エンジニアに案件選択してもらうことで得られるメリット
ITエンジニアが案件を選べるSES企業が増えています。
「自分で案件を選びたい」と思った時、一昔前まではフリーランスになるくらいしか方法がなかったので、正社員ではなくフリーランスの道を選ぶITエンジニアが数多く存在していました。
しかし、それは過去の話です。
年々深刻化するITエンジニア不足の情勢を受け、「ITエンジニアに良い労働環境を提供しよう」と考える企業が増えてきたことにより、『案件選択制度』――ITエンジニア自身が案件を選べる制度を導入する企業が増えてきたのです。
その一方で、案件選択制度の導入を躊躇している企業も存在しています。
その背景には「”ITエンジニアが自分で案件を選ぶ”という仕組みには、少なからずデメリットが存在する」との考えがあり、その「デメリット」として次の2つの理由がよく挙げられます。
チーム体制が組みにくい
(営業戦略的に効率的ではない)ITエンジニアが案件選択を誤ってしまう
(キャリア戦略を踏まえた上で正しい選択ができない)
大手のSIerや事業会社と取引をするにあたっては、お客様の要望を聞かないと案件をもらいにくくなります。
お客様としては多くのエンジニアを求めているわけで、できる限りチーム体制で参画してもらいたいと考えています。
参画メンバーが勤怠不良やパフォーマンス不足で離脱になったら、すぐに代わりのエンジニアを用意してほしいですし、残業が多くなったとしてもプロジェクト遂行を第一として頑張ってもらいたいと考えます。
時にこれらはITエンジニアの希望とは乖離がしょうじるので、案件選択制度を導入することでお客様の要望には応えられなくなってしまうリスクがあるのです。
「ITエンジニアに案件を選ばせてはいけない」という意見があります。
そのような意見を述べる人は、その理由として「キャリアを考えた正しい判断ができないから」と説明します。
ほとんどのITエンジニアは、「自分のキャリアを考えた適切な選択ができず目先のことを考えた判断をしてしまうため、会社側が選んであげるのが最善だ」という考えをされているようです。
しかし、この2つの「デメリット」には対応策があります。
「①チーム体制が組みにくい」という見解については、2つのアプローチが存在します。
ひとつ目は「案件選択制度を導入しつつ、選択の幅や自由度をコントロールする」という手法。
例えば、注力するお客様の数を限定し、調達するエンジニアの数を少なくするというアプローチがあります。
このパターンの場合、自由に案件選択をすることができるITエンジニアを増やすことができます。
その他のアプローチとして、「ITエンジニアの属性等により、一部のグループのみ案件選択制度を導入する」というものもあります。
案件が集まりやすいハイスキルのITエンジニアには自由に案件を選ばせて、案件が集まりにくいロースキルのITエンジニアには会社が選んだ特定のお客様の案件に参画してもらう……という手法ですね。
選択の幅や自由度をコントロールすることで、チーム体制となりやすいようにすることで、先の懸念を払拭するようにしている企業もあるようです。
ふたつ目は「社員数を増やし、同じ案件を選ぶ確立を高める」という手法。
例えば、社員数が数千名規模の巨大SES企業を作ったとしましょう。
それだけ社員数が多くなれば同じ案件を志望するITエンジニアも相対的に増えますので、ITエンジニアの選択の自由度をキープしたまま結果的にチーム体制が作れるようになっていきます。
「②エンジニアが案件選択を誤ってしまう」という点については、「そもそも案件の選択を誤るというのは、必ずしも悪いことではない」という点を指摘しておきたく思います。
「決断する」という行為には、人を大きく成長させる力があります。
「会社の指示」という”誰か”の決断の結果として良い案件に巡り会うよりも、自分で決断して良い案件に入れたときのほうが成長できます。
もちろん決断するからには失敗することもあるでしょうが、それも成長の糧になるのです。
会社や社長は、その成長を阻害してはなりません。
もし社長が「俺の言うことに従ってれば将来安泰だ」という方針で社員を採用し、常日頃から指揮命令を細かく下していたら……。
その会社には「何も考えられない人」や「組織や他社への依存度が高い人」だらけの会社になってしまうことでしょう。
「会社に依存している」人が大半という状況。
社長としては喜ばしいことにその企業の社員は退職しにくくなるでしょうが、イエスマンしか集まらない会社になっていくといずれ会社も社員も不幸になるのは目に見えています。
「案件選択制度のデメリット」については、対処法があることを示しました。
では、「案件選択制度のメリット」とはなんでしょうか?
一番のメリットは、「ITエンジニアが納得して案件に参画してくれる」ことによるLTV(エンジニア生涯価値 粗利×在籍年数)の向上です。
「参画後に何かあっても案件を変えられる」という状況は安心材料になりますし、自分で選んだ案件に参画するのであれば満足度も高くなります。
ITエンジニアの満足度が高い状態を維持できれば、在籍年数は増えてLTVが高まります。
SES事業で最も大切なKPIの一つであるLTVが高まれば、企業としても業績を良くなっていくことでしょう。
この流れが加速して、SES業界全体に案件選択制度が広まっていけば……。
必然的にITエンジニアから人気の無い案件――例えば労働環境が劣悪な案件には人が集まらなくなりますから、各プロジェクトの責任者は「ITエンジニアの労働環境や待遇面」を無視できなくなります。
その結果、世の中には安心感と納得感を持ったモチベーションの高いITエンジニアと、労働環境や待遇面のバランスも取れた優良案件が続々と増えていくことでしょう。
案件選択制度を導入することによる恩恵は、ITエンジニアや制度を導入している企業だけに留まらず、SES業界全体に好循環を起こすものなのです。