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一線を越える 4


「おはようございます!!」

ぼくは『辻崎』の表札のかかった家の玄関前にいる。モモちゃんは朝寝坊の上にマイペースな子だから、朝ぼくがお家に寄っても間に合うように出てくることの方が少ない。最近はぶっそうだから登下校は出来るだけみんなでするように。って大人たちから何遍も言われているのに。
「先行ってくださーい!」
ほらね。今日も間に合わない。でもぼくは待ってあげる。集合時間までもう少し時間があるからね。ぼくは優しいからさ、人生2周目の余裕だよ。
辻崎家の玄関脇のガードレールに腰をかけて、高くて青い青い空を見上げる。風があるけど、今日も暖かくて良いお天気。道沿いのここに、座って空を見上げていると、ふと何か思い出しそうな気がする事がある。目をつぶってじっとして、頬っぺたに風が吹き付けるのを感じる。
5分くらい待つと、遠くから喫茶店みたいなカランコロンが聞こえた。これが聞こえると、モモちゃんが出てくるまで、もうちょっとだ。モモちゃんちはリビングを『おうちカフェ』と称している。ご飯を楽しく食べる工夫だそうだ。モモちゃんのおじいちゃんが旅行で買ってきた、まるで喫茶店にあるみたいなドアベルまで出入口に付けて、本当の喫茶店みたいにしている。辻崎家で唯一、あのリビング(おうちカフェ)の雰囲気に全く馴染んでいない、強面でゴツイおじさんが、手書き風カフェメニュー表を覗き込む珍妙な姿を思い浮かべた。ハードボイルドゴリラおうちカフェへ行くの巻だな、ぼくはあまりのギャップにニヤついた。
トタトタと足音をたてて、モモちゃんが「お待たせ!」と玄関から飛び出てきた。髪に寝癖をつけたまま、悪びれもせずニコニコしている。この顔だよ。ぼくはこのニコニコの顔を見ると、(今日は10分くらい待たされていたけど)待たされてて腹が立っててもまぁ許すか。と思っちゃうんだよな。このニコニコに負けちゃう人はきっとぼくだけじゃないと思う。モモちゃんはマイペースだけど憎めないやつなんだ。頬っぺたにパンくず付いてるよ。
「行こっか!」と、モモちゃんはいつも通りにニコニコしながら、片手に漫画本を持ち、元気に踏み出す。
モモちゃん今日も漫画本読みながら登校するつもり?よく真っ直ぐに歩けるよね。

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