なぜ鉄道車両の車輪はカーブを曲がることができるのか
こんにちは。交通技術ライターの川辺謙一です。
今回は、「なぜ鉄道車両の車輪はカーブを曲がることができるのか」という疑問に対して、私なりにお答えします。
結論から言うと、その答えは車輪の構造にあります。
■左右の車輪は車軸に固定されている
「鉄道車両がカーブを曲がるなんて当たり前だ。車輪がレールに沿って転がるからだ」と言う方もいるでしょう。
じつは、それほど単純なことではないのです。なぜならば、鉄道車両の車輪は、乗用車やバスなどの4輪自動車(以下、自動車)の車輪と比べると、特殊な構造になっているからです。
自動車がカーブを通過するときは、左右の車輪の回転速度に差ができます。カーブでは「外側の車輪が転がる距離」が「内側の車輪が転がる距離」よりも長くなるので、「外側の車輪」は「内側の車輪」よりも速く回転します。
いっぽう鉄道車両がカーブを通過するときは、「外側の車輪」と「内側の車輪」が同じ速度で回転します。左右にある2つの車輪が1本の車軸に固定されているからです。このような車輪と車軸がセットになったものを「輪軸(りんじく)」と呼びます。
直線の線路では、左右の車輪が転がる距離が同じなので、輪軸は問題なくそこで転がることができます。
ところがカーブの線路では、そうは行きません。「内側のレール」よりも「外側のレール」のほうが長くなるので、本来ならば内側の車輪よりも外側の写真が速く回転しなければなりません。しかし、輪軸の左右の車輪は、同じ速度で回転することしかできません。
それなのになぜ、鉄道車両の車輪はカーブをスムーズに通過できるのでしょうか?
■車輪は円錐を切り取った形をしている
そのひみつは、車輪の形にあります。
鉄道の車輪のうち、レールと接する面(踏面:とうめん)は円錐を切り取ったような形をしており、外側に行くほど、レールと接する部分の半径が短くなるようになっています。厳密に言うと、円弧の一部を切り取った形を採用した例もありますが、ここでは円錐形になった円錐踏面について説明します。
輪軸は、曲線区間ではレールに沿って曲がり、直線区間では片側のレールに偏ることなく転がることができます。つまり、輪軸には、レールに沿って自ら舵を切り、転がるという機能があるのです。鉄道では、これを「自己操舵(じこそうだ)機能」と呼びます。
自己操舵機能について、もう少しくわしく説明しましょう。
たとえば右にカーブする曲線区間では、輪軸は軌道の中心よりも左(カーブの外側)に寄って転がります。このとき左の車輪では、レールと接する部分の円周(直径×円周率)が右の車輪よりも大きくなります。しかし、左右の車輪は同じ速度で回転するため、左の車輪は右の車輪よりも速く進むことになり、輪軸に旋回モーメントが働いて右向きに旋回します。これによって、輪軸はレールに沿って自ら舵を切り、曲がることができます。
レールの長さの左右差に対しては、レールと接する部分の円周の左右差で対応します。つまり、右の車輪の円周よりも左の車輪の円周が大きくなることで、左右のレールの長さの差に対応するのです。
いっぽう直線区間では、輪軸は基本的にまっすぐ転がります。もし輪軸が右側のレールに近づく(右に変位する)と、レールと接する部分の円周が左右の車輪で差ができるため、輪軸に旋回モーメントが働いて、軌道の中心に戻ろうとする復元力が生じます。つまり、輪軸の位置が左右どちらかに偏ると、中央に戻す力が働くので、輪軸がレールに沿ってまっすぐ転がることができるのです。
輪軸は、このような自己操舵機能があるため、レールに沿って鉄道車両の進路を案内することができます。鉄道車両が、自動車にあるステアリング機能がなくてもレールに沿って走ることができるのは、このためです。
「輪軸」が転がる向きは、カーブしたレールに合わせて自動的に変わります。つまり「輪軸」は、自ら舵を切って転がるのです。
■鉄道車両の運転席には「舵」を切るハンドルがない?
多くの乗り物には、進路を操縦する「舵」が存在します。自動車はハンドル(ステアリングホイール)、船は操舵輪、航空機は操縦桿をそれぞれ操作することで、進路を変えています。
ところが鉄道車両の運転席には、このような「舵」を切るためのハンドルがありません。それは、輪軸が自己操舵機能によって自動的に舵を切ってくれるからです。
このため、鉄道では、多くの車両をつなげて走ることができます。各車両にある輪軸がそれぞれ自動的に舵を切ってくれるので、列車がカーブに差し掛かっても、レールに沿ってスムーズに通過することができるのです。
鉄道が、陸上での大量輸送が得意なのは、このような性質があるおかげなのです。
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