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田歌の祇園さん

「祇園祭り」というと京都八坂神社の祭礼が有名であるが、京都の北西に位置する美山のさらに東奥にある田歌(とうた)八坂神社の祭りもなかなか味わいがある。毎年7月14日に神楽が奉納される。地元では「田歌の祇園さん」と呼ばれ、親しまれているこの八坂神社の祭礼は、戦争中も途切れることなく、400年以上にわたり口伝で伝えられ、継承されてきた。このため、京都府無形文化財に指定されている。

昨年はコロナウイルス感染の拡大により、人が集まる祭りは軒並み中止となった。京都祇園祭りの山鉾巡行も中止された。田歌の祇園祭りは、村人だけの祭りとし、村外からの見物は禁止された。

今年はどのようになるのだろうか? 今年は、是非、村外の観客も一緒に、みんなで祭りを楽しみたいものである。ちなみに、今年の京都祇園祭りは、山鉾が鉾町の通りに飾られ、もろもろの祭事が行われるものの、残念ながら、前祭(7月17日)と後祭(7月24日)の巡行は再び中止と決まった。

さて、田歌の祇園祭りは、お宿でお祓いを済ませて、八坂神社の道中が始まる。子供が装う二匹の鬼が道を祓い、次に一本歯の下駄を履く天狗、神職、三人のやっこ、仮面をかぶったひょっとこ、お多福、樽負い爺が続く。最後に太鼓と笛が付いて八坂神社へと練り歩く。

捻り鉢巻きに法被姿のいでたちで、顔や手足におしろいを塗り、墨を使って濃い顎鬚と頬髯や体毛を強調した化粧のやっこの所作が、殊の外おかしい。盛り上がったお尻をフンドシで強調し、若々しいエネルギーに溢れた姿で、八坂神社に向かう途上では矛を振り回す。「おいっ やとーせー やとーな」という独特の仕草と大きな掛け声とともに、息の合った踊りを披露する。一番、二番、三番やっこがもつそれぞれの矛先には、草、蕾、花に見立てた飾りが付いている。

神楽堂での神事は、村人の太鼓の奉納から始まる。ちなみに、田歌(とうた)という地域の名前は「踏歌(とうか)」、つまり、「足を踏みならし、太鼓の打ち鳴らして歌い舞う」という言葉が訛ったものだそうだ。古楽とのつながりを想起させる逸話である。

祭神である素戔嗚尊(すさのおのみこと)を祭る田歌祇園社は小ぶりだが、それに比べると立派な神楽堂がある。田歌の神楽舞いは、面をかぶって踊る登場人物がとてもユニークです。

奉納される神楽舞は三部から成り、最初は、奴の舞で「さんぎり」。元氣活発な奴とゆっくりした樽負い爺の太鼓の掛け合いと仕草が微笑ましい。続く「にいまくら」は、お多福とひょっとこの舞いで、新しいカップルが相和して太鼓を打つ。神楽舞いの取りは「三の舞い」と呼ばれます。滑稽ものを演じた「猿の舞」や「散の楽」に通じる響きが感ぜられます。お多福、ひょっとこ、樽負い爺の三人が演じる舞で、樽負い爺がお多福のお尻を追いかけるおおらかなしぐさがなんともユーモラスです。

田歌祇園祭りは、子孫繁栄と五穀豊穣を願う神事ですが、天神に届ける高い笛音、地祇に届ける大きな太鼓音、舞手のユーモラスなしぐさが、祭りを多いに盛り上げます。この祭りのおかげで、田歌集落の住民は、絆を深め、強く結びついているのです。同時に、平安期の田楽躍りや猿楽から室町期には能楽・狂言にまで洗練された芸能の大本が、このように地域の神社で催される神事の舞いに残され、いまでも楽しむことができるのは、村外の者にとっても大変うれしいことです。

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