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【BOX 1】

ピンクの花をもぎ取りミツを吸っては捨てて歩いたのは小学生の頃、今時の子達は花のミツ、吸うんだろうか。
そんな事を考えながら歩いていると、ツツジが咲き誇るこの季節に、決まって遭遇する風景がある。

空を埋め尽くす大量の鯉のぼりとか、茶摘みの全盛期を迎え一面に広がる茶畑の緑だとか、その土地土地の風習はあるのかもしれないけど、関東のその風景は少しだけ様変わりしているという事に気づくのは、もう少し後の事になる。

私達はそれを、「大名行列」と呼んでいた。
ツツジの沿道沿いにカラフルな箱を持った小学生が列を成している。
下校時間に遭遇するとそれは圧巻だった。

前身では何かが入った箱を大事そうに持ち、後ろにはランドセルを背負って居るのだから小学生も通勤する社会人に引けを取らない位の重装備だなあと感心してしまう。

そして私は、また5月が来たんだなあ、という気持ちになる。

学生時代に1度だけ、中身を見せてもらった。
帰宅した妹が抱えて来た箱を恐る恐る開けてみると、そこには、新緑が詰まっていた。
そして、それらを必死に貪る小さな生命に出くわして目撃する事になる。

「ヒッッ」

声にもならない声を上げてあとずさりすると、箱の中の映像が引きで見えてきた。
怖いもの見たさなのか、中身を端の方から確認していく。

そこには、緑の葉を食べる芋虫が数十匹、ひしめき合い蠢いていた。
白のような茶色のようなまだら模様の身体に、細かい足の毛がついていて、顔の周りに黒い斑点がある。目と口は思いのほか大きく、忙しなく動いている。

「毎年やってるよ。蚕育てるの。」
「気持ち悪い!全員これやってるの!?」
「そうだよ。」

うぞうぞもぞもぞと同じ顔の集合体が与えられた食糧を食している。前歯らしき部分と前足をふりふりと動かして少しずつ、口に入っていく様が分かる。

「こいつら、ずっと見てると可愛いんだよ。」

妹の言葉に私は信じられない!と返したけど、どういう訳か、視線を留めしばらく観察を続けてしまった。
自身に大きな害がない事(刺されるとか噛まれるとか)と、フォルムが思っていたよりころんとしていて可愛らしい事、何より小さな口を必死に動かして食事にありつこうとしている健気な姿に、目が離せなくなった。

妹にもう箱閉めていい?と聞かれるまで、その日は観察を続けていた。
私は、その後の事を怖くて聞けなかったけど、
あれから10年経っても、その行事が続いている事に少し複雑な気持ちではいる。

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