見出し画像

印象に残ったMBAの授業

画像1

あなたは鉱業を営むグローバル企業のCEOに就任した。

その企業が南アフリカに所有する鉱山で死亡事故が多発しているようだ。この鉱山は会社のコアアセットであり経営戦略上、重要な位置を占めている。仮に操業を停止すると売上・利益ともに会社に大きな損害をもたらす。右肩下がりの経営状況に憤怒した株主からは利益引上げのプレッシャーがかけられている。歴代のCEOや取締役も死亡事故をさほど重く受け止めている様子はない。

あなたは「その鉱山を閉鎖するか、それとも操業を続けるか」

それがAnglo Americanのケースで問われた課題でした。

このケースは1学期目で最も印象に残ったクラスのひとつです。それは、意思決定の難しさだけでなく、クラスで人種に関する議論が最も加熱した授業であり、また、自分自身の未熟さを痛感した授業だったからです。

ちなみに、この授業はYouTube(リンクはこちら)でも一部公開されていますので、ブログを読み進めていただく前に1分でも見ていただくと、授業の雰囲気やテーマの難しさが掴めるかもしれません。

予習の段階では、「CEO自身が現場に出向き、フロントの話を聞くとともに現場を見て周り、死亡事故の原因を調査して操業を止めずに改善できないかを探る」程度の回答しか持ち合わせていませんでした(YouTubeでコールドコールされている学生のような状態)。

しかしながら、授業を受けてみると、アフリカの鉱業で働いた経験のあるクラスメイトが、

「南アフリカの失業率は30%超。貧富の格差は激しく、貧しい人は飢餓で死ぬこともある。鉱山で働く人は死と隣り合わせだが、稼いだお金のおかげで家族を露頭に迷わせずに済んでいる。ここで鉱山を閉鎖すると失業状態になる人が増え、鉱山での死亡者は少なくなるが、飢餓により、路上で亡くなる人が増える可能性も高い。だから、私は操業を止めることはしない」

と開口一番に発言をしました。

それを聞き、「それは考えが及んでいなかった点だな。確かに日本と南アフリカでは経済や福祉の状況も大きく違うし、操業を止めないのも一理あるな」と彼女の発言に意見が寄りそうになった瞬間、黒人の友人が

「炭鉱の地下深くで働いている人はすべて黒人だ。この問題は人種に関する問題。もし、白人が炭鉱で働いている場合、同じ結論にはなっていないはず。CEOとしてどのような文化を作りたいか、そのために決断を通じてどのようなメッセージを出すかが重要だ

と新たな論点を出してきました。

ここから議論はアパルトヘイトなどを含めた人種に関する議論に発展していきました。恥ずかしながら、私としては、それまで人種に関する問題を深く考えてこなかったため、クラスメイトの議論についていくのが精いっぱいで、自分の考えの浅さと人種や他国の状況について無知であることを感じることとなりました。

60分の議論のあと、ケースの主人公である元CEOであるCynthia Carroll氏が登場し、彼女がどう判断しアクションを起こしたのかについて説明してくれました(※ケースの主人公がHBSに来訪しケースの舞台裏を話してくれることが多々あります)

詳しい内容はこちらの記事に書かれてありますが、彼女は、問題となっている鉱山を封鎖することを決定します。しかも、他の取締役などに相談することもなく、彼女の一任で決めるのです。

この話を聞いて、

「自分だったら彼女のように、自分の信念に基づいて判断できるだろうか」

「そもそも自分の譲れない信念は何か」

「ひとりですべての責任を負う覚悟はあるだろうか」

という問いが自分の頭の中を駆け巡りました。

彼女の講演後の質疑応答で、ある学生が「どのようにその決断力を養ったのですか?」と質問したところ、「私もMBAにいるときは、このような決断をする胆力はなかったと思う。その後のキャリアで重責を担っているなかで、経験を通じ学んできた」と回答されました。

授業後、いつもの食堂に向かうなかで、クラスメイトのMichaelが「どう思った?」と授業の感想を聞いてきたので「圧倒された。今の自分であの判断ができるだろうかと自問したよ」というと「彼女も言っていたとおり、今はできなくてもしょうがない。でも、あの決断ができるようになるために、僕たちはここで学んでいるんだ」

このとき、なぜHBSがケースメソッドを重視するのか、なぜ教授が学生に難しい問いを投げかけ続けてくるのか、初めて心から納得する形で理解できた気がしました。

ケースという疑似体験ではありますが、学生それぞれがケースの登場人物の立場に立ち、ロジック、信念などに基づき、意思決定をし、それを基に90名の仲間を説得する。

まだまだ、足りない部分が多いですが、この授業での学びを振り返りながら、来学期も必死についていこう、そう思いを新たにしました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?