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高還元SES企業の問題点①~還元率の計算方式がバラバラ~

『お客様先からいただく単金額に基づきエンジニアを評価する』という制度(単価評価制度)を導入している企業がここ数年で増えてきました。

この制度を導入している企業は、『還元率』——すなわち『単金額のうち何パーセントをエンジニアに還元するか』という指標を用いて、情報開示を行っています。

仮に単金額が同一であるとするならば、この還元率が高ければ高いほどエンジニア自身が手にする給与も高くなります。

転職を考えているエンジニアの立場からすれば、自分の給与が市場価値よりも低い会社に入社しようとは思いませんし、還元率の低い会社は還元率の開示自体を行わない傾向にあります。

エンジニアの目線からは『還元率を開示しているSES企業=市場価値以上の年収を得られる可能性が高い』と見られやすくなり、還元率を開示している企業に人気が集中することとなります。

つまり、『還元率が高ければ高いほどエンジニア採用に有利』という状況になっているのです。

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そのような情勢ですから、『高還元率』をウリにするSES企業はどんどん増えてきています。

中には『還元率85%』や『還元率90%』を謳う企業もあり、『還元率100%』を標榜している企業すら存在します。

はたして『還元率100%』など実現可能なのでしょうか?

常識的に考えて『あり得ない』といわざるを得ない還元率。その理由が明確になっていれば納得もできますが、表に出ているのはその数値のみ。

『何か裏があるのでは?』との思いを禁じ得ない企業も、少なからず存在しています。

はたして、なぜこのようなことになってしまったのでしょうか。

その原因は、『SES業界内で統一された還元率の計算方式がない』からに他なりません。

例えば、『還元率70%』を公称している企業があるとしましょう。

仮に『単金額:70万円』のエンジニアであれば、その70%——原価49万円をエンジニアに還元するということになります。

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従業員を雇うためには給与以外のさまざまな経費が必要となりますから、この『原価に経費をどこまで含めるのか』によって還元率は大きく変わることになります。

給与以外に発生する必要経費として、例えば下記のようなものが挙げられます。

・社会保険料(健康保険、厚生年金、雇用保険、こども子育て拠出金)
・交通費
・業務上発生する経費類
・有給休暇
・その他福利厚生(退職金制度や食事補助など)

もしも、これらすべてを『原価に含める』ものとして還元率を算出するのであれば、『還元率を80~90%』とすることも難しいことではありません。

他にも『待機時の給与をどうするのか』とか『有休取得等で契約に定める下限時間を割ってしまったらどうするのか(単金額が減額されたらどうするのか)』なども大きなファクターとなります。

仮にこれらを補填するための諸費用を『原価』に含めて計算するのであれば、『還元率90%』はもちろん『還元率100%超』の実現も可能となることでしょう。

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実際のところ、そのような手法で『高還元率』を謳っていると思われるSES企業が存在しているのは事実です。

では、はたして『還元率を高く見せる』こと自体が悪いことなのでしょうか?

私は『良いとは言えないが、悪いとも言えない』と考えています。

そもそもルールが存在していないわけですから、どのような基準で還元率を算出しているとしても『悪い』とは言い切れないからです。

本稿執筆時点(2021年)において、『計算式不明な高還元率SES企業』が雨後の筍の如く溢れかえっている状況です。

転職活動をしているエンジニアからすると、しっかり調査しないと『真に高還元率な企業がどこか』が分からない状況になってしまっています。

もっとも、『しっかり調査しよう』と思っても『還元率の計算方式が開示されていない』場合はやりようがないのですが……。

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この状況を改善するためには、はたして何をどうするべきなのでしょうか。

『よくある意見』として、『一般派遣で使われるマージン率と同じ計算方式にすべき』というものがあります。

しかし、私はこの意見に反対です。

ここでいう『マージン率』とは、『派遣先が派遣会社に支払う派遣料金と派遣会社が派遣スタッフへ支払う賃金の差額の割合』を指しています。

『正社員雇用(無期雇用)されている人』と『派遣社員雇用(有期雇用)されている人』、この両者を同一の計算式で算出するするとどうなるでしょうか?

待機リスクなどのコストを考えなくてもよい『派遣社員雇用(有期雇用)されている人』の方がマージン率が低くなり、「正社員雇用(無期雇用)されている人」が多いSES企業のマージン率が高く見えることになります。

派遣業界において、この『マージン率』が重要な指標であることには疑いの余地がありません。

しかし、だからといってそれがSES業界でも有益な指標になるとは限らないのです。

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このSES業界において、還元率の算出方法はこの先ずっと各社バラバラのままなのでしょうか?

私はそうはならないと考えています。

SES業界やITエンジニアのことを真摯に考えている経営者たちが協力し、統一された還元率の計算方式を定め、その計算方式に沿った還元率を示すようになっていく。

それに賛同する企業は次第に増え、その計算方式がSES業界におけるデファクトスタンダードになっていく。

『近い将来にこのような状況になるであろう』と私は考えています。

『常識的考えてあり得ない高還元率』をなんの根拠もなく標榜するような状況は、いずれ目にすることもなくなるでしょう。

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SES業界に『単価評価制度』が広まってきたのは、まだまだ最近の出来事です。

エンジニアからすれば『良い状況になっている』とは言いがたい状況ではありますが、近い将来に統一された指標で算出された『還元率』がSES業界全体に広まっていくことでしょう。

SES業界で転職するITエンジニアたちが『統一基準に沿った還元率』を見て、正当な評価と比較のもと会社を選ぶことができるようになる。

私はそう確信しています。