映画「オッペンハイマー」は原爆への否をどう描いたか?
4月13日(土曜日)にTジョイ東広島で映画「オッペンハイマー」を見ました。
地元である広島県では広島市への原爆が使用された過去から、注目度が高かった作品です。「原爆被害についての描写が少ない」ことが指摘される本作
果たしてどんな内容なのかより、気になっていました。
時間が前後する展開は少し迷うものの、オッペンハイマーの人生を描いた作品として凄い作品だなと思えた。
時系列を並べるのではなく、オッペンハイマーの心境を中心に進む展開はクリストファー・ノーラン監督の作風が十分に生かされたものと言える。
原爆開発と共に、ロバート・オッペンハイマーはどんな人間かと言う作品でしたね。
悲劇を描かない残酷さ
映画「オッペンハイマー」は広島と長崎の原爆投下を直接描かれてはいない。
広島への原爆投下はラジオ放送でオッペンハイマーは知り、長崎については会話の中で触れられる。
この点から批判する向きがあるものの、映画「オッペンハイマー」はオッペンハイマーの見えている世界だけで場面が作られている。
だからトルーマン大統領が原爆投下の実行を許可する場面や、B-29が原爆を搭載して出撃する場面も無い。
だからこそ悲劇が別の意味で演出される。
ユダヤ人の大虐殺になる最終解決の実行を決めたヴァンゼー会議を描いた映画「ヒトラーのための虐殺会議」はナチスドイツの政府高官と親衛隊・国防軍の将校による会議が全編に占められる。
ユダヤ人の姿は出て来ない。
しかし、数字や何らかの利害関係でユダヤ人の存在が示される。
虐殺が会議に出席する責任者の負担になるかどうかが議論された末に決まる。
人道的かどうかは一切問われない。
そこに目に見えない、見ない存在をどんなに酷く扱えるかの残酷さが描かれている。
映画「オッペンハイマー」は原爆の開発成功、広島と長崎への投下した実戦での成功に開発の関係者は喜び、オッペンハイマーへ喝采を送ります。
強力な兵器が完成した事、国家的なプロジェクトを成功させた事を喜ぶ周囲
しかし、オッペンハイマーの心は重い。
広島で撮影された被爆者の写真を見る場面、「縞模様の服を着ていた為に縞模様の火傷ができた」と言う説明があるものの、その写真は作中では見られない。
見ていたオッペンハイマーは顔を背けてしまう。
自分が作った兵器がどんな結果をもたらしたか、それを見続けられない姿
理論物理学の高みに登り、国家プロジェクトの責任者となったオッペンハイマー
開発中も同じ学者達と議論を交わし、自分の世界を極めた先が悲惨な結果となる大量破壊兵器
この現実を原爆を開発した後で後悔する。
自ら開いた新しいエネルギー、新しい兵器である原爆が脅威として存在する時代
オッペンハイマーの心境の変化が、作ってしまった人間の悲劇を物語っていると言える。
原爆をどう否定したのか?
作中、オッペンハイマーは陸軍のグローヴス少将と共に科学者を集めて、原爆開発計画であるマンハッタン計画を進めます。
そんな中でオッペンハイマーの友人であるラビは、物理学を極めた結果が大量破壊兵器になるのかと嘆きます。
オッペンハイマーはそんな兵器をナチスが先に持つべきでは無いと言い、ラビを説得します。
ユダヤ系であるオッペンハイマーにとってナチスへの敵意は強く、原爆開発はナチスに対抗する為だと周囲へも述べています。
しかし、1944年になるとドイツの敗北が確定的になります。
オッペンハイマーはそれでも日本と戦争中であるとして、原爆開発の続行を科学者達へ意思表明をします。
こうしてトリニティ実験を経て開発に成功した原子爆弾
広島と長崎へ投下されます。
戦後の場面でオッペンハイマーはトルーマン大統領へ「私の手は血で濡れている」と原爆開発の罪深さを感じていると言います。
(これに対してトルーマンは原爆投下を決めたのは自分で、恨まれるとしたら投下をした爆撃機のパイロットであると言いオッペンハイマーへ気を遣いますが、「二度とあの泣き虫を呼ぶな」と拒否感を見せる)
戦中は開発に邁進していたオッペンハイマーは、戦後になると原爆への否定的な意見を述べ、水爆開発に反対するようになります。
この事もあって、オッペンハイマーは原爆や原子力の関係者から外され、敵対するソ連に同調する共産主義者としても怪しまれます。
とはいえ、オッペンハイマーは実際の発言でも原爆開発についての後悔はないとしている。では原爆に対してのネガティブさは何なのか?
作中でオッペンハイマーはソ連は科学者と資源があるから原爆開発は可能であると言います。
もはや他国の原爆開発は止められない。
そこでオッペンハイマーはソ連との原爆共同管理を提案します。
却下されるものの、オッペンハイマーは原爆と言う強大な力をコントロールする事、より強力な水爆開発に発展させない、原爆や核兵器の拡大を抑止する方向に向かったのだと思う。
どの国の物理学者なら分かる原爆の仕組み
ドイツが初の核分裂実験を成功させた衝撃を体験したオッペンハイマーにとって、もはや原爆は未知でも立証されていない机上のものでは無くなった。
どの国でも作れる。
その道、核兵器の時代を開いた事がオッペンハイマーにとって原爆へのネガティブな思いではないかと思われる。
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