見出し画像

第42話『協力関係』

「キミの力をボクに貸して欲しい」

 ボクはそうエリィの長い耳にささやいた。
 この耳に噛みついて、歯型をつけたくなる衝動を押さえつつ言葉をかける。

「ねぇエリィ。ボクたちはキミたちを助けたいんだ。でもそれは、ボクひとりじゃできない。キミの力が不可欠なんだ。ボクたちは――協力できる」

「きょう、りょく?」

 エリィがいくら賢いとは言っても、所詮は子どもだ。
 マジック<鈍化>はボクが予想していたよりもずっと深くかかっていたようで、彼女は舌足らずにボクの言葉を繰り返していた。

「そう、協力だ」

「なに、すれば……」

「それはね――キミに、ボクの奴隷になって欲しいんだ」

 エリィがわずかに理性を取り戻す。
 さすがに『奴隷』の意味はわかったらしい。

「どれ、い? い、イヤぁ! それって、あたしに、あの・・エレナと同じになれってことでしょ?」

 エリィが恐怖と軽蔑を宿した目でボクを見る。
 あぁ、そんな冷たい視線もたまらない。が、今はそうじゃないだろうエリィ?

「ごめんね、それしかないんだ。キミも聞いてたでしょ? ボクはアイツらとの契約を果たさないと。キミを奴隷にしないと。でも安心して。必ず、すぐに解放するから。絶対に酷いことはしないし、させないって誓うよ」

 真摯な表情を作って、訴えかける。
 だが、まだ足りない。

「そんなの、信じられるわけ……」

「考えてもみなよ、ボクにエリィを騙す理由があるかい? ボクにはキミに命を救われた恩があるのに。大体、もしボクが君に酷いことをしたいだけなら、こんな……失敗したらボクも奴隷に落ちる、なんていう契約を結んでまで――”アーサルトまで”助けようとすると思うの?」

 まぁ、この契約条件については完全に誤算だったのだけれど。
 この際だ、利用させてもらおう。

「た、たしかに。……でも、あんたがお父さんが欲しかった可能性も。だってお父さんかっこいいし、あんたが好きになることだってあるかも」

「ハァ? ……あ、いやいや。なんでもない」

 思わずちょっと、素が出てしまった。
 今、ボクをホモ扱いしたかこのクソアマが殺すぞ?

 エリィの中で予想以上にアーサルトは過大評価されているらしい。
 これはもう少し大きく、感情に揺さぶりをかける必要があるな。

「エリィ、真剣な話だ。どうか聞いて欲しい」

「な、なに?」

 ボクは彼女の掴み、正面から見つめる。
 そして告げた。

「エリィ、ボクは――キミが好きだ」

「はぁ!? な、なに言い出すのよいきなり……」

 唐突な告白にエリィは戸惑い、視線を逸らす。
 ボクは言葉を重ねた。

「ボクは本気だ。キミを愛してる。キミの悲しむ顔を見たくないから、お父さんも助けたいと思ったんだ。ボクがキミのためにできることは全部してあげたい。……そう思うのは、間違いかな?」

 まるで「ごめんね」と謝るかのように、悲し気な笑みを浮かべた。
 あ、言っとくがボクは当然、べつにエリィに惚れてなんかないぞ?。

 この発言はあくまで、相手を動揺させるためだけのものだ。
 まぁ、このナマイキな絶世の美少女を犯してムチャクチャにしてやりたい、という性欲ならあるが。

「っ! あ、あんたみたいな気持ちの悪い人間に求愛されたって、うれしくなんかないわよ。それに……そんなの、絶対にウソよ。あたしに告白なんて、するはずない」

 ……ほほぅ?
 動揺すれば十分、だと思っていたのだがおもしろい反応が返ってきた。

「だって、あたし……その、村でも『御淑やかじゃない』『かわいくない』『暴れん坊で魔物みたい』って言われるもの。エレナみたいなモテるタイプじゃないし」

 そりゃそうだろうな、ボクだってお前みたいな暴君より従順な女が欲しいし。
 だが、なるほど。

 どうやらエリィはボクが想像していたよりもずっと、コンプレックスをこじらせていたらしい。
 これは好都合。

「そんなことない。エリィはかわいいよ」

「そんなわけっ!」

「いや、本心だ。むしろ、ボクはそんな……ありのままのエリィが好きだ。元気で明るくて、自信があって、ボクにないものをいっぱい持ってる。なにより、ボクは知ってる」

「なにを、よ」

「みんな気づかないだけで、エリィにも……エレナに負けないくらいおしとやかでやさしいところがあるってことを。だってエリィはボクをやさしく解放してくれたじゃないか」

「……!」

 大ホラだ。エリィの介抱は乱暴極まれりだった。
 しかし、都合のいいバカ女の脳みそであれば……。

「そのままの、あたしが? それに、あたしにもそんなおしとやかな部分が?」

 エリィは目を見開いていた。
 ほぉら、あっさり自分の記憶を都合のいい風に書き換えた。

「そうだよ。だから、ボクにとってエリィはすごく”特別”なんだ」

「特別……あたしが、特別」

 エリィが言葉を反芻する。
 彼女自身も頻繁に口にしていたフレーズだ。

 やはり、彼女の心はそこにあったらしい。
 いつしか、ボクを見る目には信頼すら浮かんでいた。

「わかったわ」

 エリィが受け入れた。
 あぁ、なんて簡単なんだろう!

(きひひっ、きひひっ、きひひのひっ!)

 笑いを堪えるのが大変だ。
 これから自分がどうなるのかも知らず、よくもまぁ。

(あぁ、エリィがボクの手に堕ちていく……!)

 期待と興奮で下半身が血が集まっていく。
 スキル<交渉術>によって理性をコントロールできていなければ、今ごろガマンできず、エリィの太ももにイチモツを擦りつけてオナニーでもはじめてしまっていたにちがいない。

「やめるんだ! エリィ!」

 そのときアーサルトの声が響いた。
 あぁ、そういえば彼はマジック<契約>の効果対象外だったか。

「僕の言葉を聞くんだ。奴隷になんて、なっちゃあいけない。僕たちは大丈夫だから、今すぐひとりででも、ここから逃げるんだ!」

 おいおい、アーサルト。
 それは逆効果にもほどがあるだろう。

 自分は「僕の代わりにエレナを助けてくれ」と言っておいて?
 結果……。

「――わかったわ」

 エリィの心は、決まった。


※ノベルピア(全編無料)
https://novelpia.jp/novel/3705
上記サイトにて、表紙イラストと先行エピソードを公開中!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?