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【寄席エッセイ】コーヒーで遊べばいいんだ


コーヒーが好きだ。


酸味がまるでない、ドロドロとした味の苦いヤツ。
フルーティとかそういうのでなく、6Bの鉛筆を削りお湯で溶いたような。苦さの例えね。ドシンと重く。コーヒーを飲んでいるという実感が強いヤツ。



ちょっと前から鼻が通るようになり、食べ物が須らく美味しいと感じるようになってからコーヒーで遊んでいる。



たまたま娘と同じ学校に通っているご近所さんがマキネッタというコーヒーを入れる道具を持っており、ミルでガリガリと豆を削ったと思ったらマキネッタから出てくるエスプレッソ。なんともいえない味わい深い金属の塊から注がれる黒い液体。


「ちょっと苦いかもしれませんが・・・」


差し出されたそれは私が想像していた鉛筆より濃厚。今まで飲んでいた苦くて好きなコーヒーが6B鉛筆だとしたら、これは・・・墨汁・・・?いや、墨汁を作る為の・・・なんていうんだっけあの黒い虎屋の羊羹みたいな・・・ブラックタイガーって名前の・・・それはエビだな・・・とかくあの黒くて四角い墨を作る為の羊羹もどきをペロキャンにしたようなえげつない苦さというか、コクというか。





おいすぃ。





また香りがふわーっと部屋に広がるのもグッドだ。ええ。いいなぁ欲しいなぁ。
家に帰るなり妻に相談。買ってぇ!買ってよぉお!!!買ってぇ!!!いいでしょぉおお!!!


なんて、相談しながら購入ボタンを押していたのは内緒だ。



届いたソレ。使い方が分からなかった。マキネッタ。武骨でかっこいい。


あれ?でも家に豆が無いよ?



我が家はインスタントかOKストアで買うペーパードリップ用しかない。むかーし買った電動ミルはある。つまり豆を買ってきて電動ミルですりつぶせばいいんだな!いいんだよなぁ!!!




会社帰りにKALDIで豆を買う。種類が沢山あってよくわからない。分からないときは一番売れているものを買う。これが転ばぬ先の無花果浣腸Long verってね。




そんなわけで万全の状態。マキネッタ本体と豆だけだったからまぁそこまで金はかかってない(5000円位)家に電動ミルがあってよかったよ。うん。





その金があったら美味しいコーヒー沢山飲めそうなもんだけど、そういうことは気にしたら負けだから。アタシ負けず嫌いだからサ。そういうの良くないと思うんだ。




というわけで買ってきた豆を電動ミルに入れて。パイルダーァァアア!オォォオオン!豆が細かく砕かれ部屋にコーヒーの香りが漂う。そうそう。これだよコレ。こういうのがいいんだよ。


そして砕かれた豆を移す。あれ?うーん。なんかゴミがすごい出てる感じだな。むつかしい。電動ミルってこんな感じなのか?毎回こうだといつもと同じ流れ(買ってすぐ飽きる)になっちまうぞ。それは避けたい。掃除がめんどくさそうだなぁ。



ちょっと嫌な感情がよぎったが、まぁ初めてだからこんなもんだろう。うんうん。
水を入れ、豆をセットし、火にかける。コーヒーの香りが部屋に広がり、憧れのエスプレッソがついにワシの家に。




・・・なんか色薄いな。




一口。うん。美味しくない。いや、不味い。




何故だ?何が悪かった?
電動ミルで砕いてあんな手間をかけて不味いって流行らねえぞコレは!!!



調べると豆の種類も勿論あるが、そもそも電動ミルというのは適しているコーヒーとそうでないものがあるとの事。ちゃんと調べればよかった。

私が使うマキネッタとなればお店で程々に細かくひいてもらうとか、そもそも弾いてあるもの買うとかで良いらしい。あと豆の種類は苦くしたいなら・・・・





等々と先人たちの膨大な知恵でネットは埋め尽くされている。
とにかく私が持っている電動ミルではいまいちな結果は約束されているもののようだ。うーんどうしよう。




というわけで、手動のミルを買っちゃった。




1万円位した。






この金額がばれたら「お前何考えてんだよ。マジで!」と妻に怒られてしまう。合計で15000円位。コーヒー豆ならどれぐらい買えるだろうか。そしてコーヒー、一杯換算だとしても相当に・・・いや、年間15000円もコーヒー飲むか???あれ???


今ならカーズが考えるのを止める理由も分かる。俺は一体・・・何を・・・




………でも趣味の世界ってそんなのばっかりだ。

探している時間、調べている時間、手に入るまでのドキドキ。いつ届くか、まだまだかと待ち続ける心。


実際に手に入れても楽しいのだが、趣味とはその道の途中がエキサイティングでスリリングだ。手に入らなそうな、手に入るような、そんなのを調べるからどこまでも熱中しどこまでも時間を使ってしまう。



実際はマキネッタもミルも買うに至ってはすぐに買ったが、賞味結構調べている。Youtubeもインスタグラムも、レビューサイトも色んなものを見た。



そして苦悩するあの時間。辛くとも楽しい時間。趣味ってのはそういうロマンが・・・




って妻に言ったら足首だけ出た状態で庭に生き埋めだろうなぁ・・・




というわけでミルが届く。コーヒーを擦る。結構楽しい。

綺麗に挽ける。いい香りだ。


マキネッタにセットする・・・





ん!?薄いぞ!!!





というわけでちゃんと深煎りのモノを買わにゃいかんのか…?また豆を???





と思ったのだが、OKのコーヒー粉詰めて煮たらバタクソ苦くてうまいエスプレッソ飲めたので。もう満足。



となると、今手元にあるミルとコーヒー豆が浮いてしまうのだが。


コレは数年前に買ったフレンチプレスで使うとものすごく美味いコーヒー(なんか酸っぱくなりすぎない)ができるのでどうにかなった。







やたらめったらとコーヒー器具を買い、棚のスペースを占有し、かつ電動ミルがお蔵入りになるという事態になってしまった。



マキネッタで入れるエスプレッソみたいなやつは美味しい。
フレンチプレスで入れるコーヒーもペーパーとかインスタントとはまた違う。




コーヒーを擦る時。めんどくさいだろうと妻に言われるが。こういった一見めんどくさそうに見える事を楽しめる心の余裕があるかどうかって凄く大切だと思うのだよ。私は。




そりゃコンビニに行ったり、お店で飲んだ方が楽よ。味は安定しているし。
でもお金って意味(俺は散財したけど)じゃなくて、わざわざ豆をガリガリするとかね。わざわざお湯沸かして抽出するのを眺めたりね。




それを「楽しい」とか「いい香り」なんて考えられるって、オシャレだとかそういうのじゃなくて、心にゆとりが無いと絶対にできないよなぁ。





ある休日。子供達のご飯、トイレと床掃除、片付け、テーブルを拭きながら時計を見る。


一息つくかな。マキネッタを取り出す。



水を入れ、粉を詰め、火にかける。


娘「お父さん、それ何やってんの?」



私「コーヒー淹れてんのよ」



娘「なんか大変じゃない?それ」



私「うーん、めんどくさいねぇ」



娘「なんでめんどくさいのにやってんの?」



私「めんどくさいから、面白いんだよ」




私の言っている言葉は娘にはまだ分からないだろう。私もたまに分からなくなるが。

めんどくさいと思える事を「ただ面白い」と考えられている瞬間。
人から見てどれだけ張りぼてだろうと、私にはコレがイイのだと向き合えている瞬間。そんな時間がもっと増えればいいと思う。そんな時の私は多分人生を最高に楽しめていると思う。



コーヒーは面白い。めんどくさいかもしれないが、最高に楽しい遊びだ。
豊かさとは、そういう心の在り方なのかもしれんなぁ。


馬鹿苦いエスプレッソは今日も美味しい。

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