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【寄席エッセイ】胃カメラと嗚咽と涙と 前編

食道の調子が悪い。


年齢もええ塩梅に熟れて来ている。こうなってくると昔のように夢や希望を語ることは減ったような気がしてもいる。


別にそれが悪いことなんてことはない。しかし、なんとなく世の中のことをわかったような気がして新しいことに飛び込まないってのはちょっと毎日を停滞させている原因だよなと感じなくもない。



年齢とともに現れる体の不調オンパレード。毎日、世界のどこかでイベントがあるように。毎日、体のどこかに異変が発生する。ワールドマップ・ワタシ。これが老いるということか。イベントが発生するのは刺激にはなるが。日々のメンテナンスを怠っているからこういうことになる。

体とは、積み重ねである。昨日食べたものが即座に私の体に影響を出すことは少ないし、数日経てば何も感じなくなる。
しかし、それらの積み重ねが長い期間をもってどうしようもないところまで来てしまう場合があるのもまた事実。


であれば、可能な限り毎日体にいいもの。っていうか体のこと。自分のことを少し考えてバランスよく食べようとする。


そんな努力ができれば。こんなでっぷりとした体に仕上がっていないだろう。そう思わないか?横から見ると真円だぜ?存在しない形状だぜ?




言うのは簡単だが、積み重ねるのは難しい。パッと思いついて言うのは簡単だが、毎日一言声に出し続けるのすら難しい。

毎日寝るように、毎日歯を磨くように。何かを体に馴染ませて生活とするのには長い時間がかかる。



で。食道の調子が悪い。なんか食べ物を食べても下に降りていかないで、食道のところでメシ達がサスケに出てくるアトラクション的な感じで両手両足を突っ張っているような感じ。


「今年のサスケは!!!なんと食道で行われます!」司会の熱い声が聞こえてくる。迷惑だ。ここでサスケが繰り広げられるのは。私の体は仕上がっていないが、食道で詰まってる奴らは仕上がっているようで、非常に胸の支えというか、不快感がゴイスー。昔は単純にアトラクションだけだったから脳みそ空っぽで見られたんだけど。最近は人間ドラマがなんか多くて「人の紹介しか聞いてない」って感じがしてチャンネル変えちゃうんだよねぇ。


これが老いるってことだと思う。人の話を聞いてられないんだ。わしゃ。



2、3日すればなるでしょって若者は考えるんだろうが、こちとら壊れかけのレィディオなわけだから、「違和感」の時点で病はなるべく潰しておきたい。仮に病院で調べてもらって「何もなかった」だとしても私は満足だ。何もないなら病院にくんじゃねえよ!と思われてそうで申し訳ないのであるが。


そんなわけで近所の内科へ。事情を説明がてら「私と食道とサスケ」というタイトルの物語を小一時間程伝えると



「胃カメラだねぇ」

お医者さんはそう私に宣告する。



だー。胃カメラ。アレか。



私は今までに胃カメラを一度だけ経験している。20代半ばという遠い記憶ではあるもののアレは今でも体が覚えている。ピロリ菌検査関係で確かやったんだけど。


まぁ胃カメラって辛いのよね。



「鼻から入れるから辛くないよ」と誰が考えたんだよと思わせるほどの拷問具合。アレが辛くないって何。人生経験がどれだけ分厚ければアレを「へでもない」と感じられるのか。厚みが違いすぎる。匂いを嗅いだだけで「鬼殺隊最強」と思わせるほどの凄みが無いと。むしろ「アレを辛いなんていうなんてアンタの人生経験www薄すぎwww」みたいな煽りが書いてあるって捉えればよかったのか?それはなんのために?誰か得するのか?その考え方?ああん!?



むしろアレで喉の方が辛かったら、喉やった時私の体どうなっちゃうのよって感じ。四肢が爆散すんじゃねえかな。冗談じゃなく。




喉と鼻奥の麻酔みたいなのをさっと終わらせて、カメラを鼻からパイルダーオンし続けるわけなんだけど。胃カメラってそうやって書くとシンプルゥ。


喉を通る時が結構辛いんですよ。おええぇってなるから。そこ超えたら賢者タイムですよ。ってお医者さんはみんなそういうんだワン。そこだけ辛いふうにいうんだワン。



で、鼻からパイルダーオンしてどんどんカメラ入ってくんだけど。お医者さんの説明の「喉超えたら楽」が全然楽にならなくて。ずーっと体がビクンビクンしておええぇぇ!!!おえええぇぇえええ!ってパイルダーオンし続けてたんですよ。私。


「はーい、今食道に入りましたよ」→「おえええぇ!!!」


「この部分みえますかぁ?」→「おえええぇぇ!!!」


みたいな。



テンションの高いバイオハザードのゾンビみたいな返事しかできなかったんですよ。だって辛いんだもん。


んで、ずっと元気なゾンビの真似し続けたもんだから、先生も反応しなくなっちゃって。まぁ声かけても「おええ!」だからハイかイイエかわかんないもんね。そりゃ先生も淡々と仕事こなすわよ。


また当時の先生がキツめのスレンダー系美人だったもんだから、なんか私の偏見で言うところのドS全開!!!みたいな感じに見えてね。絵面が。俯瞰で見たときにプレイに見えたと思うよ。実際。アタシに鼻フック決まってたらもうアウトだったね。


でも私は痛めつけで興奮できるレベルまで達することができていないのでそこで恍惚の表情を浮かべることはできなかった。オエオエ一本のネタでやっているえづき芸人だった。当時にそんなものは無かったが、tiktokで流してたらバズってたと思う。「ずっとオエオエ言い続けてるwwww」みたいなゲロミームが・・・



なんて記憶しかない。胃カメラ。



しかし、悪いところを見つけようとするのはやっぱり胃カメラなんだと言う話は聞いたことがある。
毎年定期的にバリウムをやっていたとしても、わからないことがある。胃カメラの方が詳しく見られるんだと。

うーん。いやだなぁ。でもまぁやるしかないよなぁ・・・


私が受けた胃カメラから時代は流れた。令和のテクノロジーを持ってすれば。きっと。稲庭うどんじゃなくて、ひやむぎぐらいの細さのカメラでちょいちょいとやれるに決まってる。技術の進歩を侮ってはいけない。

そういうことを思っていたら、先日子供が受けていた水いぼの治療光景が目に浮かぶ。

私が小さい時、ピンセットで皮膚を摘み捻じ切るという大泣き悶絶する痛みを伴う原始治療だった。それを経験してから数十年。一体治療はどうなっている?レーザーで焼くのか?それともスーパー軟膏でも生まれてんのか?と思ったらピンセット出てきた。全く治療方法が変わっておらず、娘は大泣き。3日くらい口を聞いてくれなかったんだワン。実際ピンセットもった看護師さん出てきた時点で俺は膝から崩れ落ちてたよ。あれいってえんだよ。


医療の進歩は凄まじいのだろうが、受付がどれだけキャッシュレスになって、マイナンバーカードかざして受付されても、オエオエって進歩してない可能性は非常に高い。そんな気がしてきたぞ。あれはいやじゃ。新しい技術には金もかかるし時間もかかるのは仕方のないことだけど。受付現金でいいからそっちにお金注ぎ込めないかしらぁあん!?


なんて、相手の事情もわからず余計なことを考えてしまった。いかんいかん。でもまぁカメラが少しでも小型化と言うか、色々変わっている可能性だってゼロじゃないだろう。

診察日を決め、私がハイテンションゾンビになる日が決まった。この病院の人たちはあのえづきに耐えられるのだろうか。うるせえとか言って頭叩かれそうな気がする。お医者さんが俺の鼻の穴にカメラを入れる時「パイルダーァアア!オォオオン!」って言ってくれたら嬉しいな。施術中のBGMはマジンガーZがいいなぁ。



というわけで、胃カメラを飲んできます。


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