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iPadで本の校正をデジタル化して実現した3つのこと

こんにちは。交通技術ライターの川辺謙一です。

おもに交通に関する本や記事を書く仕事をしています。

今回は、私にとっての  #デジタルで変わったこと を、「iPadで本の校正をデジタル化して実現した3つのこと」と題して書きます。

現在使っているiPadの詳細やその他のツール、そしてアプリも紹介します。

「紙の本を出版するうえで欠かせない作業をデジタル化したら、こんなメリットが得られた」という話として、ご参考になれば幸いです。

【追記】この記事では、Adobe InDesignなどの編集ソフトを使った校正についてはふれていません。もちろん、作家の方のなかには、ご自身で編集ソフトを使って校正を行っている方もいますが、私は図や写真が多く、レイアウトが複雑な本を多く書いているため、編集ソフトの操作は専門の方にお任せしています。

■ 「校正」という神経をつかう作業

私が上梓した単行本は、すべて紙の本として書店に並んだ実績があります。これらの単行本は、過去に掲載された記事をまとめた2冊を除き、すべて書き下ろしです。

このような単行本を書き下ろす者にとって、神経をつかう作業。

それが「執筆」と「校正」です。

単行本の執筆は、定期刊行物の記事の執筆とくらべると締切に若干のゆとりがあります(あくまでも「若干」です)。

いっぽう単行本の校正は、その執筆とくらべて締切がタイトなので、骨が折れます。

校正とは、印刷された原稿(校正刷)をチェックして、誤りを正す作業です。執筆のときには気づかなかった事実関係の相違や、誤字・脱字を見つけ出し、修正の指示を校正刷に書き込みます。

校正では、著者編集者だけでなく、校閲者と呼ばれるチェックのプロの人が協力し合って誤りを見つけ出します。私の場合は、さらに可能な限り交通などの各分野の専門家に校正刷を送って査読してもらい、事実関係に誤りがないか確認しています。

なお、校正には、紙への刷り上がりを確認する「色校」も存在します。私の場合は、文字主体の単行本を出しており、色校の「紙」を見る機会があまりないので、その話は割愛します。

校正は限られた時間内に終わらせなければならないので、ヒヤヒヤします

例えば紙の単行本の場合は、ざっくり言うと校正→印刷→製本→配本という手順を踏んで書店に並ぶので、書店での発売日が決まると、自動的に校正を終わらせるリミットが決まります。このため校正はそのリミットまでに終わらせる、つまり「校了」しなければならないのです。

■ iPadで校正のデジタル化を実現

私にとって、書き下ろしの単行本の校正は緊張し、たいへん疲れる作業です。

緊張するのは、紙の本はいったん世に出てしまうと、修正ができないからです(増刷したときに誤字などを修正することはあります)。この点が、公開後に修正できるWeb記事とは大きく異なります。

このため、私は独立から20年かけて、校正をデジタル化して作業効率を高める方法を模索してきました。

2004に独立してフリーランスのライターになったころは、校正刷はあくまでも「」で、編集者とは宅配便でやり取りしていました。東京都心から若干離れた場所に住んでいたので、深夜の発送期限までに宅配便の営業所に出向いて、校正紙を発送することもありました。

2010年ごろからは、大容量のデータをインターネット経由で送受信できるようになり、編集者から校正刷がデジタルデータ(PDF)として送られてくる機会が増えました。ただ、当時は「送られてきたPDFを紙に印刷して、修正指示を書き込み、それをスキャンしてまたPDFにして送り返す」という、いま思うともどかしいことをしていました。PDFに手書き文字を入力するツールが発達していなかったからです。

じつは、このあと試行錯誤がありました。試験的に板型タブレット(板タブ)を導入したものの、モニター画面を見ながら手書きで文字を入力するのに慣れず、断念。家電量販店で液晶タブレット(液タブ)の使用を試したものの、「紙に書き込む感覚となんかちがう」という理由で導入を見送りました。

2020年になって、ようやく自分に合った手段を見つけ、校正を完全デジタル化しました。Apple社のiPad Pro(第4世代)とApple Pencil(第2世代)を導入することで、まるで紙に文字を書くときのように、修正指示をPDFにスムーズに書き込むことが可能になったからです。ちなみにiPad Proでは、Goodnotesというアプリを使用しています。

iPad ProとApple Pencilのおかげで、校正が完全デジダル化できました

■ デジタル化で実現した3つのこと

校正を完全デジタル化したことで、以下の3つが実現しました。

  • ① 作業時間の短縮

  • ② ペーパーレス化

  • ③ 気持ちの余裕

それぞれ個別に説明します。

① 作業時間の短縮

①の「作業時間の短縮」は、修正指示を書き込むのにかかる時間と、編集者と校正刷をやりとりするのに要する時間の両方が短縮されたことを指します。

修正指示を書き込む時間は、iPad ProとApple Pencilのおかげで短縮されました。かつては赤ペンで修正指示を書き込む時は、修正液や修正テープを使って「書いては消し、書いては消し」を繰り返していましたが、今はiPad Proの画面上でかんたんに赤字の修正ができるようになり、作業効率が上がりました。

出版社と校正刷をやりとりに要する時間は、大容量のPDFを送受信できるネットサービスをおかげで大幅に短縮されました。これによって、宅配便の営業所に駆け込む必要がなくなりました。

② ペーパーレス化

②の「ペーパーレス化」は、編集者との「紙」のやりとりがなくなることで実現しました。おかげで仕事で使うコピー用紙や、シュレッダーにかけて廃棄する紙の数だけでなく、プリンターで消費するインクの量が減りました。

③ 気持ちの余裕

②の「気持ちの余裕」は、①と②の両方によって実現しました。これは、校正にかかる時間が短縮されただけでなく、時間に余裕がないときに「コピー用紙がない」「プリンターのインクがない」「宅配便の営業所に行かねば」などと慌てる必要がなくなったからです。

■ おわりに

以上、私が実践した校正のデジタル化と、そのメリットを3つ紹介しました。

もちろん、校正そのものは、完全デジタル化した今もヒヤヒヤしますし、骨が折れる作業であることに変わりはありません。ただ、編集者と紙をやりとりしていた時代とくらべると、明らかに作業効率が上がったと実感しています。

近年は、2019年末からのコロナ禍の影響もあり、出版における校正のデジタル化が加速し、編集者とPDFのやりとをするのが当たり前になりました。私のように、校正を完全デジタル化した編集者が増えたからです。

このような変化の波に乗るうえで、今回の記事が少しでもお役に立てば幸いです。

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