見出し画像

誰が「美味しい」を殺したか。

矢野経済研究所は、お中元、お歳暮市場は直近の5年間だけでも15%近い下落を予測していた。当店でも、いわゆるGAFAを含む複数の大手IT企業からお中元、お歳暮の受注を毎年頂いているが、今年は注文がなかった。コロナ禍の影響で、このお中元お歳暮需要は予測よりも大きく減少した可能性があると思われる。

画像1

ただ、一方で、お中元/お歳暮市場の急速の減少の一方で、ギフト需要というのは拡大している。矢野経済研究所は、微増としているが現場の肌感として言えることは、もっと急速に伸びている。

画像2

ぐるなびが主催している接待の手土産という企画への参加希望者は多く、かなり参加の条件は厳しい。いわゆるモンドセレクション的な格付けサービスがぐるなびしかないため、贈答市場の強化を狙う会社はぐるなびに集中している構図だと思われる。

図13

お中元/お歳暮関係の商品と、手土産では根本的に別の商品を狙うべきではないかと考えている。ヒントは千疋屋の業態転換にあるのではないかと考えている。

カンブリア宮殿に千疋屋総本店社長の大島博さんが出演されていた。この時に話をされていたのは、果物屋からスイーツ屋に転換しているという話をされていました。年商は1998年~2018年の20年間で5倍の92億円に伸びているそうです。

画像4

以前:消費者は高級志向で、1万円の値札がついていても飛ぶように売れた。

現在:中間所得層にも手が届く価格帯の商品ラインナップを拡充した。フルーツを軸にケーキやスイーツ、ジャム、ゼリーなどの加工品に注力。


この話は消費者の大きなトレンドの変化が隠されているのではないかと思っています。千疋屋の改革がはじまった1998年の時代を考えると、バブルの後遺症に苦しんでいた時期です。1999年は、日産自動車の社長にカルロス・ゴーンが就任すしたタイミングです。外様として日産の社長に就任したカルロス・ゴーンは、既存の取引先をどんどん切っていきました。それまでのように、取引先と関係性を維持することで取引の継続できる時代から、シビアな相見積の世界に変わったことでお中元/お歳暮を取引先の決裁者に送る必要性が薄れたのではないかと思われます。

これは私の推測になりますが、取引先の決裁者の自宅にお歳暮を届ける事で関係性を維持していた時代ではなりつつあった時代ではないかと思います。うちのお中元/お歳暮の配達先も、少しずつ宛先が個人宅から会社にシフトし、配送日も休日から平日に変化し始めた時代でもあります。

また、家族構成も大きな変化が起きます。この30年で4人世帯、5人世帯が激減し、1人世帯、2人世帯が急増しています。サザエさんに見る家族団らんというのは、一般的な家族の姿ではなくなってしまっているというのが日本の平均的な家庭の姿です。カツオとワカメとタラちゃんが並んで食べる、家族の「美味しい」という時代ではなくなりました。

図14

うちの主力商品もわらび餅のような家族でシェアする商品から、大福やどら焼きのような1人分に小分けされた商品の売上が増加してきた時代でもあります。

スイーツ業界でも、変化が現れ、箱売りのシュークリーム販売のHIROTAが急速に業績を悪化させ、1個ずつ販売するビアードパパが爆発的に業績を伸ばしていきました。つまり、1990年代後半から2000年代は家族をターゲットにした商品から個人をターゲットにする商品の時代にトレンドが変わっていきました。

2000年代はポテトアップルタルトのらぽっぽなど家族向けの商品をターゲットにした商品もわずかながらにでていましたが、2010年代になるとBakeの起こしたチーズタルトブームや去年のタピオカドリンクなど個人向けの商品しかヒットしない時代に移行してきています。大家族向けの市場の崩壊というのは、大型スイカの消費の低迷、小型スイカの消費の拡大にも見てる事ができます。

しかし、重要なことは、まだお中元、お歳暮の市場が1.5兆円を超える巨大市場のため、生産者は、このトレンドの明確な変化に気がついていません。未だに家族が揃って食べる「美味しい」を追いかけています。

ただ、時代は他人と食べて「美味しい」を共有する時代に変化してきています。他人と食べるので、同じお皿をシェアするもの、取り分けるものは好まれません。他人に美味しさを伝えるために、写真をシェアします。

近年売上を拡大した企業は、この変化を明確に気がついています。たとえば、都内のスイーツ市場では大手であるバームクーヘンのねんりんやなどは、バームクーヘンを小分けにするという生産者の視点から考えると違和感のあるパッケージングをしています。

画像6

現在も30年前も、人間の「美味しい」という感情は変わっていない。ただ、その美味しいものをシェアする相手が家族から他人になった。だから過剰包装が必要になった。

先日、高校生がお菓子メーカーに過剰包装をやめるようにという署名を行った。

しかし、恐らく平均的な子供のいる家族は4人世帯のはずで、旧来的なサザエさん的な価値観で生きていると推測される。ただ、巨大メーカーであるブルボンは、他人とシェアされる消費実態を知っている。だから、個別包装はやめられない。これが考え方に違いが出た理由なのではないかと思う。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?