見出し画像

スポーツを軸に様々な角度から地域貢献を考える川崎ブレイブサンダース

2020年9月にB.LEAGUE B1に所属するプロバスケットボールクラブの川崎ブレイブサンダースが、川崎市とSDGsに関する協定を締結。「&ONE(アンドワン)」プロジェクトとして数々の取り組みを行なってきました。選手自らが積極的にSDGsを学び、17の目標の達成に向けたイベントの開催や、再生可能エネルギー100%の電力の利用など、多岐に渡る取り組みについて、SDGsプロジェクトリーダーの隠岐洋一さんに伺いました。

株式会社DeNA川崎ブレイブサンダース SDGsプロジェクトリーダー 隠岐洋一さん

選手自らが積極的にSDGsを学び、ファンの皆さんと共に成長していく

——今回のインタビューは、クラブのオフィスも入っている「カワサキ文化会館」でおこなっていますが、素晴らしい施設ですね。

選手とディスカッションしていく中で、気軽にバスケットボールが出来る環境が減っているよねという話になりまして、子ども達が安全にスポーツを楽しめる環境を提供するミッションとして昨年8月に開業しました。

コートは、お子さんから大人の方まで全ての方が無料でご利用いただけますので、放課後になると、たくさんのお子さんがバスケットボールを楽しむ姿が見られるんですよ。

パチンコ店を改装し、京急川崎駅から徒歩1分の立地にオープンした「カワサキ文化会館」。マルチパーパスコートやダンスエリア、eスポーツエリアもあり、コートでは子どもと大人が一緒になってバスケットボール等を楽しむ姿が見られる。
味の素㈱がサポートするカフェも併設。川崎産の野菜を使った豚汁やおにぎりは、スポーツの合間のエネルギーチャージにもピッタリ。

——屋内施設ということで安心感もありますし、おしゃれなカフェもあって、お子さんが利用しやすい雰囲気なのが良いですね。こういった様々なチャレンジが各方面から注目を集める川崎ブレイブサンダースさんですが、2020年にSDGsの取り組みとしてスタートさせた「&ONE」プロジェクトが話題です。

我々のチームは、もともと多摩川の清掃活動や、街の落書き消しなどを川崎市と一緒におこなっておりまして、強いチームでありたいというだけでなく、地域貢献をテーマに活動をおこなってきました。そんな中、これまで以上にクラブとして主体的に地域に貢献するには・・・、と考えた時に出てきたキーワードがSDGsでした。

プロジェクトをスタートするにあたって、SDGs研究の第一人者でいらっしゃる慶應義塾大学の蟹江憲史先生にアドバイスをいただき、まずはSDGsの17の目標のうち3番の「すべての人に健康と福祉を」の取り組みとして、市内の保育園や幼稚園へバスケットゴールを寄贈する活動を行いました。

——2021年にはプロジェクトの一環として「川崎ブレイブサンダース太陽光発電所」が誕生し、家庭向けに電気の販売もスタートしましたね。

太陽光発電に関しては、みんな電力を手掛ける「UPDATER」と「イスズ」のふたつの会社様とご一緒させていただいています。この取り組みがスタートするにあたって、相模原にある太陽光発電施設に選手が見学に行き、太陽光発電の仕組みや、世界の気候変動の問題などを学ばせていただきました。

そして、多くの方に「川崎ブレイブサンダース太陽光発電所」を通じて再生可能エネルギーや環境に興味関心を持っていただくために、一般の家庭向け電力プラン「川崎ブレイブサンダース電気」の販売や、発電所で作った電力を選手が利用するクラブハウスやホームゲームで使用することで“電力の地産地消”に貢献する活動もおこなっています。

もともとは脱炭素への具体的な取り組みまでは考えが及んでなかったのですが、ありがたいことにプロジェクトを進めていく中で「取り組みを一緒にしませんか?」とお声掛けいただき、パートナーシップを組ませていただく機会が増えました。また、SDGsの繋がりから、クラブのスポンサーになってくださる企業様も増えました。

SDGsの取り組みの課題として、コストの問題で持続的な活動が難しいというお話をよく聞きますが、我々のプロジェクトに共感してくださる企業様からスポンサードをいただくことで、持続可能な活動へのサイクルが生まれています。社会貢献や地域貢献はもちろん大事ですが、単発で終わらせるのではなく、取り組みを継続する仕組みを成立させ、SDGsを通じて経済も回していく、そういった流れが出来ていることが嬉しいですね。

——「&ONE」プロジェクトを進めていく中で、選手の皆さんの意識も変わってきたのではないでしょうか?

「&ONE」アンバサダーである篠山竜青選手を中心にSDGsの啓蒙活動を行なっていまして、篠山選手とは定期的にミーティングの場を設けて意見交換していますし、クラブ内でのSDGsの取り組みを共有しています。

篠山選手だけでなく、このプロジェクトには全ての選手の理解と協力が必要なので、毎年1回、過去には蟹江先生にもお越しいただくなど、選手やチームスタッフ向けにSDGsの勉強会をおこなっています。勉強会では選手同士でグループディスカッションを行い、そこで提案されたアイデアを具現化するという動きも出てきています。

選手の意識向上のためにSDGsに関する勉強会を行うほか、隠岐さん自身も3ヶ月に一度のペースでSDGsの有識者から学ぶ機会を設けているそう。

——選手の皆さん自らがSDGsを学び、理解することも必要なミッションということですね。

そう思います。「カワサキ文化会館」の屋上に、衣類などのポリエステル繊維から生まれた土で野菜を栽培する「&ONE FARM」という農園を作ったのですが、農園を作るアイデアも、選手が考えたアイデアの一つです。そこでは小学生と一緒に選手が苗植えを行い、野菜の地産地消や食育、環境を学ぶ機会を作っています。

ファンの皆さんの中には脱炭素や再生可能エネルギーと聞くと“難しそうだな”と構えてしまう方もいらっしゃると思うんですね。でも、応援している選手がSDGsの取り組みを発信すれば、より興味が持てるようになるのではないかと思います。そういったことから、篠山竜青選手を中心に選手自らが積極的にSDGsを学び、ファンの皆さんと共に成長していくことを大切にしていますね。

クラブのオフィスもある「カワサキ文化会館」の屋上に設置された「&ONE FARM」では、食育や地産地消の学びの場として、選手とファンの皆さんが一緒になって野菜を栽培している。
衣類などのポリエステル繊維から生まれた土“TUTTI®(トゥッティ)”を培養土の代わりに使用し、現在はトマト、オクラ、枝豆の栽培に挑戦中。

——では、今一番力を入れていらっしゃる取り組みは何でしょうか?

このプロジェクトのスタートから2年半の間に約60の取り組みを行なってきたので、ひとつに絞るのは難しいのですが、先程もお伝えした「&ONE FARM」の活動は今後が楽しみですね。去年、種から植えたものが上手く生育できず、野菜を育てる難しさを実感したので、今年は苗から育てることに挑戦中です。

そして、今年の3月におこなったSDGsの17項目すべての目標にチャレンジするイベント「&ONE day」では、パートナー企業様にSDGsに関連するブースを出展していただき、我々としても大規模なイベントとなりました。

もうひとつ、企業や法人に向けたSDGsフォーラムの開催も大切なイベントですね。川崎市にはSDGs登録・認証制度(※1)というものがありまして、3000以上の企業や法人が登録・認証されているそうなのですが、具体的なSDGsアクションとはどういったものなのか、我々の取り組みだけではなく、様々な企業の事例を紹介し、企業ができるSDGsについて共に学ぶ機会を設けています。

——今後の展開にも注目が集まりますが、現在の目標を教えてください。

ホームゲームの会場では、すでに様々な取り組みをおこなっているものの、試合日以外でも365日SDGsに取り組んだり、発信していきたいという想いがあります。

そして先日、親会社であるDeNAが、京急川崎駅隣接地に10,000人収容のアリーナを含む複合エンターテインメント施設の開業を2028年10月に目指す「川崎新!アリーナシティ・プロジェクト」の始動を発表しました。

このプロジェクトは単にアリーナを作るだけではなく、サステナブルな社会の実現を目指す施設として、ハード・ソフトの両面でサステナブルや脱炭素を盛り込んだ拠点になる予定です。

クラブのミッションである「MAKE THE FUTURE OF BASKETBALL〜川崎からバスケの未来を〜」の実現のために、世界中の方に利用していただける施設を目指す意味でも、クラブ一丸となって、これからもSDGsの取り組みを拡大していきたいと思います。

※1 川崎市SDGs登録・認証制度「かわさきSDGsパートナー」について(川崎市ホームページより)


書いた人・佐藤季子
編集プロダクション勤務を経て、音楽誌や演劇誌などエンタメ系の雑誌でライターとして活動。地元・川崎市では、麻生区の地域情報サイトロコっち新百合ヶ丘、小中学生で結成された麻生区SDGs推進隊(一般社団法人サステナブルマップ )の運営メンバーとして活動中。