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詩『愚痴』
恋は突然だというけれど、恋は嵐のようだというけれど、今でも本当にそうなのかい
だとしたら君は嘘つきだ
出会ったそばから僕らは恋に落ちるべきだった、でもそうはならなかった、なぜだろう
それは僕らが互いに嘘をつき合っていたからだ
つく必要がなかった嘘だ、でもその嘘は自然にこぼれ落ちた、避けようのない引力がそこにはあった
束の間の休息を僕たちは楽しんでいたのだろう
見るものがすべて、聴くものがすべて、触れる言葉の一語一語が、新鮮な息吹だった
きみが眠れないというから、僕は我慢できなかった、だけどきみはそれを遠ざけた
きみが死にたいといっても、僕にはどうしようもなかった、ただ夜だけが過ぎていった
これまで隠し持っていたもの、分からず屋の世界から隔離していたもの、君にしか伝えられなかったもの
生きている証がひょっこりと顔を出し、瓜二つの、だけど正反対の顔に目をやった
しばらく安全圏内のキャッチボールが続き、徐々にその距離は縮まっているかに見えた
だけどそのあいだには最初から嘘が流れ込んでいた
溜まりに映る各々の顔を見て、僕らは身震いする
おまえはだれだ、わたしはなんだ
その問いをうちに抱えたまま、再度ボールを握ったが、そこにはもう暗闇しかなかった
それでもなんとか記憶を頼りにボールを投げ合ってみたが、お話にならない
軌道も球筋も投げやりで、あたりはどんどん暗くなっていく
それからまたしても嘘、今度のは意図的で悪意すら感じられるものだった
一貫の終わりだった
僕は取るものも取りあえず逃げ出してしまった、闇の中にひとり君を置き去りにして
最初から最後まで愛なんてなかったのだと人はいう
でも本当にそうだろうか
愛はたしかにあったはずなんだ
ただ僕がそれをだめにしてしまった
君は怖がっていたのかな、人を信じられなくなっていたのかな、それとも初めから欺瞞の匂いを嗅ぎつけていたのかな
なんにせよ僕じゃなくて良かったと、君は思っているかもしれない
あるいは何もかもが、僕が勝手に作り上げた幻想だったのかもしれない
だとしたら救いようがないな
でもまあ、既に終わってしまったことだ、今更とやかく言ったところでもう遅い
恋にすらならない愛がこの世にはあるんだ
不毛な大地をさまよい歩いて、今日も人は恋だの愛だのを叫び続けている
暗がりに忍び寄ろうともせず、そんなんでいったい何を得ようってんだい、馬鹿馬鹿しくて反吐が出る
愛にすらならない恋に価値はない
自分に同情するなよ、なあ、慰めの言葉一つ出てこない僕は卑怯だ
だからせめて、恋にすらならなかった愛が存在したことを伝えよう
それでもう愚痴はおしまい
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