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緊迫の首都攻防戦を描いた映画「ソウルの春」

 8月24日に広島バルト11で映画「ソウルの春」を見ました。
 1979年に起きたクーデターを描くこの作品、韓国陸軍内の派閥抗争から政権簒奪に向かう殺伐としたストーリーなのですが、それ故に緊迫感が続き142分と長めの作品でありながら中だるみが無い作品でしたね。
 どっちが先にソウルを手中に収めるのかを争い、その為に軍人同士による取り込みや心理戦を展開する。クーデターを鎮圧する側の「誰が敵ではないのか?」と言う緊張感が分かるのもまた良い。
 ミリタリー好きや歴史好きでは無くても自身が危うくなるとどう心境が変わるか、変わらないか人の信念と打算・保身に登場人物達が動くか群像劇として凄く楽しめました。終始殺伐としていますが見た充実感は凄くある傑作でしたね。

ストーリーの概要

ファン・ジョンミン演じる保安司令官チョン・ドゥグァン



 この「ソウルの春」は保安司令部の司令官であるチョン・ドゥグァン(史実はチョン・ドゥファン)がハナ会と言う自分の派閥を大きくさせ韓国陸軍内で台頭していた。パク・チョンヒ大統領暗殺事件の捜査では無関係の人をも捕まえ拷問をして職権を乱用し、大統領不在の状況で国家の指導者みたいに官僚達とも会議をするようになるドゥグァンに陸軍参謀総長チョン・サンホ(史実ではチョン・スンファ)は警戒する。

チョン・ウソン演じる首都警備司令官のイ・テシン


 そこでサンホはドゥグァンを東海岸防衛の司令官にして、首都ソウルから遠ざける人事を行う。ハナ会のメンバーも同じように異動させられハナ会はその勢いを失おうとしていた。
 だがドゥグァンは諦めない。ハナ会でサンホを大統領暗殺の容疑をかけて逮捕する強硬手段に出る。このドゥグァンの暴発を首都警備司令官のイ・テシン(史実ではチャン・テワン)が阻止しようとするのが大筋のストーリーです。

騒乱は拡大する

イ・ソンミン演じる陸軍参謀総長のチョン・サンホ



 「ソウルの春」で描かれる12.12クーデターはハナ会に人事異動で対抗したサンホに罪を被せて逮捕する事から端を発する。サンホを拉致する事は出来たが銃撃戦を引き起こしてしまい異常事態が起きた事が露見してしまう。ドゥグァンはサンホ逮捕を合法的にするべく就任したばかりのチェ大統領へ裁可を求めるが「国防長官と共に来なさい」とドゥグァンの独走である事で裁可のサインをしない。
 上手く行かないドゥグァンの作戦は陸軍本部から最大の非常事態警報である「珍島犬1号」の発令でより追い込まれる。ハナ会の同志達は動揺を見せるがドゥグァンは第2空挺旅団をソウルに呼ぶと決心する。要人同士の争いから兵を動かす内乱に発展する。

参謀総長拉致で憲兵と海兵隊が銃撃戦になってしまう場面


 ソウルを守るテシンはソウル市街に入る為に渡る漢江にかかる橋を封鎖して一般車両の渋滞をも引き起こして第2空挺旅団の進軍を止めようとする。更にテシンが自ら封鎖していない橋に行き、ミン参謀次長の命令もあって第2空挺旅団を引き返させる。
 騒動は拡大するばかりでドゥグァンの勝ち筋が見えない状況が続く。憎たらしい性格で演出されるドゥグァンが困りながらも強気で時には気楽に、または暴力も使い同志達へ指示や決心を伝え苦闘する姿にハラハラとさせられる。

人の動きが歴史を作る


パク・へジュン演じる第9師団の師団長



 陸軍本部や首都警備司令部と争うドゥグァンはハナ会の人脈を使って挽回を図る。ハナ会に属する軍人だけではなく親族にまで呼びかけ、テシンがソウルへの出動を求めた部隊が出動をしない。拡大したハナ会の組織力がここで効く。
 元からテシンの首都警備司令部の指揮下にある部隊がハナ会の影響力が強く、ソウル周辺の部隊も同じだ。まるで徳川家康と内通している諸将を率いて関ケ原を戦う石田三成のようになっているテシン
 テシンは政治に関わらず職務に忠実と言う点でサンホは首都警備司令官に抜擢された。しかしそれはテシン自身の人脈が少ない事を意味する。指揮系統を無視して縦横に広がる人脈で部隊の動きを操るドゥグァンに形勢は有利に傾く。
 ドゥグァンは更に陸軍本部へ電話をかけ、ミンに「第2空挺旅団を退却させるから第8空挺旅団も退却させて欲しい」と求める。ハナ会の影響力が無い第8空挺旅団がソウル防衛に出動していたからだ。
交渉での事態収拾をしたい参謀次長はこの要求を呑み、第8空挺旅団へ退却を命じる。しかし、第2空挺旅団は密かに漢江を渡りソウルへ侵入する。ドゥグァンは約束を破りソウルをとうとう手中に収めてしまう。

                キム・ソンギョン演じる憲兵監のキム・ジュニョプ(壁側)と陸軍参謀総長のミン・ソンベ(メガネの人物)


 必死に各部隊へドゥグァンの行動を阻止しようと呼びかけるテシンやドゥグァンの逮捕や反乱軍鎮圧を陸軍本部で求める憲兵監キム・ジュニョプに、強く反乱軍と戦うべきだと訴え最後まで戦う特殊戦司令官のコン・スヒョクの姿が切ない。
 これとは逆に鎮圧に消極的なのがミン参謀次長や権威を振りかざしながら自分から先に逃げるオ国防長官がテシンなど現場の足を引っ張る高位の人物が見ていて苛立つ存在だ。

 ハナ会の人脈で韓国陸軍はがんじがらめにさせられ、高位の権力者は肝心な時に腰が引けている。そこへドゥグァンが策略でソウルへ兵を入城させる。テシンにとって悪い連鎖が勝敗を決めてしまった。
 上下の権力構造や兵力数と関係なく、人脈と決断が1979年12月12日の闘争に決着をつけた。まさに人がいかに歴史を左右するか分かるのが「ソウルの春」なのです。

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