【寄席エッセイ】鼻うがいでパイルダーオンしてマジンガーZ

味覚が無い。

コロナという病がはやる前から薄々感づいていたのだが、食べ物の味がしない日が時折現れるようになった。

なんでそうなっちゃったか理由はわからない。病院に行ったこともあるがどこも悪いところはなく

「ストレスだね！ちゃんと睡眠とってね！」

というアドバイスにとどまる程度だった。どこも悪いところがないのであれば仕方がないのだけど。

味覚が無い。といっても甘みや塩味、辛さ、苦さなどは感じることができる。食べ物の香りというか、風味というか、そういったことが分からなくなっていたのだ。


まぁこれが結構難儀で、食べ物は舌で感じるものではなく鼻で感じているのだと。なってみるとよくわかる。


鼻自体は呼吸ができるので通っているのだが、喉の上の方というのだろうかそのあたりの神経が
馬鹿になっているのではないか？そこの部分がシャットアウトしてしまっているのだろうか？素人にはそんな予想しかできない。


ので自分の好きな料理、メニュー、外食に至るまで基本的には想像で食べている。

これはこんな感じの味だったよなぁ。と脳みそをフル回転させながら食べるもちろん味はしていないのだけど。


コロナが流行ってから、「味覚異常」が取り上げられてしまったため「味しないんだけど」なんて言うと
感染を疑われてしまうと思い一言も味がしないなんて発せなくなった。

難しい世の中だ。でもそれで家族とかが悪口言われちゃうかもしれない可能性もあったし自分の味覚なんぞさほど問題ではない。


そんなわけで私は味覚が無い。吉野家の牛丼も松屋の牛丼もすき家の牛丼も全部同じ味になってしまった。下手すりゃそれにマックのハンバーガーも追加されるような、違いの判らない大人。


何も分からない大人はとにかく説得力がない。「うまい！」も信用ならないし「まずい！」も信用ならない。信用ゼロ。友達少ないとか相談できる相手がいないとかそんな状況よりよっぽど信用が無い。


え？じゃあ友達少なくて、相談できる人が居なくて、味覚が無くて、お金もない私って・・・ナニ？・・・シャツの汗染みぐらい…黄ばみぐらい無価値じゃない？自分の立ち位置にビックリしたわ。このままじゃお仕事してるみんなに迷惑かかってしまう。

家族だって私の言葉を信じてくれないし、そういえば最近子供が話聞いてくれてない気がしてきた。あれ？味覚関係なくない？


そんな黄ばみマンは信用の回復の為に立ち上がる。

コロナが流行る前からで通算するとおそらく5年以上はこの状況に悩まされているというか受け入れてしまっている。家族と温かい会話をするためにも、味覚を取り戻せ！アタシやるわ！！！


目を付けたのが「鼻うがい」
鼻の奥を洗浄液でビシャビシャにすることで、健康となる。風邪をひきにくくなるそうだ。


いや、こちとら信用を回復しようとしてんのよ。効能の所に「信用うなぎ上り」ぐらいのこと書いてほしいわね全く。


箱の写真のモデルさんは普段だったらお綺麗な方で。ちょっとそこら歩いてたら振り返っちゃうぐらいのべっぴんさんなのに目をかっぴらいて鼻から液体をドッバァー！って出してんの。

こんな奴の信用がうなぎ上りになるとは思えないし、あとこのモデルさん。こんなことやってても美人に見えちゃうなんてほんと素敵なお方なのね。もう・・・



ここで当該製品の液体部分が無いことに気づき、謎哺乳瓶みたいな本体しか手元にない。
仕方がないので水を入れて鼻に突っ込み鼻を洗浄してみる。よいしょ。





「ってぁあああああ！」








なんだ、何が起こった？俺は水を鼻に入れただけなのに、ワサビを鼻の奥に練りこまれたような、からしを粘膜に塗られたような。

というかワサビチューブそのものを鼻の中に突っ込まれて、あと普通に後頭部を殴られたような衝撃。もうなんていうか痛ってえのだ。

半泣きで鼻から水をだらだらこぼしながらちゃんと説明を読むと「付属の液体をお使いください」と書いてある。ごもっとも。でもこんな痛いなんて・・・


鼻たらし黄ばみ男はgoolgle検索に勤しむ。ナニ？普通の水を使ってはいけない？代替品として生理食塩水的なものを・・・。





せいりしょくえんすい。





生理はわかるし、食塩もわかる。あと水も知ってる。でも繋げると途端に意味合いがぼんやりしてくる。どうやって作るんだろう鼻に入れる液体。


とたんにお馬鹿になった私。とりあえず、1％ぐらいの塩水を作って鼻にぶち込めばいいらしい。ふんふんなるほどね。ガッテン承知。

1％ぐらいわかるよ。俺ってば算数得意だったからね。ほんと授業真面目にきいといてよかったわぁ。




生理食塩水は作れるくせに、鼻に真水をブチ混んで「ワサビぃ！！！」とか叫んでる奴は授業真面目に聞けるタイプではないと思うのよ。
マインドを切り替えていそいそと塩水を作り容器にセット。鼻に容器を突っ込み。

パイルダー！オォオン！！！


確か説明書に勢いよくやってはいけないって書いてあった気がしたけど。パイルダーオンした。痛くない。すごいぞ食塩水。液体を全部鼻に通し、表紙のモデルさん位ブシャブシャにしてやった。


さてはて、鼻子の運命やいかに・・・











「・・・うまい」



うまかった。鼻が通って味覚が戻ったとかそういうんじゃなかった。喉の奥に落ち、下にじんわりと広がるまろやかな塩味。なぜだ！うまいぞ！！！

よくよく思い出してみると、妻が調理用に買っていた「伯方の塩」を使って生理食塩水を作っていた。うんめぇ！塩水！塩水ってうまいんだぁあい！！
やっぱり粒がきれいに溶けてるからイガイガした感じがしないし塩味がきつすぎないっていうかな。まろやかだよね。うん。まろみがね。うん。



流行りのフードコーディネーターみたいな気持ちになって感動する私の姿を見た妻は「味じゃあねえだろ。タコ助」とのご指摘。

神からの声を頼りに私は現世に帰ってきた。お帰り、アタシ。・・・いかんいかんこんなことしてる場合ではない。鼻が死んでるだけなんだ。俺は。



すんすんと鼻をやってみると、かすかに匂いがする。キッチンに入ると料理のにおいがするんだぜ。
帰ってきた！二度目のお帰り！たっくさんの料理でお出迎えしてやんよぉ！ヒャッハァー！



と思ったがすぐに閉ざされた世界に戻った。
あれ？なんも感じない。



どうやら鼻うがいとやらは継続的にやらなくてはいけないようだ・・・

ネットの情報をよく読むことにしよう。ナニナニ・・・水よりも40度ぐらいのお湯の方がいいって？

イイと言われたら、イイ方を試したくなるんだよね。人間ってサ。愚かよね。
早速湯を沸かす。わく子が私の鼻を祝福してくれるかのようにグラグラとグララララと湯を沸かしてくれている。


毎日継続って書いてあった気がするけど。数十分に何回もやるものではないって書いてあったけど。アタシ負けない！！！


勝ち負けではないし、情報は正しく読まないとだめだと直前に考えたばかりなような気がしたんだけど。そんなことでくじけないのよ。
アッツアツのお湯を注ぎ、塩を入れる。この塩がまたうめえんだぁ！

・・・ちがうちがうそうじゃない（feat.ラッツ＆スター）うまいんだとしたらよ。なんで鼻から入れる必要があるんだよ。そんな新触感無いだろ。鼻からいくやつ。ふわりでもさくりでもねえよ。ブスリだよ。
いや、ズブリかも。


なんかもう中毒者みたいな気分になってきてしまい、ほどほどに冷めたと思われる容器を手に取る。
うむ、こんなもんだろう。

パイルダァーアアオォオォオン！！！








「・・・っっつッ！」




熱かった。ブレストファイヤーの方だった。
マジンゴーお前何考えてんだよ。そんな人体急所みたいな部分にブレストファイヤーすな。局所ファイヤーすなや。

ゲホゲホしている私は初めての熱湯体験（インノーズホール）に目が星になっていた。

…そういえば最近話題のアニメがそんな感じだった気がする。究極のアイドル。
あいつも鼻うがい、もといブレストファイヤーしているに違いない。やっぱりやること違うね。
うん。見たことないから知らんけど。


ほどほどの熱さだったらこうはならなかったんだろうに、少し落ち着いて効果の程を鼻をぐりぐり触りながら確かめる。








「・・・うまい」


またお前か！伯方！！！どうしてお前はいつも肝心な時にぃ！アタシってばホント、塩☆好きィ




・・・情報過多だ。あとあんまり鼻が通ってない気がする。熱湯を鼻にねじ込んで塩味を堪能する謎プレイになっている。





なにしてんだろおれ。


そんな私を見てあきれを通り越して妻は爆笑している。鼻にものねじ込んで熱がる奴を初めて見たそうだ。私も見たことないよそんな奴。


結果amazonで鼻うがいの粉を買った。水に溶かすやつ。鼻に塩水ぶち込みすぎてちょっと顔面がピリピリしてきてやばいと感じたからだ。塩分怖いねぇ。


ちゃんと鼻が通るように。なるといいな・・・。