見出し画像

【短編】ある晴れた日の午後4

「ディスプレイ、ねえ」

ファッションビルの中央入口を通り過ぎ、裏側の従業員出入口から入る。
郵便受けBOXから書類を取り出して、警備員にID証を見せてエレベーターホールまで進む。お客様用のエレベーターではないので、正直ボロボロだし下地のままみたいな質感で少しだけ乗り込むのに躊躇していたけど、今はもう慣れた。
行先階を押し、腕時計に目をやると、出社予定時刻の5分前だった。

予定より早く付けた事を喜びつつ、本日は忙しくなるであろう予感はしていたので改めて息をつく。

開店前準備のフロアは忙しないもので、各所から掃除機をかける音や釣り銭準備で、お金をレジにセットする音が聴こえてくる。

自分の店の前まで来ると、まだ防護ネットがかけられた状態で、少しだけ端をめくって中に入り込んだ。

「おはようございますー」

レジの所で既に釣り銭準備中のバイト室田友利に声をかけた。

「おはようございます奥山さん。今日は早めですね。」
「そう!ちょっと早くついたのです。ムロちゃんはいつも早いね。」
「今日もチャリで来ました。ちょっと耳が寒かったですけど」
「確かに。この季節は耳冷たくなりそうだね。」

ムロちゃん、と呼ばれる室井友利は、にっこりと微笑み、手を止めてそう返した。のんびりしてそうでやる事はやってくれる頼りになるバイトの子だ。

「あ、先程店長からお電話ありまして、本日もお休みだそうです。」
「ヨシオさんもう少し安静にしてないと駄目そうですね。了解です。」

吉野店長通称ヨシオさんは、数日前から謎の腹痛に見舞われ療養中のため、今日は実質2人でお店を回す事になる。

「ムロちゃん、今日ディスプレイ変更指示あったから、そっち進めちゃって大丈夫?」
「大丈夫です!では開店準備は私の方で進めますね。」
「ごめんねありがとう。」







この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?