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水のようにしなやかに:無形の力~柔弱ハ不定形ナリ【きまぐれエッセイ】

川の流れ、雨のしずく、海の波。どれもこれも一瞬たりとも同じ形をしていない。水は自由だ。拘束を知らない。枠にはまらない。

考えてみれば、水は非常に哲学的な存在だ。蒸発しては空に舞い上がり、雲となって集まり、雨となって地に戻る。何度も何度も形を変えて、この地球上を旅する。だが、そのどれもが水であることに変わりはない。水のようにしなやかに、しぶとく生きるとは、どんな状況でも自分自身を保ちつつ、柔軟に対応することだろう。そう、風にそよぐ柳のように、折れずに曲がる強さ。

道(タオ)の人々は、この水の性質を自然と体得しているように見える。
彼らは騒ぎ立てることなく、静かに存在する。その静けさの中にこそ、重みがある。ことば少なであっても、その一言一言が胸に響く。それはまるで、長い冬の間に芽吹くための力を蓄えた種が、一度の春の訪れとともに一気に花開くように。

だが、道(タオ)の人々は、決して自分の影響力を意識することはない。名を成すことにも興味はない。ただただ、自然に任せる。その存在自体が、周囲に静かな影響を与えているだけだ。

思い返せば、あたしが出会ったそんな人々は、皆そうだった。特別なことは何もしていない。ただ、そこにいるだけで、何か大切なことを教えてくれるような気がするのだ。まるで、水のように。

水のように生きるとは、決して派手なことではない。むしろ、静かで、目立たない。だが、その柔らかさの中には、揺るぎない強さがある。あたしも、そんな風に生きてみたいと思う。どんな困難にも、どんな環境にも、柔らかく、しなやかに、そして、したたかに。


天下の至柔、天下の至堅を馳騁し、無有は無間に入る。
吾れ是を以て無為の益有るを知る。
不言の教え、無為の益は、天下、之に及ぶこと希なり。
[老子:第四十三章偏用]


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