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一線を越える 3


暖かく麗らかな良い天気だった。私は外履きのサンダルのままで一本道を歩いている。土の道の両脇には野花が咲き、そよそよと頬に吹きかかる柔らかい風が野花と私を優しく撫でる。とても心地よく暖かい。何も被っていない頭の上からはポカポカと日差しを感じる。
道の片側は私の目線程の高さの斜面になっており、それは川の堤防になっている。堤防すぐ向こうは川で、満々と水をたたえた水面が時折キラっと光って見える。前後の一本道に沿って川の堤防がずっと続いている。私は堤防に沿った一本道を歩いているのだった。
しばらく歩いていると進行方向に人影が見える。
遠目にはおじいさんかおばあさんか分からないが、かなりのお年寄りのようだ。その人は道沿いの堤防の斜面に向かって座り込み、片手をつきだして何かしている。一歩づつ近づくにつれて、その様子がだんだんと見えてくる。その人は神妙な顔で斜面に向かい、片手の人差し指を斜面に突き刺していた。私がその片手の状態に気づくと同時に、その人は神妙なままの顔をこちらに向ける。近づいてもやはり、おじいさんかおばあさんかは分からなかった。
その人は私を見るなり言った。
「ちょっと代わってくれないか?」

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