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じーっと猫が...サクサク天ぷらが100円...沖縄の小島をロードバイクでめざす旅。

 急に日常から離脱したくなるときってありますよね。仕事をするのが嫌なわけじゃないんだけど、環境を変えたいっていうか。そんな時は自転車を担いで、どこかにでかけるようにしている。見知らぬ土地を風をきって走れば、もやもやなってすっ飛ぶし、あなたの人生をより豊かにしてくれるだろう。

 ということで、ある日、ロードバイクとともに那覇へと向かった。

 2023年の12月、東京はもうコートが必要な寒さだった。しかし2時間弱のフライトで降り立った那覇の街は、Tシャツに短パンで十分だった。

国際通り
ソーキそばのお店
ソーキそばには紅生姜
ジャッキーステーキハウス
メニューボードがすでに美味しそう
テンダーロインステーキ

 那覇について、ホテルに荷物を預けると、なにはともあれ腹ごしらえ。

 ここは美味いものの集積地だ。まずはおやつがわりに牧志公設市場でソーキそば。一口啜ると思わず、うまい!と声がでる。こんなに滋味あふれるそばが一杯480円。少し甘めでお出しが効いた味に、沖縄にきたことを実感する。
 その夜は、ジャッキーステーキハウスでテンダロインステーキ。肉が柔らかくって、ぱくぱくと食べられる。どちらのお店も、ほぼ地元の人たちで賑わっていた。沖縄、いいなぁ。
 サイクリングとは全く関係ないが、これも大切な旅の楽しみだ。

那覇の朝焼け

 その日は朝から曇り空。しかもぽつぽつと雨がふってきた。午後にはやむようだが、出発が遅くなる分、ロングコースは難しいだろう。

 そこで前々から気になっていた、ある場所に行こうと思い立った。

 本島の南部、南城市にある小さな島。100メートルほどの橋で渡れて、猫がいっぱいいて、そこの天ぷらは絶品で、大勢の人たちが天ぷら目当てに訪れるという。那覇からは南へおよそ20キロ。寄り道しなければロードバイクなら1時間ぐらいだ。

 その名を、奥武島(おうじま)という。
 天ぷらを食べに人々が押しかける島なんて、興味津々だ。

 雨が止んだのは、13時ごろ。
 多少の寄り道をしても暗くなる前には戻れるだろう。那覇のホテルから市街地をぬけて南に向かう。次第に信号の数が減り、走りやすくなる。これならかなり早い時間に着きそうだ。

 南風原町(はえばるちょう)に差し掛かった頃、気になる看板が目に入ってきた。

 「陸軍病院 南風原壕群 20号」

 うむ、おそらく終戦間際の激戦のなかで、病院となった壕が残されているのだろう。少しルートを逸れて立ち寄ってみることにした。

サトウキビ畑を貫く一本道

 道路の脇にポツポツとある看板に従い進んでいくと、黄金森公園という野球場や陸上競技場がある広大な公園にたどり着いた。ソロソロと公園内を進んでいくと、鬱蒼とした林の奥に、かまぼこドームのようなものが突き出している。
 自転車をとめて、階段をあがっていくと、まさにそれが戦時中に陸軍の病院として掘られた横穴壕だった。

鬱蒼とした林の中にひっそりとあった
壕の入り口

 米軍が沖縄に上陸してから、ここでは重症患者で溢れかえり、麻酔なしで外科手術が行われるような有様だった。あのひめゆり学徒たちも看護補助要員として働いた。ガザ地区やウクライナのことが脳裏をよぎる。

 年配の方々が数人で何かの準備をしている。聞けば今日は修学旅行生が訪れる予定で、壕の中を案内をするのだという。そのうちのひとりの女性が声をかけてくれた。60代だという彼女は、アメリカ統治下にあった戦後に生まれだ。ここが陸軍病院であったことはもとより熾烈な状況があったことすら40歳をこえるまで知らなかったのだという。

 「当時は、学校では沖縄戦は教えてなかったの。1990年ににこの壕が町の文化財に指定され、一般公開が始まったのが2007年。それがきっかけで、語り部になろうと思い、当時のことを調べて初めて、この壕がなんだったのかを知ったの。両親から当時のことを聞いたのもそれがきっかけだった。子どもの頃から、穴があるのは知ってたけど、それが何かは知らなかったし、アメリカ統治下の沖縄の学校では一切教えてくれなかった。教育ってそんな風にコントロールされちゃう。その怖さをいつも話しているの」

 壕のなかは、案内がないと入れないとのことで今回は断念した。事前に連絡をとれば、できるだけ対応してくれるようだ。沖縄本島の南部には、戦争の爪痕が至ることに残されている。こうした史実と向き合うことができるのも沖縄ライドならではのことだ。

峠を越えると視界に海が飛び込んできた

 コースに戻り、ひらすらに南を目指す。それほどの斜度でもないがダラダラとした坂をこえると、視界に海が飛び込んできた。  
 
 そこから奥武島はすぐだった。

 坂を降り切ると、島へとつながる短い橋にぶつかる。せっかくここまできたのだからと橋の上で自撮り。雲が低く垂れこているが、海を見るとやはり気持ちがぐぐっと上がる。

奥武島への橋上で

 いよいよ、天ぷらと猫の島に上陸。

 シーズンオフの、平日の曇天。さすがに島は静かだった。島の南にあるという、竜宮神という名の奇石をまずは目指してみる。島はとてもこじんまりとしていて、一周1.7キロ、ロードバイクなら10分もあれば回れてしまう。

 島の南端にでると、一匹の猫と目が合う。ぼくは猫アレルギーではあるが、猫は嫌いではない。びっくりさせないようにそろそろとカメラを向けてパチリ。少しずつ間合いを詰めて近づくが、3歩目で逃げられてしまった。サングラスをかけカメラを覗き込みながら近づいてくるおっさんがいたら、ぼくだって後退りする。でも噂通りに、猫に出会えて少しうれしい。
 竜宮神という岩は、海中に聳り立つよう建っていた。まるで巨大なエリンギのような不思議なその姿は、神々しくもある。波の音だけが響くその場所で、しばらく海を眺めていた。

島はすぐに一周できるほど
目があった猫
この直後、逃げられた
竜宮神の看板
聳り立つ竜宮神
海はすごくきれい
グラスボート

 島の入り口の方に戻ると、天ぷらを売っている場所を見つけた。メニューを見ると、すべて1つ100円。驚くほど安い。お店の方になにがよく売れるのか尋ねると、さかな、もずく、海ぶどう、だというので、その3つを注文。支払いは前払いだ。お金を支払うと、お店の人が天ぷらを揚げ始める。

愛車
天ぷらを買う窓口
天ぷらは、すべて100円

 「はい、おまたせ」

 お店の人から、あっつあつの天ぷらがはいった紙袋を受け取る。店内にはイートインのスペースはなく、お店の前のスペースに置かれたベンチで食べるらしい。

 まずはもずくの天ぷらから。

 はふっとかじると、あっつあつで、サックサクで、もうそれだけで幸せな気持ちになる。もずくの歯応えが心地よい。そして甘さとほろ苦さがいい感じで混ざり合い、思わず「美味い」と声を上げてしまったほどだ。

 続く、さかなの天ぷら。具材はマグロだろうか、チキンナゲットを食べているようで、噛むたびに旨味がジュワジュワと広がる。至福である。

もずくの天ぷら
さかなの天ぷら

 ここまで一気に食べたのだが、ふと気がつくと強い視線が。二匹の猫がじーっとこちらを見つめている。すでに間合いをかなり詰めてきている。天ぷらを狙っているのだろう。あとひとつ残った天ぷらは海ぶどうだ。小さなかけらをポトリと落としてみる。猫はまったく見向きもしない。試しにもう一度落としてみるが、やはり無視される。なるほど、魚が食べたかったんだな、と思ったのだがそれはすでにお腹の中だ。ごめんな、お裾分けできないよ、と申し訳ない気持ちになりながらも、海ぶどうの天ぷらもサクサクして絶品。猫ちゃんたちに見守られながら完食した。カロリーがやや気になった
が、20キロも自転車に乗ってきたんだし、帰りも20キロ帰るんだしと、プラマイゼロのはずだ。

気がつくと二匹の猫に囲まれる
海ぶどうの天ぷら
じーっと見られる

 奥武島は、那覇からそれほど遠くもなく、またアップダウンもそれほどでもないので、ロードバイクであれば、サクッと往復できる。ひめゆりの塔も近いし、少し足を伸ばせば、琉球王国最高の聖地ともいわれる斎場御嶽(せーふぁうたき)もある。さまざまなコースが楽しめる沖縄でのサイクリングは、シーズンオフのこの時期がおすすめだ。

 那覇市内をポタリングもしたんだけど、首里城ヒルクライム、地元で愛される定食屋さん、極上ビーチなどを巡ってこっちも最高でした。
https://note.com/kawabou/n/n656153f127d0?magazine_key=md5ea5f22bcb9

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