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小説【dimbud 2 ユイト】


やつは、一瞬止まって周囲を見回したが、声の出所を特定できない様子で諦めて吸い殻を穴に入れる作業に戻ろうとする。

「おい、おい!!」

たまらずさっきより大きな声を出した。
ベランダの壁と隙間の間から、やつと目があった様な気がした。

「ああ?」

やつがこちらに近づいてきたので、僕は慌てて逆側の完全に死界になる方へ逃げ出した。
しばらくして、恐る恐る下を覗いてみたけどやつの姿は見えなかった。そのまま帰ってしまったのか、わからないけど、怒った顔のやつの顔に恐ろしくなってしまった。

ぼくはベランダのドアを開け、閉められていたカーテンを力いっぱい横に引っぱってどかし、中に入っていった。カギを掛けられたのは最初の1回だけで、次からはかけられてないけど、外で反省しなさいって意味だと思って気が済むまでそうしてる。

1回ヘラヘラした顔で外に立っていたら、追加で怒らせてしまったので、外に立つ時は反省した顔をするようにしている。


「ママ!うちの前に変出者がいる!」

ぼくが大慌てで中に入ってママに抱きついたから、事はうやむやになった。
人には人の、才能があるんだよと言った学校の先生の言葉をこうゆう時に思い出す。
多分、そうゆう才能はあるんだと思う。


数日後、学校帰りに家の方角の方に見慣れない光景が広がっていて、ぼくはぎくりとする。
家の近くに、パトカーが止まっていた。

外に近所のおばさんがいて、ぼくにかけよってきた。

「ユイトくん今帰りなのね。おかえりなさい。なんか大変みたいなのよ。」
「何があったんですか?」

強盗とか殺人事件とか凶悪な事件が起きたのだと、ぼくは悟った。パトカーがくるなんて、よっぽどの事だ。

「なんか、ぼや騒ぎみたいなんだけど」
「ぼや?」
「ユイトくんママが言うには放火か何かで、郵便物が燃えたって」

その言葉を聞いて、ぼくは数日前の事を思い出す。
姿が見えなくなってからのやつは、本当に何もしないで帰ったのかどうか。
青いウインドブレーカーの男がベランダの下までゆっくりと近づいていき、表札を確認したあと郵便受けを発見する。
やつは、受け口を片手で押さえて隙間を覗いて郵便物を見る。
そして右手で持っていたものをそのまま差し入れる

「ユイトくん?顔、真っ青だよ大丈夫?おばちゃんと家の中まで入ろうか?」

ぼくは後ずさりして唇を噛み締める。
遠くの視界の端に、青い物が映ったような気がして、ぼくはおばさんに抱きついた。

これは誰の性で起きたのか、どうしてこんな事になったのか、ぼくには分からなかった。



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