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【ショートショート】運試し擬人化

「やあ、こんにちは!」
「えっ、誰?」
俺は思わずそんな声を出してしまった。
突然俺に話しかけてきた男は
「僕は運試しの神さまだよ」
と答えたのだ。
「運試しの神さま?」
「今運試ししようとしたでしょ?」
確かに今、運試しと思って宝くじを買おうと思ったけど……。
俺はまじまじとその男を見つめる。
一見普通のサラリーマンのようにしか見えないが、どこか不思議な雰囲気も漂わせている。
もしかして本当に神さまなのだろうか。
「運試しの神さまって何をするんです?」
「運試しした人を成功に導くことかな」
「え? じゃあ俺、ラッキーなんですかね?」
「まあ、そうなるかな」
「やったー! ありがとうございます!!」
さっそく宝くじを買いに行こうとすると、神さまがまた声をかけてきた。
「あ、買わないほうがいいよ、全部外れだから」
「……はい?」
「だから、君が買う宝くじは全て外れなんだ」
「な、なんでですか!全然ラッキーじゃないじゃないですか!!」
「いやいや、こうやって事前に知ることで無駄なお金を使わずに済んだでしょ」
「ええ……、微妙なラッキーだなあ。っていうか運試しする前だったのにどうして教えてくれたんですか?」
「それは幸運の神さまからの依頼でね。ちょっとしたアルバイトみたいなものさ」
「へえ、どうせならもっと大きな幸運をくれればいいのに」
「はは、それは今の君の運じゃ難しいね」
「え?」
「今年君の引いたおみくじを思い出しでごらん。それじゃあね!」
運試しの神さまはそういうと、人混みの中に消えていった。
「今年のおみくじ……そう、確か……」
末吉だった。
「なるほど、末吉ならこんなもんかな」
妙に納得してしまった。
「じゃあ宝くじ買うはずだった分で、何かうまいものでも食って帰るかな」
そんなことを呟きながら、俺は歩き出した。

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