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よく晴れた原宿。

 中学生の時、原宿は憧れの街だった。

 アイドルの生写真、竹の子族、クリームソーダという髑髏のマークのファッションブランド。テレビや雑誌から情報を仕入れて、いつも想像に胸をふくらませていた。

 ある時、父の東京出張についていくことになった。どこか行きたい場所はあるかと、父に聞かれた。
 「原宿にいってみたい」
 当時、ぼくが知っているほぼ唯一の東京の地名だった。
 するとなぜか、父の取引先の弁理士さんのお嬢さんがぼくを案内してくれることになった。彼女はぼくと同じ年だった。
 原宿の駅で待ち合わせ、表参道にむかってぶらぶらと歩いた。

「大作くんは、どんなものが好きなの?」 
「YMOとか好きだよ。それとカルチャークラブ」
「ふーん、音楽が好きなんだね」

 初対面の彼女は、自然にいろんなことを話しかけてくる。男の子と女の子が仲の良く歩くのは普通でしょ、って感じなんだけど、田舎からでてきた僕にしてみれば、これは完全にデートである。友達に見られたら、ヒュヒュー言われるやつである。さすが東京の女の子だ。

「大作くんは、食べ物はなにがすき?」
「ラーメンとかすきだな。特に味噌ラーメン」

 大作くん、って話しかけられるたびに心臓がバクバクした。

 表参道に立ち並ぶ高級ブティック、原色を着こなすおしゃれなお兄さんやお姉さん。それは雑誌でみる世界だった。当時のぼくは軟式庭球をやっていて丸坊主。服装も周囲からは完全に浮いていたし、誰から見ても「ザ・おのぼりさん」だっただろう。この街でぼくだけが浮いている。必死で平静を装っているが、世界中がぼくのことを見透かしている、そんな気持ちだった。

 あれから30年がすぎ、ぼくはすっかりおじさんになった。原宿を歩いていてドキドキすることはない。でこの街に来るたびに、あの日の甘酸っぱいドキドキがよみがえる。


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