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春の終わりに片羽の蝶が飛んでいた


4/26に必ず思い出すひとりの女性がいる。

でも、26日にふと小さな蝶が目の前をよぎるように一瞬ハッと見惚れて。また歩き出すと忘れてしまい、明日になってその美しさをまた思い出す。

そのくらい遠くにおいやることにしている。

わたしはどうしても彼女を追いかけたい。彼女が足を運んだ所には私も足を運んでみた。

すると、不思議なことに一歩足を踏み入れると彼女の視界を借りたような気分になる。

初めて「八本脚の蝶」(河出文庫)を読んだ時からシンパシーを感じてしまったのだ。あまり他人には教えたくない。この人のこともこの本のことも。

頼むから私以外読まないでほしい。そんなふうに想うくらい。

26日の夜が明ける前、薄暗いすずしい空の下で彼女はマンションの高いところから真っ直ぐに世界を見ている。

何年経ってもこの日になると彼女が夜が明ける前にそこに立つのだ。

涼しくて、ニナ・リッチの香りがしてくる。

彼女が開いた本、彼女が纏った香り、彼女が口にしたもの……

何故だかそれらに触れると肌にしっくりくるから、命がギリギリであることを教えられる。

何度も同じように、同じくらいの回数、生きることと死ぬことを失敗している彼女を知ってしまった。

そして、彼女は成功させた。

いけない、4/26になったら死んでしまう。

ニナ・リッチの香水を奥にしまった。
ロリータレンピカの香水を奥にしまった。

アビシニアンがわたしをみている

何が視える?

エンマは答える

その答えを聞く前に逃げ出す。

カッターも薬も全部奥に追いやる。

今日が26日だということを忘れて生きる。

しかし、27日に差し掛かる頃、雪雪さんや哲くんのことばをさがす。

見当たらない。

お願い、どうか寂しがり屋の彼女が今でも1人で泣いていないで欲しい。

自分の未来がそうであったら嫌だという焦りもあって、昔の掲示板を片っ端から探すも、かなり前に止まっている。

この本を開く、今日の日付に合わせて彼女の日記を見る。

彼女の世界はわたしの中で永遠に止まることがない。生きている限り。

わたしが止まるとき、彼女の世界も止まる。


愛する奥歯ちゃん、いまなにしていますか?


2024.5.25 可愛唯


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