【寄席エッセイ】胃カメラと嗚咽と涙と 後編
前回のあらすじ。
食道に猛烈な違和感を感じた私はお医者さんに駆け込み胃カメラ宣言を受ける。
胃カメラに良い思い出が無い…なんてことを考えては見たものの、胃カメラに良い思い出がある人に会ったことがない。なんだそれは。グッドメモリーって。麻酔で眠くなって何も辛く無かったなんて人の話は聞いたことあるが、それは良い思い出とかじゃあないだろう。ただの記憶のロスト。もっとこう、宝くじに当たったとか、胃カメラ飲むと毎回ラッキースケベみたいな知性が水面下より低い感じの…
なんてことをフル回想でお送りする全米が息を呑んだ大感動スペクタクルホラー要素満載の全マシカラカラ、あ、追加で生卵下さい。
チャンネルは!そのまま!!!
というわけで、食道の調子はそんなに悪くない。悪くなくなってしまった。
胃カメラは1週間後に決まったにもかかわらず3日も経ったらいつも通りになってしまった。お医者さんに見せる前に症状が落ち着く事ほど気まずいものはない。
例えば骨が折れてて、手術前にピッタリとくっついてたら皮膚切り裂き損じゃないですか。手術代だってバカにならん。
そんな人体の神秘ショーを想像するものの、そうやって「何もないから」「生活に支障がないから」なんて思いほっておいてしまうJAPANの多いことよ。
私の身の回りでそういったことからの手遅れはあんまりいないのだけど、ここでふんどしは締めねばならぬ。やるべき事を最後までやり、毎日に備えるべきだ。体の中身が見えていないのに何もないとはわかるかのか。部下の作った書類を再鑑せずに回して「いつも問題なかったんで大丈夫でしょ」なんていってる人をどう思うか?バチくそ叱られる。中身を見るまで大丈夫かそうじゃないかは分からないものなのだ。
それだけ御託を並べても胃カメラは嫌だけど。
そんなわけでごくごく普通の状態で迎える朝。
書類の指示通り水をコップ二杯飲む。
いざ病院へ。
診察台に座り、レッツパイルダーオン。
とはならない。
胃の中身を見やすくするための液体。
麻酔の液体。
鼻の麻酔の為の太い何か。
穴にカメラと同等のサイズのものを入れて…
なんて準備がある。結構大変なのだ。
看護師さん達は至極丁寧に一つ一つ確認しながらやっ対応してくれる。優しい。
そんな感じでキャッキャ話してたら先生降臨。これからこの人にあんな太いものを穴に入れられると思うと金玉が縮み上がって青紫色になる。ダウナーな気持ちをどう盛り上げよう。否、胃カメラ前に盛り上がってるようなやつはこの世にいない。
私が金玉を青くしていると、看護師さんが「大丈夫ですよ」と背中をさすってくれる。優しい。
「喉を通る時に少し辛いけど、3,2,1で飲み込んでね」
無理ですぅ。なんて返事もできるわけもなく。無言で頷き、静かにインサート@マイタイニーホール。
でも鼻の通りは思ったより痛くない。麻酔が効いてるのかローション的なものが強烈に効いているのか、鼻にペペ入れたらこんな感じなのか?とバカな事を考えていたら喉に到着。
先生が部位を解説しているがここで私がゾンビとなる。
おえええ!!!おえええ!!!
さっきまでおとなしい子犬みたいに横たわっていたのに急にラクーンシティ。ゾンビドッグのお出ましである。何か攻撃的な行動をするでもなく横たわってビクンビクンするだけなことがまたプレイヤーを怖がらせる。恐怖とは暴力のみならず、強烈な非日常だったりするのだ。
ここを通るまでが少し苦しい。スコシクルシイ?そんな令和ポップスの曲タイトルみたいな状況か、これ。かなりきついねんで!めちゃきついねんで!!!
3,2,1というコールアンドレスポンスが始まる。1の後に私が「YEAH!」て言わなきゃいけないのに、それが生ライブの醍醐味だってのに、DVD見返して沢山練習したのに、マイク向けられたら…おぇぇえええ!!!
数回の失敗を経て喉へインサート。2度目だからといって甘くは無かった。
しかしここでオエオエ期は去り強烈な違和感と無限にゲップが出続けるターンが始まる。前より辛く無いぞ。前回は最後までオエオエしてた。
先生が色々と解説してくれている。しかしカメラに注目しようと体に力を入れるのは辛いので、ゾンビ犬は壁を見つめてやり過ごす。看護師さんがずっと背中をさすってくれている。優しい。
食道、胃、あとなんか他。色々。
体のワールドツアーも後少し、このアトラクションもフィニッシュと思いきやトラブル発生。
なんかうまく撮影できねえんだと。
なんでも食道と胃の境のところがガバガバで空気が漏れてしまい、胃のシワシワが伸びなくて撮れないらしい。何度も私はゲップをしていたがあまりにも空気が溜まらないので先生は明らかにおこだった。
「おこだぞ!!!」なんていってくれれば此方も何かするのだが、うまく映らないなぁ…と聞いていて気持ちよくないワードを連発し続ける為此方の心が緩やかにゼロに近づいていく。うまく撮れなかったらまたやりましょうは嫌だ。思ってたよりキツくないが楽ではない。看護師さんがずっと背中さすってくれてるからこれは多分何とか持ち堪えてるだけだ。
ふんーーー!!!
どこに力を入れたら良いのかよく分からんし、ゲップが出ないように我慢するのは良くないと言われたが「ガバガバ野郎」なんて言われたからには此方も黙っておれぬ。私の形相がさらに険しくなり金玉の皺に鬼(オーガ)が出ていたと思う。
すると胃の壁の皺が膨らみ、撮影成功。程なくカメラはスルスルと取り出され終わり。出る時はあんまりオエオエしないんだな。
体の中と鼻と喉に強烈な違和感を残しつつ休憩。あたしは元気そうなので待合室に戻された。棚にあるサザエさんを読み耽る。
呼び出され。結果発表。
先生の「ドラムロールゥ!カモンッ!」の声と共に診察室は虹色のライトとミラーボールそして先生の持つマイクから放たれた言葉は…
ガンはありませんでした。
1番心配していた事は今回は大丈夫だったようだ。ようだが、なんか含みのある言い方だな。
先生曰く。
体質なのか、筋肉が弱いからか、胃の上部が食道の方に来てしまっているとの事でその部分の締まりが悪いとで胃に入ったものがすぐ上がってきてしまう。逆流性食道炎になりやすかったりするからよくないねぇと。何とかかんとかヘルニアという名前を言っていたがヘルニアの部分しか聞き取れ無かった。聞こえない事を何となく頷くのを治したい。治療してくれ。
「ゆるゆるで穴の締まりが悪い、体鍛えなさい」
先生に挿れてもらった結果はソレだった。看護師さんはソレをみながら私の背中をずっとさすってくれた。うん。これ以上ふざけて書くのはやめよう。
今日の胃カメラをまとめるとそんな感じだった。なんか思ってたんと違うアドバイスもらったな。
そんなわけで、胃カメラは終わった。終わった私は毎日腹筋をしている。
悪いところは無かった。無かったが人間いつまでも変わらないという事はないようだ。
当たり前だが衰える。白髪も生えるし、シワもできるし、シミも出来る。筋肉が衰えるという事は疲れやすいとかはやく走れないとかそういう事を想像する。
でも私がちゃんと鍛えろと言われたのはそういうことでは無い。気がする。
体を鍛える事で臓器が正常に働く。
なんとなくは理解できるが、改めて言われるとそこをしっかり考えた事はなかった。
ダイエット。見た目の問題から体を鍛えたりすると効率を追いがちになってしまう。悪いことでは無いか。まぁそうやって人間失敗するんだし、見た目も人によっては大切な要素だしね。わかるよ。私もこんな見た目だけどたまには気にするのよ。
見た目が丸い、体重の数字、腹囲、肌。
そのもっと奥。全ては繋がってはいるのだけど。
私は健康診断引っかからないからなんとなくて運動せず、なんとなくで生きている事で体を使っている。ご飯を食べている。寝ている。
なんとなくで生活していると体は衰える。
それがなんというか、自然の摂理ではあるんだけどね。
でもそれに脳みそが追いついていない感じがする。ええ!?わたしもうそんな感じなの?みたいな。
誰だって元気に生きて、元気に死にたい。
私は衰えるのが嫌というよりも、元気に生きたい。
体を鍛えなくては。
見た目の話ではなく。中身の。内面ではなく。内臓の。最終的には私のために。全部繋がる。
体を鍛えるとは、ムキムキになることでもなく、筋肉が綺麗に見えることでもなく、細い体に憧れるからやるのでもなく、いやそれらも一理あるけど。
臓器がちゃんと動くように。
体がいつまでも元気であるように。
筋肉を動かしておく必要があるのだ。
つまり痩せない!とか言って筋トレ辞めちゃダメなんだな…勉強になったわ…うん。
胃カメラは進歩してたっていうか、施術中ずっと背中さすってくれたおばちゃんの功績がでかい。あれ有料オプションで常設した方がいい。必須。