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鉄道技術をざっくりと学びたい方のための入門書9冊

こんにちは。交通技術ライターの川辺謙一です。

このたびは、noteに投稿された膨大な数の記事の中から、見つけていただきましてありがとうございます。

みなさまの中には、このような方はいませんか?

  • (A)最近鉄道に興味を持ちはじめ、「鉄道技術のことをもっと深く知りたい」と思っている

  • (B)鉄道関連の仕事に就くことになり、「鉄道技術のことを手早くざっくりと学びたい」と思っている

今回は、(A)や(B)の方のために、「鉄道技術をざっくりと学びたい方のための入門書」を9冊ご紹介します。

ただ、(A)の方と(B)の方では、それぞれ目的が異なります。(A)の方の中には、「鉄道趣味の延長として学びたい」と思っている方が多いでしょうし、(B)の方の中には、「日々の業務に必要最低限の知識を短期間で得たい」と思っている方が多いでしょう。

そこで以下では、便宜上次のように対象を分けて、9冊の本をご紹介します。

  • (A)の方向け → 「一般向け

  • (B)の方向け → 「専門家向け

私が参考にした書籍の一部

なお、この記事で紹介する書籍は、2024年7月に発売された私の著書『最新図解 鉄道の科学―車両・線路・運用のメカニズム―』(講談社ブルーバックス)の執筆のために参考にしたものの一部です。記事のヘッダーに載せた写真は、実際に参考にした本の一部ですが、「入門者にとっては内容がむずかしい」と感じた本は、この記事では除外させていただきました。

前置きが長くなりましたが、さっそく入門書をご紹介します。
お役に立てば幸いです。

■1・まずは車両から学びたい(一般向け・専門家向け)

鉄道に興味を持ったばかりの方の多くは、「車両」に興味を持った方でしょう。「車両」は、私たちが「乗る」ことが体験できる存在であり、鉄道に興味を持つ入口になる存在だからです。

そこで、車両について知りたい方に、以下の3冊をおすすめします。

[1]は、車両技術を豊富な図とともに解説した本です。大部分は2色刷りで、残りが4色刷り(カラー)です。CGよりも味わいがある手描きの図を眺めるだけでも楽しいので、見た目は子供向けの鉄道図鑑に近いかもしれません。

ただし、内容は高度であり、車両技術に関する基礎的かつ普遍的な情報が詰まっています。出版から37年経った現在でも、内容が色あせていません。

[2]は、[1]よりも車両技術を深掘りした本です。すべてのページがモノクロで、内容は[1]よりも専門書に近く、情報の密度が高いです。

著者の久保田先生(1924年〜2007年)は、国鉄の小倉工場長を務められた方で、後述する[9]をふくめ、鉄道に関する多くの書籍を出版されています。その中でも[2]は、車両技術全般を扱っており、車両の製造から管理、そしてメンテナンスに至るまで解説しています。

鉄道の車両を扱った本は多数ありますが、日々の管理やメンテナンスまで扱った本はめずらしいです。その点では、[2]は貴重な資料です。

[3]は、車両のうちの電車に焦点を当てた書籍で、電車の「走る・曲がる・止まる」という動きをくわしく説明しています。すべてのページが4色刷り(カラー)で、図や写真が多いので、一般の方にも読みやすいです。

これも内容が高度で、機械や電気の知識がないと理解するのがむずかしい部分があります。その点においては、一般向けというより専門家向けと言えるかもしれません。

この書籍は、2回の改訂を経て2022年に発行されました。私の友人・知人である鉄道関係者のなかには、[3]を持っている人が多数います。たとえば某鉄道会社の社員は、「この本を読んでやっと電磁直通ブレーキを理解できた」と言っていました。

■2・全体像を学びたい(一般向け・専門家向け)

次に、鉄道の全体像を学びたい方に向けて、次の1冊をおすすめします。

[4]は、タイトル通り鉄道技術をわかりやすく図解した入門書です。この記事では長くなるので割愛しましたが、監修された秋山先生(第10章を執筆)以外に、著者として6人の鉄道技術者の方々がそれぞれ異なる章を執筆しています。つまり、鉄道技術の各分野のエキスパートの方が書いているのです。

私は「要素技術と運行のシステムを学ぶ」というサブタイトルから、鉄道技術の全体像にふれていることを感じました。一般の方には少しわかりにくいかもしれませんが、鉄道には施設や設備があり、それを支える職場や、そこで働く人がいます。また、鉄道では、これらの「要素」が連携し、全体として「システム」として機能しています。そのことを学ぶことが、鉄道技術を知る入口になることを、このサブタイトルが示していると私は考えます。

※この「鉄道はシステムである」という考え方に関しては、一般の方にはわかりにくいと思うので、以下のnoteの記事で解説しました。

[4]の帯には、「新人研修テキストや資料にも最適!」と記されています。私は実際に読んでみて、これから鉄道現場で働く人を意識して書かれた入門書であると感じました。

この本は、全ページが4色刷り(カラー)であり、写真や図、表が多数掲載されています。このため、ざっと眺めるだけでも楽しめるように工夫されています。

また、この本では、多くの方が興味を持ちやすい「車両」に関する技術紹介に多くのページを割いています。このため、鉄道に興味を持たれたばかりの一般の方にとっても、それなりに楽しめるだろうと私は感じました。

ただし、これはあくまでも技術の解説書であり、内容が高度なので、一般の方にとっては「むずかしい」と感じる部分が多いかもしれません。

■3・仕事に役立つ知識を短期間で得たい(専門家向け)

『わかりやすい鉄道技術』シリーズ。この写真の土木編と電気編は、改訂前の旧版です

専門家の方のなかには、「[4]ではでは少しもの足りない」と感じる方もいるでしょう。[4]は、あくまでも一般の方を対象に鉄道技術の基礎を解説したものであり、内容をあまり深掘りしていないからです。

そのような方には、次の3冊をおすすめします。

[5][6][7]は、これから鉄道現場で働く方に向けて記された、鉄道技術の基礎を学ぶための入門書です。

ここで「一般向け」として紹介しなかったのは、鉄道趣味の要素がほとんどないからです。これらの書籍は、[1]と同様にオールカラーで、鉄道趣味誌と同様に発色がよい紙が使われていますが、あくまでも本業の方向けに書かれたものなので、鉄道趣味誌のように多くの種類の車両の写真が掲載されていません。

この3冊は、公益財団法人 鉄道総合技術研究所 鉄道技術推進センターが発行した書籍です。一般の書店では販売されていないようですが、研友社のウェブサイトで注文することができます。

また、この3冊は、鉄道技術者である友人から「鉄道の本や記事を書くなら、これぐらい読んでおいたら?」と勧められた書籍です。私は、ある鉄道会社の「電車運転士を目指す方向けのテキスト」を執筆したことがあり、そのときにこの3冊がとても役立ちました。

■4・鉄道工学の全体像を学びたい(専門家向け)

専門家の方のなかには、「鉄道現場の細かい話ではなく、学問としての鉄道工学の全体像を知りたい」という方もいるでしょう。そのような方には、次の2冊をおすすめします。

『鉄道工学』と『鉄道工学ハンドブック』

[8][9]は、すべてのページがモノクロです。私が何度も読み直し、多くの付箋をつけた本でもあります。「鉄道工学は総合的な工学である」「鉄道はシステムである」ということを学んだ本でもあります。

[8]は、いわゆる専門書です。3人の著者の方は全員国鉄のOBで、博士号を持った鉄道技術者です。

[9]は、[8]よりも写真や図が多いので、一般の方にも読めるかもしれません。ただし、盛り込まれた情報量が大きいため、総ページ数が300ページを超えており、厚さが2.4cmもあります。原書は絶版になったようですが、2024年2月にグランプリ出版から復刻版が出版されています。

■5・おわりに もっとやさしい入門書はないのか

以上、鉄道技術をざっくり学びたい方のための入門書を9冊ご紹介しました。
いかがだったでしょうか?

これら9冊は、すべて鉄道技術者の方が記した書籍です。このため、高校で学ぶ物理や数学を最低限の知識として持っていることはもちろん、大学の工学部・理工学部で学ぶ機械・電気・土木に関する基礎知識がないとわかりにくい部分も少なからずあります。

このため、一般の方のなかには、「もっとやさしい鉄道技術の入門書はないの?」とおっしゃる方がいるかもしれません。

それに対する私の答えは「残念ながら、ない」です。

世の中には、今回紹介した9冊よりも難しい書籍や専門的な書籍はたくさんあります。いっぽう、これらよりもやさしく、かつ内容が正確な書籍はほとんどありません。少なくとも私は、そのような書籍に出会ったことがありません。

かくいう私は、「これら9冊に書かれた内容をもっとやさしく説明できないか」と思い、鉄道技術を一般向けに翻訳する仕事をしてきました。鉄道技術者ではありませんが、大学や大学院で工学を学び、メーカーで製品の研究開発に携わったことがあるもと技術者なので、その経験を活かし、各分野の鉄道技術者の協力を得て、この仕事を続けてきました。

その結果、鉄道技術を一般向けに解説するのはきわめて難しいと痛感しました。この行為には、「これ以上やさしく説明すると内容が不正確になる」という限界があり、それを超えることが危険であると気づいたからです。

冒頭で紹介した私の著書『最新図解 鉄道の科学』は、先ほど述べた限界と直面しながら書いた書籍です。ただ、私は9冊の内容を参考にしてまとめた立場にすぎないので、自分の著書を9冊と同列で語るのは「おそれ多い」と感じています。


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