“SES事業の「高還元」を別事業の利益で実現” まったくもってオススメできない理由
新SES企業の各社が『還元率』で競い合っています。
還元率が高ければ高いほどエンジニア採用に有利ですし、経営者の心情として「競合他社よりもエンジニアに還元してあげたい」という気持ちがあるのがその理由でしょう。
新SES企業の各社が還元率で競い合うという状況はITエンジニアの待遇向上につながります。SES業界で働くITエンジニアにとっては良いことと言えるでしょう。
しかし、「高還元」は「薄利多売」なビジネスモデルです。
牛丼ビジネスをイメージいただればお分かりいただけるかと思いますが、「薄利多売のビジネスモデルでは大企業が有利になる」という点は見落とされがちです。
中小企業や創業間もないSES企業であるのにもかかわらず、『還元率85%』や『利益10万円固定』を謳う企業が存在します。
中には『還元率100%』を標榜している企業すら存在する状況です。
そのような状況を目にすると、私の脳裏にひとつの疑問が浮かんできます。
「これほどまでに還元率を高めた状態を、5年10年と維持し続けることは可能なのだろうか」と。
そんな継続困難と思えるほどの高還元率を設定しているSES企業の中には、「SES事業とは別の新規事業で利益を出し、その分をエンジニアに還元する」という戦略をとっているパターンがあります。
しかし、これはちょっと無理がある経営計画/経営判断だと言わざるえません。
例えば、一般的な高還元SESが「還元率75%」だったとしましょう。
もし、新規事業で利益を出すことで「還元率85%」を実現しようとした場合、新規事業で出さなければならない利益額は「SES事業の売上高×10%」となります。
仮に、SES事業における売上が「10億円」であるとしたら、その10%である「1億円」の利益を新規事業で出して、SES事業のために使う必要があります。
この「1億円」は、「売上高」ではなく「利益額」であることに注意してください。
そもそも新規事業をそこまで成長させるのも大変ですが、仮にそこまで成長させられたとしてもさまざまな疑問が湧いてきます。
その「湧いてくる」疑問とは、例えば下記のようなものです。
SES事業の売上高が拡大し続けてたとして、新規事業の利益で高還元を維持できるのでしょうか?
その新規事業は、今後も継続して利益を出せるのでしょうか?
新規事業の利益は、新規事業をさらに伸ばすために投資するべきではないでしょうか?
新規事業でたくさん利益を出したのであれば、新規事業をになう従業員に還元されるべきではないでしょうか?
そういったことを考えて行くと、「SES事業とは別の新規事業で利益を出し、SES事業のエンジニアに高還元を実現する」という計画は無理があるとしか思えないのです。
中小企業や創業間もない企業の中には、「自社の強みを作るため」という名目で大手企業よりも高い還元率を設定してしまうケースが見受けられます。
しかし、組織が拡大していくにつれさまざまな課題が噴出し、必要経費が膨らんでいくのが常です。
無理な経費削減が必要になる状況では組織が上手く回らないですし、利益も少なくなることから財務状況が不健全な企業になっていってしまいます。
また「消費税免税対象期間中は高還元でもしっかり利益が出ていたが、免税期間が終わった途端に一気に利益が薄くなってしまいジリ貧になる」というケースも見受けられます。
(免税期間は長くても2年で終わりです)
もし、「高還元なSES企業」を立ち上げ維持していこうとするのであれば、しっかりと先を見据えて中長期的な計画のもとに還元率を定めましょう。