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【ショートショート】トイレはどこだ

「くそっ、一体どうなっているんだこの都市は」
タカハシは悪態をつきながら街をさまよっていた。
タカハシが、ここロボトニア・シティに来たのは今日が初めてだった。
彼の仕事は人間とロボットがより自然にコミュニケーションを取るためのインターフェースをデザインするインターフェイスデザイナーだった。
今回ロボトニア・シティの大手ロボット製造企業から、ロボットが人間の微細な表情や声のトーン、体温などから感情を読み取り、それを基に、人間の感情や状態に合わせてロボットが適切に対応するためのヒューマンタッチ・インターフェース作成の依頼を受け、打ち合わせのためにやって来たのだ。
打ち合わせは順調に進み、午前中には終了した。
あとは帰るだけだったが、ふと街を見物していこうかと考えたのだ。
それが間違いだった。
街中をぶらついていると、突然もよおしてきてしまったのだ。
「よりによって大の方か。仕方ないどこかでトイレを借りよう」
そしてそこで初めて気がついたのだ。
トイレがないことに。
タカハシはトイレを探してさまよったが、公衆トイレらしきものは見当たらず、店の中にもなかった。
「なんてこった…」
ロボトニア・シティの住人は大半がロボットであり、人間はほぼいないということは知識としては知っていた。
実際、打ち合わせ先の社員もみなロボットだった。
だが街にトイレがないとは想像もしていなかったのである。
タカハシは通りすがりのロボットに声をかけた。
「すまない、トイレを探しているんだが、どこか知らないか」
ロボットはその光る目でタカハシをしばらく見つめた後、
「我々ロボットには排泄の機能はないため、都市内にはご所望の施設はございません」と答えた。
他のロボットに聞いても答えは似たようなものだった。
「ロボトニア・シティは、ほとんどの住民がロボットであるため、トイレというインフラは必要とされていません」
「ああ、人間の方々には必要な場所ですよね。残念ながら、ここではそのような場所は見当たりません」
タカハシは途方に暮れて立ち尽くしたが、嘆いてばかりもいられない。
限界は近づいているのだ。
「こうなったらタクシーを捕まえて空港まで行くか。空港ならトイレがあるはずだ。しかし間に合うか…」
考えていると、一体のロボットが近づいて来た。
「お困りのようですね。何かお役に立てることがあるでしょうか?」
「ああ、ひどく困っている。この近くにトイレはないか」
タカハシはすがる思いでロボットに尋ねた。
「なるほどトイレですね、お任せ下さい。ご案内いたします」
「本当か!すぐに頼む」
ロボットはついてこいという仕草をすると、歩きはじめた。
タカハシはあわててその後を追うと、やがてあるビルにたどり着いた。
ビルの中は広々としており、多くのロボットが活発に動き回っていた。
中央には大きなデスクがあり、そこには受付係のロボットがいた。
案内してくれたロボットが何かを伝えると、受付のロボットがタカハシの方を向いた。
「あなたがトイレをお求めの方ですね?」
受付のロボットがニコリと笑顔を作りながら言った。
「はい、お願いします!」
タカハシは食い気味に答えた。
受付のロボットは「こちらへどうぞ」と手を指し、一つのドアを示した。
タカハシがそのドアを開けると、目の前にはピカピカと光るトイレが!
「助かった!すまんが借りるぞ!!」
タカハシは脱兎の如く部屋に飛び込んだ。
「こんなに喜んでもらえるなんて。お役に立ててよかったです」
案内したロボットは満足げに微笑んだ。
そのビルの看板にはこう書かれていた。
”最新VR(仮想現実)体験センター!あなたの望むものはなんでも本物と見分けがつかないくらいの立体映像で提供いたします!“

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