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中国発、米国1位アプリ「Temu」が日本上陸。驚愕の低価格実現の背景は

シェア買いアプリ「カウシェ」を運営する株式会社カウシェ代表取締役の門奈です。
今回は、中国で生まれ米国で破竹の勢いで成長し、つい先日日本にも上陸したECアプリ「Temu(ティームー)」について、中国で生まれ人生の半分を中国で過ごしてきた私の考察を紹介したいと思います。

日本で「PayPay」をはじめとするキャッシュレス決済が流行したのは2019年。実は、中国ではすでにその5年前から「Alipay」や「WechatPay」が流行し、キャッシュレス化が進んでいました。
このように、中国のテクノロジー事情は日本の少し先の未来を歩んでおり、国民性等の違いにより事情は少し異なりながらも、中国の最新状況を覗いてみることで日本の数年先を垣間見れるような気がしており、私は日々考察をしています。

中国の事情の中でも、私が特に気になるのは、我々が運営する「カウシェ」の領域でもあるオンラインショッピング、いわゆるEコマース(以下、EC)領域について。

今回取り上げる「Temu」は、中国で3番目に規模の大きいECである「拼多多」(読み:Pinduoduo)を傘下に抱えるPDDホールディングスが新たに世界展開を目指して開始したサービスです。(※なお、Pinduoduo
は、カウシェがシェア買いサービスを開始するにあたり着想を得たサービスでもあります。)

・中国発のECサービスが、なぜこれほどまでに急速に米国で利用者数を伸ばしているのか?
・7月頭に展開を開始した日本では今後どうなっていくのか?
・タイトルの通り、破格の価格での商品販売を行うために、裏にどんな仕組みがあるのか?

以下、私の考察をご覧ください。

中国発、米国人気サービス「Temu」とは

10円以下で購入できる商品もあり、送料も無料

2022年9月に米国でサービスを開始した中国発の越境ECサービス「Temu」。2023年2月には、「Shop Like A Billionaire (億万長者のように買い物しよう)」をメッセージとして、アメリカ最大のスポーツイベント・スーパーボウルに約1400万ドル(約18億9000万円)かけた広告を出し知名度を上げ、2023年3月までの累計ダウンロード数は5000万を突破
2023年2月にはカナダ、3月にオーストラリアとニュージーランドでサービスを開始。現在では22カ国※にまでその勢力を伸ばし、7月2日にはひっそりと日本でもサービス提供を開始しました。
(※2023年7月6日 Startup e-commerce platform Temu expands to Japan

これほどまでに多くの国で短期間でユーザー数を伸ばした理由は、商品の驚くほど安い価格にあります。

Temuで取り扱う衣服、化粧品、家具、小物等の商品は中国からの輸出品であり、Amazonや他ECと比べて配送に時間こそかかるものの、低価格で商品を手に入れたいユーザーに受け入れられているのが現状です。

昨年、Z世代を中心に爆発的ヒットとなった中国発の格安ネット通販「SHEIN」と同様、低価格を武器にTemuも日本において大きな注目を集めるだろうと、私も感じています。
メディア「36Kr」によると、Temuの勢いはSHEINを脅かすほどで、Bloomberg Second Measureが数十億件のクレジットカードとデビットカードの取引記録を分析したところ、米国人が5月中にTemuに支払った金額はすでにSHEINより20%近く多かったとの報道まで流れています。

SHEINも同じく激安価格を武器に戦う

Temuのビジネスモデル、安さの実現のために、ここまでする

Temuのモデルは「完全なる安さの実現」を目指した自社管理型です。
Amazonや楽天と違い、出店者ではなくTemuが販売価格を設定し、マーケティング・顧客獲得・フルフィルメントまでを行い、サプライヤーである加盟店は商品を倉庫に準備するだけで、米国等をはじめとする海外消費者への販売を可能にしています。
なお、消費者が驚くほどの安価な販売価格を実現するため、中間業者を徹底的に省き、Temuは生産工場と直接取引をおこなっています。

また、サービスの急拡大を狙い、加盟店にも恩恵を受けさせることを目的とし、現時点での加盟店の手数料と保証金は0円。Temuの持つ広州の倉庫に配送するための物流コストでさえ半分をTemuが負担しています。(2022年12月まではTemuが100%負担)

これだけにとどまらず、低価格を完全実現するためにTemuには価格を監査する独自のシステムがあるとのこと。Temu上の販売者の価格が類似商品の価格より高い場合は、Temuは加盟店に再見積もりを依頼する仕組みになっていると中国現地では報道されています。
(参考記事:拼多多Temu出海,为什么这么猛?

低価格実現のためリリースした、新機能「入札モデル」の開始

また最近Temuは加盟店に対し、定期的に商品の入札を依頼する「入札モデル機能」を開始したと言われています。

この機能は、加盟店は決められた入札時間以内に価格の提示とサンプルの送付を行わないと、商品のTemu上での販売ができなくなる可能性があるというもの。
入札は、1週間に1度と高頻度で行われており、その入札に出された商品の中で、低価格帯の商品のみがTemu上で販売することができると予想されています。
なお、たとえその週に最安値で勝ったとしても、来週入札で、他の加盟店がより安い価格を提示した場合、商品は販売停止となり返品されるという可能性もあるらしく、他より安い金額を出さないと商品の販売の土台にさえ乗ることができないし、たとえ販売開始したとしても競合に負けたら一旦詰んでしまった在庫はどうなるのか...加盟店側の立場を考えると、非常にどきっとする機能です。そこまでして低価格のプレッシャーを加盟店に与えるTemuのやり方は、日本にはないものを感じます。
(参考記事:Temu宣布全新竞价模式,卖家盈利难度倍增

ちなみにTemuは、「Team Up, Price Down(一緒に買うと安くなる)」を意味して名付けられた言葉。

「一緒に買う」と聞くと、シェア買いや共同購入を想定されるかもしれませんが、どちらかというと「安くするために友達をアプリに招待しよう!」という意味が強いように感じます。Temuのアプリを触っていると、「Invite Friends(友達招待)」の導線が多く、ネットゲーミフィケーションでサービスの拡散がされていくことを意識しているような気がします。米国版のTemuには「フリーギフトコーナー」と呼ばれるものがあり、ここから好きな商品を選び、配送情報などを入力します。「これらの商品を無料でもらうためには友達5人招待しよう!」というポップアップにある通り、新たに自分の友人をお客さんとしてTemuに呼び込むことで、実際に商品が無料で送付される仕組みです。このような機能をうまく使うことで、Temuはユーザー数を加速度的に伸ばしていっています。

好きな商品5つ、友達を招待することで無料でゲットできる

では、Temuは果たして儲かっているのか?

儲けをみる前に、まずは一旦GMV(流通取引総額)から。
直近の数字でいうと、2023年4月では6億ドル、2023年5月6.35億ドルと順調に伸ばしていっていると言われており、今後は、ブラックフライデーの効果もあり、2023年中に年間GMV目標である100億米ドルを達成する見込みとも報道されています。
一方、一部の報道によるとSHEINのGMVは創業14年目の2022年で約300億ドルと、Temuの規模はSHEINには及ばないものの、成長の勢いはそれ以上であることがわかります。

しかしこれはあくまで流通取引総額。儲けの部分はというと、実際には流通取引量が上がれば上がるほど、赤字を出している状態です。
とある中国での記事によると、Temuは米国市場に参入するために、1回の注文につき平均30ドルの損失を出しているとも言われています。

つまりは、全体で大赤字。
今は規模を拡大するためにあえて赤字で進めているとはいえ、どこかでユニットエコノミクスを合わせていく必要が生まれてきます。

日本で、そして世界で成功するのか?

これは、現在の私の見解だと五分五分ではないかと考えています。

まずは、うまくいくと思う方の理由から。
Temuの商品は安さを重視するあまり、日本人の求める高い品質には及ばないものが正直多いです。しかし一定品質に問題があるといえども、同様に品質に若干問題を抱えるSHEINが少しずつ日本で受け入れられてきたように、やはり「安さは正義」で、ユーザーは段々と増えていき、また作り手側自身も繰り返し製品の製造販売を行うことで慣れていき、品質自体も段々と向上していくのではないかと思います。

日本ではリリース前から上記のようなTweetが出回っており、こういうネガティブな意見に対して、レピュテーションリスクを管理できるのか、それでも安さは裏切らないと思うお客様が多いのかも気になるところです。

一方、難しいのではないかと思う理由は、企業経営的な目線からのものです。これは日本市場だけでなく、世界市場におけるものですが、先ほどもお話しした通りTemuは巨大な赤字排出企業。今後どうやってエコノミクスを合わせていくのかは未だ設計途中であると見受けられます。

今のビジネスモデルのままエコノミクスを合わせていくためには、(Temu側が割引をする必要がないほど)実際に安い商品をつくり、送料も安く届ける必要があります。商品を中国から世界各国に届けるとなると、海外運輸や倉庫も関係してきます。
今後も投資を続けながら世界で競争力が持てる仕組みやパートナーの特定がある程度見えてきた時点で、Temuは商品を自社ブランド化していくのではないでしょうか。そこが完成して初めて、費用回収を開始する体制が整う。これはまさに、同じく圧倒的な安さを武器にするSHEINが今やっている方法です。
今の巨大な赤字は、サプライチェーンを作り上げるための投資金額で、これが出来上がって初めて利益を手にする。Pinduoduoという巨大な親会社がいるからこそできる賭け方なのだと思います。

早速Temuで商品を購入してみました

以上、現時点でのTemuに関する私の考察でした。
今後も自社サービスへのヒントを探し、中国そして世界のアプリを研究していきます。本noteへの感想や、これについて聞きたいなどありましたら、TwitterのDMや、HPの窓口までご連絡いただければ幸いです。

Twitter:https://twitter.com/mompyyy

株式会社カウシェ:https://about.kauche.com/

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