Shah Rukh Khan-My-Ad」くらいしか私は気づかなかったが、ブロンズやシルバーまで丹念に見ていけば、次への"芽”が出ているかもしれない。この春以降、すでに多くのプロジェクトが立ち上がっているだろう。

ChatGPTのセミナーは本当にすごい人だかり。世界中みんな気になって仕方ないんだと思う。

④広告クロスカントリー現象

エントリー国が二カ国以上にまたがって表記されている事例が、いつもより断然多かった。例えばGP受賞施策で言うと以下7つ。

・Mouthpad(Peru+USA)
・#TurnYourBack(United Kingdom+Spain)
・Never Done Evolving Feat Sereina(Brazil+USA+Australia)
・The Greatest(USA+United Kingdom)
・Beautiful Life(United Kingdom+USA)
・The Scrolling Therapy(Argentina+USA)
・Working with Cancer Pledge(USA+France+United Kingdom)

ひょっとすると、リモートの普及によって国境を超えたプロジェクトが実施しやすくなったのか?

もし、クリエイティブの現場において、国境も溶け始めているのだとすれば、新しい時代の到来を感じさせて興味深い。「日本×どこかの国」といった座組みは、今後大きな可能性を秘めていると思う。

⑤Gutだぜ、南米魂

クリエイティブ・エージェンシーではGutに関心を持った(意味は「腸・はらわた」。複数形になるとガッツ)。バーガーキングで有名なDavidから独立、今年5周年を迎えるというこの会社は、「クリエイティブ・エージェンシー・オブ・ザ・イヤー」「インディペンデント・エージェンシー・オブ・ザ・イヤー」「インディペンデント・ネットワーク・オブ・ザ・イヤー」を受賞した。

現在、オフィスは世界6カ所。ブエノスアイレス、サンパウロ、メキシコシティなど主に中南米に展開している(アムステルダム、トロント、ロサンゼルスにもある)。

サイトを見てみると、「勇敢なクライアントのための勇敢なエージェンシー」を標榜し、「透明性(正直さ)」と「直感(身体感覚)」も重視している。「はたわたは第二の脳」などと書いてあって面白い(三木成夫の『内臓とこころ』みたいで)。AIとうまくコラボできるのは意外と、はらわたに宿るガッツかもしれない。


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