第43話『ヒロイン、ゲットだぜ!』
「あたし、あなたに協力するわ」
「エリィ!?」
アーサルトがエリィの発言に声を上げる。
ボクはもう笑いを堪えるのが大変だ。
ありがとう、アーサルト。
お前がバカなおかげで、より容易くエリィの協力を漕ぎつけることができたよ。
「お父さん、さっきは言うこと聞かなくてごめんなさい。でも、でも今度こそ助けるから! 絶対にあたしが助けてあげるから!」
「エリィ、お前は……」
「お父さん、これ以上は口を開かないほうがいいですよ。お身体に障りますから」
ボクはそう、アーサルトを牽制した。
にっこりとまるで、本当に彼の安全を願っているかのような笑みで。
「エリィ、決めたんだね。お父さんを助けるためにがんばるって」
分かり切っていることを、あえてもう一度問う。
徹底的にエリィの逃げ道を奪う。
「うん、大丈夫。あたしも、あんたのこと信じるって決めたから」
腹を括って、自信に満ちた表情で、目には希望の光を宿して。
ほぉんと、バカだよねぇえええ!
「じゃあ、いくよ。抵抗しないで、心を安らかに、受け入れるんだ」
ボクはエリィを抱きしめた体勢のままに唱える。
彼女の耳元で、まるで囁くかのように。
「――マジック<テイム>」
ボクの手から魔力の光が溢れ出した。
エリィの周囲を渦巻き、徐々に光の牢獄を形成していく。
「ぅ……ぃぎっ……、ぅぅぐ……っ!」
エリィが苦悶の声を漏らした。
もしかすると本能が、他者への隷属に拒絶反応を起こしているのかもしれない。
生物としてはじつに正しい。
だが、それを彼女自身が捻じ曲げる。
「ぅぐ……う、ん! ぎぃ……っ! まけ、る……もんか!」
「エリィ、がんばるんだ! キミなら必ず、お父さんを救えるよ!」
ボクは正直、感心していた。
思春期くらいのバカな子どもってスゴイな。
思い込みだけで、自ら地獄を進むことができるのだから。
よろこんで奴隷になろうとしているのだから。
まったく、ボクにとってありがたすぎる!
やがて、光は急速に収束をはじめた。
「ぅぎいいいいいいいいい!?」
「あいだだだぁあああ!? ちょっ、このクソガキ、手ぇっ!?」
エリィがボクに縋りつくかのように手を握りしめた。
というか、腹の脂肪を掴んでいた。
(ぎゃぁあああ!? 痛い痛い痛い!? けど、途中でやめるわけには!?)
ちぎれそうなほどの激痛。
余裕だと思ったのに、なんでこんなところで!?
ボクがいよいよ耐え切れなくなって、エリィを殴り飛ばそうとした、その瞬間。
ガクンと彼女の身体から力が抜けた。
ボクの腹の肉が解放される。
まばゆい光が弾け散り、そして……エリィの柔肌にはっきりと奴隷紋が刻まれた。
――成功、だ。
「えへへ……。あたしがんばったよ。これでお父さんも、褒めてくれるかな……」
沸々と、ボクも遅れて達成感がやってくる。
一時は奴隷商人たちの殺されかけていた。
けれど、今はもうちがう。
確率の壁を超え、ボクは生き残った。
じつはずっと不安だった。
スキル<交渉術>で押し殺していたが、マジック<テイム>の成功率は100パーセントではないのだから。
しかし、ここは現実だ。
ならば使えると思った……ゲーム時代にはなかった、いわゆるシステム外スキル。
たとえるなら、これまでボクが行っていたテイムは『ボールを投げつける』だ。
そして、今回行ったのは『仲間になりたそうな目で見ている』。
そのハイブリッド。
周囲でざわめきが起こりはじめていた。
やがて、それは悲鳴や喝采に近いものへとなっていく。
「かぁぁぁあああはっはっはっはっはっはぁ!」
団長が大笑いし……。
そして、その顔から表情を消した。
「こいつはぁ、ってくれよったのぅあんちゃんやぁ?」
さっきまでは遊びだった。
しかし、今は明確に敵意を感じる。これまでとは比べものにならない威圧感。
「約束じゃけぇ、あんちゃんにアーサルトをくれてやろう。もちろん、あとから力ずくで奪うようなこともするつもりもないけぇのぅ。<契約>はまだ有効じゃからなぁ」
「じゃあ……」
「とはいえ、このまま帰すんじゃあ、わしらも納得できんのぅ」
凄惨な笑みを浮かべ、なにかの合図化のようにゆっくりと片手を上げた。
ボクはイヤな予感に襲われた。
もしかしてボクは勝つことに意識が行きすぎて、”勝ってしまった”あとを考えられていなかったのでは?
たとえば、もし、周囲の森に……外部協力者がいたとしたら!?
「ま、まだです」
「うぬ? なんの話かのぅ? わしらの勝負はもう、決着がついたと思うがぁ?」
ボクは頭を必死に働かせる。
いつまでこの<交渉術>による思考へのプラス補正が続くかもわからない。
時間はない。
攻撃手段として考えられるのは、やはり魔銃か? それも狙撃のような?
いや、待て。
そもそもゲンブから合図を送ってボクへ危害を加えさせれば、それは契約違反になるのでは?
つまり、攻撃以外の手段?
たとえば契約そのものを無に帰すような……。
(まさか、<契約>を破棄するような……マジックを無効化するような魔導具が存在するのか!?)
ちらりと見れば、職業『調停官』の奴隷商人がひっそりと移動している。
ボクは自分の思考が正しかったことを確信した。
今思えばゲンブは、アーサルトという超高級品を賭けることに対して不用意過ぎた。
もとからリスクがゼロだったのだとすれば、納得がいく。
「さて、ここいらでもう一度だけ聞いておこうか。あんちゃんは……」
どこかわざとらしくゲンブが問うた。
「――あんちゃんは、ウチへ入団するっちゅうことでいいんじゃよなぁ?」
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